もしくは人生最悪の夏休み
彼女と二人でいるとき、俺の心が安らいでいたのは確かだ。
だが、一人になった時――彼女の背中を見送った時や、彼女からの電話を切る時、夜中に目が覚めて動きのトロい扇風機を蹴飛ばした時。
俺は、ひどくむなしくなる。
体の中から、俺を責める声が聞こえる。たぶん叫んでいるのは、風船だ。
それでいいのか、加藤に悪いと思わないのか、お前は自分の責任を果たしていないじゃないか。
責任? なんだ、責任って?
答えは知っている。だが、俺は知らないと無視し続けた。
すると風船は膨らむ。俺の胸を、内側から破壊しようと巨大化していく。
苦しくて眠れず、父の酒をかっぱらって酔った。
今度は別の、胸の内で違う声が聞こえてくる。
女といちゃついて、いい気なものだ。聡一の死には、お前にも責任があるっていうのに。あの時、もっといい方法があったんじゃないのか? と。
退学がなければ退学記念パーティーもなく、飲み会がなければ聡一は死ななかった。
その元々の退学を、なんとか回避できなかったのか。
署名集めではなく、もっと別の方法があったかもしれない。あるいは、俺が署名なんて集めたせいで、処分が重くなったのかもしれない。
聡一の死からこっち、ずっと心の奥に沈みこみ、時折り思い出したように浮き上がってきて、俺を責める自分の声。
頭が悪く、能がない自分を知っているくせに、下手に浅知恵を弄した愚かさ。
ますます眠りは遠くなる。
いっそ死んでしまえれば、ラクだ。
ふと、そう思ってしまった時、俺は、とてつもなく巨大な穴の深遠を、ふと覗いたような気がした。漆黒の底で、聡一が気味の悪い笑みを浮かべているのを想像して、ゾッとした。