初恋の人と地獄に行きます♪
僕は高崎亮。小学5年生だ。
学校ではまあまあ楽しく過ごしているけれど、家に帰ると孤独になる。
お父さんもお母さんも仕事が忙しいらしく、帰ってくるのは早くて午後10時。
僕は、あまり二人の顔を見ることもない。
クリスマスに欲しい物を言えば、枕元に置いておいてくれる。
サンタさんからではなく、両親からだ。
僕の両親は合理主義……らしくわざわざ嘘をつくことに意味を感じないらしい。
友だちは家でケーキを家族で食べたとか、サンタさんがプレゼントをくれたとか言っているけれど、僕はいつも一人でご飯を食べて朝にプレゼントを開けるだけ。
クリスマスは、欲しいものが一つ増えるだけの日だった。
誕生日も、同じだ。
僕のお父さんは医者で、お母さんはモデルらしい。
お父さんも結構格好いいので、僕もそれなりの見た目をしている。
そのうえお金もあるので、僕は女子から人気があった。
僕も自分に引っ付いてくる女子を拒まなかった。
家に帰ると一人きりだから、寂しかったから。
メールをくれたら、嬉しくなってすぐに返信をする。
それが女子の間で広まったのか、家に帰るとメールばかりだ。
そんな時に、僕は彼女と出会った。
その日は、僕の誕生日だった。
***
誰もいない4LDKのマンションの部屋で、僕は一人でシャワーを浴びる。
体を拭いてパジャマを身につけ、別に面白くもないテレビを見にリビングに行く。
静かなのが嫌だから、テレビをつけているだけだ。
だが、その日はテレビをつける必要はなかった。
リビングに、女の人がいたのだ。
僕よりすごく年上の女性。大人の女性の年齢はよく分からないけど、お母さんよりは若いみたい。
何か苦しいのか、顔を歪ませている。
スマートフォンにはラインのメッセージがいくつか届いていたけれど、僕は目の前の女の人に釘付けになった。
「どうしたんですか?体調でも悪いんですか?」
僕がそう声をかけると、その女の人は驚いたような表情を浮かべた。
「……私が、見えるの?」
「そりゃ見えますよ。ここにいるんだから」
そうして、もう一度声をかける。
「体調が悪いのなら、薬はたくさんありますよ。僕のお父さんは医者だから」
そう言った途端、その女の人の口は大きく裂けて眼が血走り、憎しみに満ちた表情になった。
血走った眼からは、涙がこぼれている。
その涙を見ていると、僕も悲しくなった。
クラスメイトが当たり前のように話している家族の温かさを、僕は知らない。
誕生日だからと早く帰って来てくれるお母さん、どうしても抜けられなくて夜9時に帰って来て怒られるお父さん。
僕は、そんな家族を知らない。
だって、今日は僕の誕生日なのに。
今、僕のそばに居てくれるのはこの人だけだった。
僕は、泣きながらその人にすがり付いた。
「うわああぁああああぁぁぁぁん!」
その女の人は、びっくりしたような顔で僕を見つめた。
その後、僕を抱き締めてくれた。
その人の手は、とても冷たかった。
抱き締められている時も、凍えそうだった。
「暖房、つけてもいい?」
僕がそう言うと、その人は優しく微笑んでくれた。
その人に抱き締められていると、僕はとても温かい気持ちになれた。
寒いけど。
***
その日から、その女の人は毎日現れた。
僕はその人に甘え、とても楽しい日々を過ごした。
クラスの女子からのメールにも、返信しなくなっていた。
僕は、その女の人との時間の方が大事だった。
僕は、間違いなくその人のことが好きだった。
僕の初恋の人だった。
ずっとその人と一緒にいたいと思った。
「お姉さん、僕はお姉さんが好き」
小学生の僕は、大人のお姉さんに甘えた。
好きなのは本心だけど、クラスメイトの女子に言うのとは重さが違うことは分かっている。
子供の戯言だと受け止められるのだろう、と思いながら、僕は本心を告げた。
その言葉を聞いたお姉さんは、なぜか少し悲しそうな顔をした。
子供の戯言を茶化すようなことはせず、真剣に受け止めてくれたような気がした。
それは、とても誠実な態度に思えた。
そして、僕はとても間抜けなことに気付いた。
大好きなお姉さんに、今さらながらの問いを向ける。
「お姉さん、名前を教えて」
お姉さんは、もっと悲しそうな顔になった。
お姉さんは僕を強く抱きしめ、耳元でささやいた。
「ありがとう、ごめんなさい」
その次の日、珍しく父が家にいた。
ずっとテレビを見ていた。
マンションの一室から首つり死体が見つかった、というニュースだった。
その死体は、僕の初恋の人だった。
***
僕は、20歳になった。
言い寄ってくる女性はいたが、僕には好きな人がいる。
父が弄んで捨てた人。
自ら死を選び、恨みを持って成仏できずにいた人。
あの日から、お姉さんは姿を見せてくれなくなった。
もしかすると、それはお姉さんの優しさなのかもしれない。
でも、だからこそ、僕は許せなかった。
何事もなかったかのように、医師会で出世をする父。
子供だけでなく、お姉さんも踏みつけにして。
20歳の誕生日の数日前、僕はケーキを二つ予約した。
姿を見せてくれなくなったお姉さんの名前を、書いてもらった。
誕生日当日、僕は二つのケーキを並べてハッピーバースデーの歌を歌った。
日付が変わり、父が帰ってきた。
その父に向かって、僕は包丁を振り下ろす。
驚愕の表情のまま冷たくなった父を見下ろす僕の前に、お姉さんが泣きながら姿を現した。
「どうして!?」
お姉さんの声を聞くのは二度目だけど、いつも悲しそうだ。
あの男の子供だから、仕方ないのだろうか。
「僕は、君が好きだから」
もう子供ではない僕が、本心をお姉さんに告げた。
父は、不誠実にあなたを踏みにじった。
でも、僕は誠実にあなたを想い続けている。
いや、父と比べて欲しくなんかない。
僕は、ただずっと君が好きだったんだ。
「君と、一緒にいたい」
そう言って、僕は全てをお姉さんの前に投げ出す。
お姉さんは、一瞬悲しそうな顔をした。
でも、僕に後悔はない。
「これでも、結構モテるんだよ。だけど、僕にはあなたしかいないんだ」
そう言って、僕は父を刺した包丁を首にあてがう。
その手に力を入れようとする寸前、お姉さんは僕に口づけをした。
「本当に、いいの?」
僕が頷くと、お姉さんは僕の魂を吸いだした。
そして、僕とお姉さんは一緒に地獄に向かった。
自殺をしたお姉さんも、父を殺した僕も、天国に行く資格はない。
それでも、僕たちは手を繋いで一緒にいた。
父は、一人で責め苦にあえいでいる。
初めて短編を書いてみました。




