第8話 残留思念的幽霊論
<第8話>
そして、霊界のお仕事、恒星人の太陽でのお仕事を2週間くらいみっちり研修期間積まされた感じ。
なんか2週間が2ヶ月くらいあったように思えてしまう。
この研修時間は現実の肉体時間で言うと数分とかの話なので、ほぼ現実の仕事や生活には影響はないのだが、精神的に疲れる。
よく考えると俺に何の得があるのか。
給料とか出るのか、とアーレンに聞くと、
「今よりも記録、ダウンロード容量と電流と電圧を持った生体情報を得ることができます」
と嬉しそうに言うが。
「それさ、俺がもらってなんか意味あるのか?」
「目覚めた人みたいに、あの世とか世界の仕組みを語ってお金儲けできますよ」
「怪しい新興宗教じゃんか。もっとなんかリアルで役立つのかね?」
「いいアイデアとかが降りやすくなるので仕事の役に立つと思います」
「本当か?」
「今後、現実でのお仕事もうまく行っていい人生送れますよ。
ほら、高次元に繋がると人生うまく行く、とかハイヤーセルフにつながると人生がうまく行く、とかそんな本が売れてるじゃないですか」
「それスピリチュアルな人たちの話やろ。俺に関係あるのかね」
「認識力が広くなるので、今まで以上に気遣いができるようになったり、女性に優しくなったりするかもしれませんよ」
「そういうことなら、少し頑張ってもいいかな」
と、一応お金ではないが報酬らしきものをもらえる?ようで。
確かに、この2ヶ月で俺の関わっている案件は成績が良い。
なぜか、同期のメイコやら他の若い女子社員からも今まで以上に良好な視線を感じることがあるが、これはそういうことなのか。
無意識で女性にモテ出したのか。
モテ期到来か!
現実世界でハーレム状態になるんかな。
とかそんなことを考えていた時期もありましたが。
好意と恋愛はまた別というのもわかっているオトナなので、そんな10代が喜びそうな展開にはなりそうにはない。
現実世界には、法律とか大人の良識とかしがらみとか、色々あるのだ。
で、研修中であった俺もついに正式採用?になるらしく。
ある程度現場の仕事を慣れてくると、上司の仕事の方へと連れていかれるわけだが。
死者、幽霊、地磁気に囚われた生体電流に残された記憶情報たちを太陽に連れてきて、死後のバーチャル人生でさせてから恒星人へと変貌させるという、よく考えると本人の意識とか全く関係ない形で地球人から恒星人へと変貌させられているが問題ないのだろうか?
無事恒星人と同じ波長を得てから人は次の段階。
ここから先はアーレンの管轄外、上司さんの仕事になっていくのだとか。
「ここは本来は私たちは関係しないところだけど、上司が見せておいた方がいいって言うから連れていくことになりました」
とアーレンはあまり乗り気ではない様子。
上司上司と言ってるがあのメーテル女史に名前はあるのか?と聞いてみると、
「統括」
と名前でもなんでもない役職で答えてきた
「イチロさんの認識で近い単語として上司と言ってるけれど、個人であり集団であり、個別の意識があまり意味をなさないとこで仕事してる方々なので、見えている個体の氏名についてあまり考えたことありません」
「部署が違う上司が出てきたらなんて呼ぶんだ」
「部署の違う上司、ですね」
「個別の名称がないのか」
「集合体意識ですから」
となんか難しいことを語っているが。
そして、現場の次の仕事を見せられる。
あの世を卒業したあと恒星人として波長、電波の周波数みたいなのが整えられた後の人たちだな。
本人はそのバーチャル人生、無双ハーレム人生中は数百年、数十年過ごしてる気分になってるそうだが、大体は欲望を終了させるのに時間はほぼかからない。まさに一炊の夢か、死後数日で次の段階に進む人がほとんどらしい。
そうなると、地上に500年前の武士の幽霊が残ってるのがあり得ない話になるが?
と聞いてみると、地球の地磁気に記録された情報の一部が稀に残ってしまうことがあり。
それが幽霊として長年認識される場合もあるとか。
強い意識、無念とか後悔とかそんな意識は強い電圧を刻むので地磁気に残像が残ってしまうのだという。
「地縛霊とか言われてるのも、浮遊霊とか言われてるのも私たちからすると同じく情報持って帰る時に生まれたバグです。本体情報は回収してるのですが、地磁気がそれを勝手にコピーして保存する場合がありまして」
風情がないな。
そうなると怪談話とかで出てくる幽霊は地磁気に残された残留思念的なもの、ただのその人物の人生の一部を繰り返すようなティックトックとかみたいな短時間動画情報ということになるのか。
「一部だから回収が面倒なんで、後回しにしがちなのです。そういう情報は回収してもデリートするだけですから。
それでいつもの仕事が忙しくて後回ししてたら数百年経ってたとかそういうことあります。
イチロさんも仕事で、本業にほとんど関係ないミスや仕様は後回しにするでしょう?それと同じですよ」
言われてみれば。
毎日数十万人、数百万人の死者相手に働いてるなら「ちょっと恨んでるくらいの情報が残ってても気にしない」となるのかもしれない。
別に怪談話の場所で人が大量死したりするわけでもないし、呪い殺されるわけでもないのだから。
その残った情報には人に強い影響を与えるほどの力ないのだという。
「なら、憑依されたとか地縛霊が取り憑いてきたとか、それはどういうことなん」
「気のせいでしょう」
「・・・そうなんか。
仮に、その場に残っている残留情報に影響受けるような人は、ティックトックとかの短時間動画を見て政治を、世界を知ったと勘違いする人たちと同じような思考持ってるわけかね」
「影響を受けているので完全に気のせいではないのですが、憑依という現象については否定できます。そもそも情報密度が薄いので生きてる人間の情報を上書きしようとしても弾かれますよ」
「そういうものなのかね。しかし、戦国時代の幽霊は出ても平安の幽霊とか奈良時代の幽霊とかあんま聞かんね」
「さっきも言ったように、後回しにしてるだけで回収してないわけではないので、古い幽霊の一部も順調に回収されていってますから。
あと人口増えたじゃないですか。江戸時代とかからだと一気に数千万人規模で増えてるので、戦国時代くらいのバグには手が回らないんですよ」
そう言ってアーレンは肩をすくめるが、確かに今やるべき案件が多いと、お金にならん案件は後回しにしてしまうもんな。
怪談話の冗談で「なんで戦国時代より前の幽霊は出ないんだろうか」なんてネタがあったけど、理由はこれだったのか。
昔の幽霊は回収されているから出てこない、人口が急激に増えたので、回収作業が間に合ってない。今残ってる幽霊は、面倒なので後回しにされた幽霊たち。
そう考えると別に幽霊に呪われたりしないのではないかと思えてくるが。
いや、生体電流に記録された情報、だな。
色々と霊的な話に理屈がついてくるのでアーレンと仕事してると面白いが、よく考えると俺は仕事のたびに「肉体を元素レベルで崩壊させている」男なので、死に戻りみたいなことしてる気がしないでもない。毎回異なる場所にある元素で構成されているので、生まれた時に得た肉体とは違う元素構成になってるはずだし。
そう考えると、仏教の逸話にある、鬼に手足ちぎられてくっつけられた結果「これは俺なのか」みたいな話になりそうな気が。宝石の国の漫画が頭に浮かぶ。
肉体が毎回元素分解されてるのに、俺は俺なのか?
だんだんと、悟った人の気分がわかってきた。
こいつら恒星人と関わっていくと人間の肉体を持つ状態がいかに儚いものかと感じてしまいそうになる。
諸行無常、物は全て空なり、か。
そんな悟ったことを考えながら上司の部屋に来ると迎えに出てくるのはメーテルのような姿の明るい女性。
「すっかりこちらの仕事に慣れたみたいですねー」
とニコニコしながら語りかけてくるが、アーレンはいつもこの上司の前だと表情が死んでいる。
俺からすると明るく優しそうな雰囲気あるんだけどな。
「無事に試用期間を乗り越えられて私もホッとしました。
もしダメだったら消去しないといけないとこでしたから」
「消去?」
「はい、イチロさんに混じっているアーレンの情報を抜き取るにはイチロさん情報をバラバラにしないといけなかったんですよ。
縦の時間軸と、横の並行した空間軸全てに網の目のように絡んでるから、全部消していく必要があったの。
だから、アーレンと一緒に仕事できないと判断したら、即デリートの予定だったのよねー」
あっさりと怖いことを言う。
「そんな、デリートされたらどうなるんですか」
「この世に存在した情報と、そこに関わる関連情報を他の人の生体電流情報から全て消すから私の仕事としては結構大掛かりになるけれど。
現実的にはイチロという人物が存在したこと自体がないことになるわね。それに情報が残らないので次の再構成の際にも使えないから、いわゆる来世もないってことになるわ」
恐ろしや、誰の記憶にも残らない状態になるはずだったのか。
アーレンがこの上司の前でいつも緊張してるのは、こういう性格知ってるからか。
「だから、おめでとうイチロさん。これからまだ生存できることが確定しました。そのご褒美にもしもイチロさんがデリートされた場合には体験できなかった、生まれ変わりの話をしてあげますね」
ということで、割とこの上司こえーなー、と感じたとこであったが




