表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/30

真夜中の煩悶

 俺は眠れない夜を過ごした。

 加藤の唇の感触を思い出すたびに、心がわさわさと騒いで、脳みそが熱をもったように熱にうなされた。それは性的な興奮でもあったし、未知の領域に触れたことの驚きでもあった。

 だが、同時に、俺の胸に居座る罪悪感が目を醒まし、ニヤついてんじゃねぇと俺を蹴飛ばす。

 俺は経験がないから、心のこもったキスというものがどんなものか、知らない。隆太辺りが自慢するように、舌を入れればいいというものではないだろう。現に、加藤は違った。

 知らないはずなのに、わかってしまうことがある。加藤のキスも、そうだ。

 彼女の唇には心がこもっていた。

 俺には誠意があったか? 気持ちが入っていたか? 興奮して頭真っ白状態で、その瞬間には罪悪感からなにから忘れて、無我夢中だった気がする。

 嘘で塗り固めたくちづけ。

 そんなものに、心をうきうきさせるような価値が、あるはずがない。

 加藤の心を受け止められるだけの価値が、俺にはない。

 考えていくうちに、気持ちはどんどん下降していき、深夜過ぎる頃には、自分に対する嫌悪感に沈み込んだ。

 違うことを考えようとして、そうだバンドはどうするのだ、と一人で解決できるわけない難問を思いついた時、ポンとあかねの顔が頭に浮かんだ。

 あかねの唇も、あんなに柔らかいんだろうか? あんなに甘いのか?

 甘いと言う以外形容のしようがない、不可思議な感覚だった。匂いか、それとも味か? 思い出そうとして、気付いたら夢想の中には加藤の代わりにあかねがいて、頭をかきむしった。

 だいたい、なんなんだよ、奈美ちゃん、話が違うじゃないか、と八つ当たりしようとして、ふと我に返った。

 加藤の結論は、別れた方がいい、だった。

 なのに俺は、絆を深めるようなイベントをやっちまった。

 なんで別れた方がいいのか、今だにわからない。それが加藤のためなのか? たしかに俺は嘘の上塗りを繰り返しているのだから、彼女に失礼だ。こんな屑ヤローと付き合ったって、いいことはない。時間の無駄だ。だが。

 彼女は俺が好きなんだよな? 理解できない感情だが、それはおそらく、俺がウソとデタラメで偽装しているからだろう。玉ねぎを剥いてくみたいに偽装を剥がしていけば、取るに足らない気弱でリズム音痴のドラマーが残るだけだ。

 本当の俺を見せれば、加藤は愛想つかすだろう。もっとも、俺は、自分の弱さをさらけ出すなんて、絶対にできないけど。

 それにしても、なぜ俺なんだろう? 俺よりいい男はぞろぞろいる。逆に、俺よりひどい男は少ないに違いない。

 今までいくども考え答えの見出せなかった疑問が、頭に満ち満ちた。

 俺のどこがいい? 

 臆病で、卑怯で、頭は悪い。やることなすこと全て裏目に出て、ギャンブルじゃ最弱、私生活じゃ後悔と悔恨の連続、学校までやめる羽目になった。

 奈美など、聡一の将来を買ったと豪語していたが、俺には買える将来などない。どうせ適当に生きていくのだろう。たとえば・・・・・・

 たとえば・・・・・・?

 呆然となった。

 本当に、なにも、ない。

 学校に通っていた時は、漠然とだがわかっていた将来。適当に卒業し、適当に就職し、適当に結婚し・・・・・・

 わかっていた? いや、違う。考えていなかっただけ。考えずにいてすんだのだ。だから、すべて「適当」 で誤魔化していた。

 だが、今、俺の前には高校という揺りかごがない。三年間を保障する敷かれたレールが、存在しない。今この時点から、俺の選択は始まってしまっている。

 俺は二年半の期間をすっ飛ばして、ほとんど想像もしていなかった将来という時間に、今、立っているのだ。

 そして、ここから先が、なにもない。

 高校中退して、それで、なにをやる? なにができる?

 進路指導もなく、就職の斡旋もなく、相談できる人もいない。中退したコゾー一人になにができる?

 後からじわじわ襲ってきたのは、恐怖と不安と、絶望的な闇の色だった。

 友人を殺し、恋人を欺き、己れを誤魔化して平然と生きる愚か者。そんな男に、なにができるというのだ。

 自分かわいさに心を隠す臆病者。傷つきたくないがために思いやりを見せる詐欺師。弱者と見られたくないがために喧嘩してみせ、その実いつも怯えている弱虫。

 そんな男に・・・・・・

 明日から先の未来が見えない。無明の漆黒は、突然、俺の眼前に立ちふさがった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ