第4話 恒星人の上司登場
<第4話>
翌日、一緒に飲みに行った同僚に「昨日UFO見なかった?」と確認したが、当たり前だが飲み過ぎの幻覚だろうと言われる。
まあ、実際はおぼろげなUFOに乗った記憶なのだから怪しさ満点ではあるが。
なんか、酔ってて変な幻覚でも見てたのか、夢と区別つかなくなってただけかな。
と思いつつ、UFOに乗った夢は夢占いで何かいい意味でもあったっけな。
とかネットで調べたりして。
ちなみに、意味は
未知への憧れ、今の生活に変革を求めていて現実逃避の気持ちがある
らしい
ちゃんと夢占いに結果があってびっくりした。
誰がこんな夢占いのデータ集めたんだか。
未知への憧れ、生活への変化を求める、とかは普通にサラリーマンなら考えることだよな。
異世界転生ものとかのジャンルだって、そういう現実逃避したい人間が気を紛らわすために見てるようなもんだろうし。
出張から帰ってきてからは仕事が忙しくなるので、午前中の少しだけ昨日のことに気を取られていたが、経費計算に出張で行ってたとこの新しい現場に送る資材の発注、今後の見積もり、計画など考えて普通に仕事して、少し残業。
と言ってもサービス残業なので賃金は発生しない。タイムカード押した後に残ってるわけで。
別にブラックというわけではなく、昨日、パソコン持ち帰ってて危うくバーに起き忘れたままにしてしまいかけたため、家でやる予定の作業を会社でこなしてただけである。
家でやるか、会社で仕事のノリでそのまま仕上げるか。
労働基準法とか守ってたら仕事は納期までに完了しないのである。
そして、キリがよく終わったのでノートパソコンの電源を切り帰ろうと思った時に同じ部署の上司が出張から帰ってきた。
課長くらいになると、出張で帰りが遅れても会社に一度出てこないといけないんだな。
と昨日、俺たちが直帰できたことにありがたさを感じていると
ほいっと冷凍みかんを一つ手渡された。
「いや、新幹線の中で食べようと思ったが暇がなくてな」
と言いながら、その場にいた数人に無理やり配っていく。
冷凍が半分溶けてる微妙な硬さのミカンもらっても困るのだが。
みんな微妙な表情でお礼を言って受け取っているが、内心はいらんと思っているのだろう。
というか、上司もいらないから俺たちに押し付けてるんだし。
しかし、いきなり捨てるとか社会人としてやってはいけない行動であるし、このまま持ち帰るのも大変だし。
時計を見ると、乗る予定の電車までには時間がありそうだ。
じゃあ、ここで食って帰るか。
とまた席に戻り、シャーベット状に程よく溶けたミカンを口にいれた
舌の上でほのかに解ける甘みがなかなかうまい。
と思った途端に風景が変化し、昨日の空間に立っているのがわかった。
あれ?
そして、視線を移動させると目の前には土下座をしているアーレンの姿が。
あ、思い出した。
昨日こんな感じの体験してた。
会社で仕事中にはすっかり記憶から消えていたが、思い出したぞ。
青い部屋に入ってからの昨日の記憶が鮮明に蘇ってくる。
冷凍みかん、ウサ耳の青い少女、そしてアダムスキー型のUFO
太陽に住む恒星人に、あの世が太陽だったような話まで。
これは夢ではなかったのか。
しかし、
なぜアーレンは今俺の前で土下座しているのか
「誠に申し訳ございません」
土下座しながら
「また、ポータルに巻き込んでしまいました!」
と言う
巻き込む?
前回は肉体が元素レベルで霧散したと言ってたが。
ということは
「俺また幽霊になってんのか」
「・・・はい、前回と同じです」
とりあえず土下座してもらってても話にならないので、起き上がってもらって部屋の奥の少し高くなったところに座ってもらい、事情を説明してもらうことに
そもそも、宇宙人に土下座という文化があるのか?
「2度も、同じポータル事故に巻き込まれるなど我々の計算でも、地球に隕石が衝突して人類が滅亡する確率より低いはずなんですが。
しかも私が原因というのは、もう宇宙が消えて無くなるくらいの確率なんです」
宝くじを今買うと当たるのだろうか。
とかしょうもないことを考えるくらい、なんか現実味がない話だ。
「それで、これは何か原因があると上の人たちが確認してます」
「前回は冷凍みかんだったろ?今回もそうなのでは?」
今回は手に冷凍みかんを持った状態でポータルからこっちにきてるようで。
手に握っている、食べかけ、溶けかけのみかんがそのままそこにある。
「はい、それはそうなんですが。
どうやらもっと面倒くさいことになってるような話でして・・・」
とか語ってる時に急にスッとアーレンが背筋を伸ばしうさぎ耳に触れ、何か遠くを見て頷いている。
急に変な電波でも受け取ったのかと思ったら、どうやら通信を受け取っているらしい。変な電波ではないけど電波はあってるのか。
そういえばアーレン以外の存在と近くで会ったことないな。
しばらくしてため息をついて、そして上目遣いでアーレンが俺を見てくる。
何かまずいことでもあったのか?
「上司が話があるっていうので、これからついてきてください」
みょうに疲れたような言い方で俺を誘うが。
上司がヤバい人なのか、呼びされる内容がまずいことなのか。
今のアーレンの顔は、俺もたまに会社でしてる気がするなー
取引先の担当者の上司から、現場を知らない奴が無理な注文してくる時なんか、多分あんな顔してるはずだ。
またあの、キックボードのようなものに二人乗りして連れて行かれたのは今度は中くらいの塔。数百メートルの山くらいの高さなので、中央の大塔に比べるとまだ低い。
だが、そういうのが並んで立っているので割と迫力はあるな。
内部に入ると床が自動的に動いて俺たち二人を連れて行ってくれる。
継ぎ目のない、動きそうではない床が勝手に動くので不思議な風景だ。
そして塔の部屋らしきところに連れて行かれ、また壁に急に開いた入り口から中へと入っていくと、そこには腰まである長い金髪をなびかせた、華奢でありながら出るとこはでてる若い女性が、黒っぽい体にピッタリしたワンピース姿で立っていた。
まるでメーテルではないか
ちょっとそんなこと思うくらい、実際にいたらあんな感じだろう。
頭にふわふわの帽子被ったらそのまんまだ。まつ毛長いし。
壁が窓のようになっており、外の風景が映し出されているのか見えているのか、並んだ塔とそこを行き交う人々の姿が見えるようになっていて、それを背に立っているため少し逆光になるはずだが、なぜかそうはなっていない。
この部屋のライティングは一体どこからどうやってされているのか。建築、内装関係を仕事としてる身としてはとても興味がある。
その女性の前には四角い机のようなものがあり、その横に立って微笑んでいる。
俺たちが入ると床から丸い椅子のようなものがせり上がってきてテーブルのような板も天井から降りてくる。
金髪の女性はそこに座るように促し、俺とアーレンは隣同士で座り、向かい側にその女性が優雅に腰掛ける。
アーレンはどことなく居心地の悪そうな表情をしていて、サラリーマンが社長室に呼び出された時のような雰囲気。
こいつらも、上司とか部下とか色々あるんだろうな。
死後の世界に連れていく、死神とか天使的な役割にも世知辛い出世競争とかあるんだろうか。
そんなこと考えていると、目の前の女性がこちらを見て。
「じゃあ、二人は今後一緒に活動してもらいますから、よろしく」
と軽く言う。
?
一緒に活動?
いきなりの言葉に呆気にとられ、そして隣のアーレンを見るとまた申し訳なさそうな顔をしてこちらを見てる
いったい何を活動するのだ?
そんな顔を見合わせている俺たちを見て、何か気づいたようで。
「ああ、申し訳ありません。
私たちは情報共有がすぐできるものですから、つい説明を端折ってしまいましたね
その子は理解してるんですが、そうでしたそうでした」
金髪の女性がまたそう言って微笑んでいる。
「あなたは地球の人ですから、そちらに合わせて説明しないといけませんね」
というと、天井からスクリーンのようなものが下がってきてそこに映像が投影され始めた。
投影というか、100インチのスクリーンくらいの薄さの液晶画面という感じだ。
しかし、なんでもあるなこの世界
すると、その金髪女性はスッと指示棒を取り出し何かスライド送りのリモコンみたいなのを手にしてかちゃかちゃスイッチを押すと、
スクリーンには
『古代大陸の神秘! 宇宙創生の歴史』
とかタイトルが出てるが、なんか昭和感のあるフォントで、サブタイトルに「未知のなんでも科学シリーズ」とか出てたりするが。
制作:レムリアン・プロとか書いてあるけどなんだこれ。
「それでは説明を始めます。
まず、宇宙が生まれる前にはマザーと言われる存在が複数いる空間がありそこは無限とも言われれるほどの容積がありました。
そもそも時空が我々と異なるので果てがないところ、なので空間とも言えないものですね。
そこでは複数の彼女たちが自分の一部情報をお互い交換することで新たな宇宙を生み出していきます。
地上で生殖活動を行う場合と基本は同じで、お互いの情報を半々持ち寄って生み出すわけですけど。
そのマザーの一人が宇宙の生まれる空間を生み出し、まずは無限から無の真空空間が生じていきました・・・」
なんの話だ?どこから話しているのだ?
ちょっと心配になって続きを聞く、映像は正直よくわからない系統図のようなものが表示されてて、何を説明してるのかがよくわからない。
指示棒で示したりしてるが、何を言ってるのだか。
「・・・そして、空間を与えたことにより宇宙にはビッグバンという出来事が発生したという話がありますが、あれはそういう概念を伝えた方がわかりやすいので地球で中心になっている概念ですが・・・」
話の途中だが思わず手をあげる
「はい、イチロさん」
指示棒で先生のように示してくる。
「あの、今回の話はどの辺から説明していくんですか?」
「この宇宙ができたとこから説明しないとわからないでしょうから、そこから詳しく解説してますけど?」
「もう少し、俺の理解のできるところ、時代の近いとこから話してもらえませんか?宇宙創生とか聞いても俺には理解できませんが」
「あら、双子宇宙が生まれて、それらがお互いの存在を認識するところからが面白いのに。そこから古代大陸の話が始まるのよ」
古代大陸ってなに?
双子宇宙って何?
「できれば、俺とアーレンが出会ったとこくらいからでお願いします」
「そう、残念だわ。
地球の人にこれ説明する機会とか、ここ2〜3千年くらいなかったからつい張り切っちゃったわ」
いったい何歳なのだこの人は。
それより宇宙の話2、3千年前ってもしや釈迦族の王子とかそういう人のことか、ナザレの大工の息子とかそういう人のことなのか?
「あなた方の一生は数十年しかないものね。数百億年前の話とかおばあちゃんが戦前の話するみたいで興味ないわよね」
とぶつぶつ独り言を言って納得したようで。
今聴いてた話は数百億年前なんだ。
急にスライドが一気に切り替わりポップな字体になっていく
「じゃあ、昨日の話から説明しましょう」
なんか、この人愉快な人なんじゃないだろうか。
最初は、アンドロメダに連れて行ってネジにしてくる黒服の美女と同じくらいミステリアスな人かと思ってたが。
説明好きの学者かオタク気質な愉快な女性という感じがする。
「昨日、ポータル開いたらあなたたちは運命のぶつかり合いをした感じになります」
と言って示された映像が、食パン咥えて走ってる女の子が曲がりかどで男子とぶつかる、少女漫画の出会いのシーン。
こんなライトな感じではなかった気がするが。
俺ミンチより酷い状態になってたんだし。
そんな感じで、内容と示されてるイラストにかなりのギャップはありつつも説明を聞いていくと
昨日俺の体が元素から分解してしまい、残ったのが霊体、今の俺のような姿なのだと思っていたのだが。
実はこの今の俺の幽霊としての体は「半非物質」という元素の中の、俺たちが触れられるような物質になってない領域で構成されているもので、アーレンとか目の前の女性も同じ半非物質で肉体が構成されているという話。
この世界、恒星人が住まう領域には、半非物質状態で人間は入ってくるのが常識なのだとか。
肉体が物質
幽霊、恒星人が半非物質
そんなわけ方のようで
完全なる非物質、は認識されないのでそもそも観測不可能だからないのと同じ、とそんな話もしてたりする。この辺は区分けみたいなもんか。
しかし、昨日の俺は肉体は元素分解して、半非物質の体も分解して全部散ってしまったのを、この金髪の女性が「半非物質領域」の体を先に回収してくれたので、昨日のようなアーレンとの出会いになったらしい。
この女性が俺の命の恩人というわけか。
そのまま放置されてた場合は、非物質になるので無になり誰にも観測されないまま消え失せていたという恐ろしい話をさらっとされる。
そんなやばいことを2回も体験させられてるのか。
しかし、昨日はUFOから降りてからは肉体の状態で今までおったがな。
と思って質問すると、物質は地球上にある元素を使わないといけないので、こちらの太陽の中である恒星の元素では肉体を作ることができないと。
それで、地球に戻ってからでないと無理なのでUFOで送ったということ。
ポータル使うと半非物質で向こうで肉体が再構成できても、物質の肉体は構成できないらしい。
つまり、幽霊状態だとポータル使えるけど生きてる状態だと無理ってことだな。
となると、地球上で目撃されてるUFOは全部半非物質じゃん。
グレイとかどういう感じで現れてるんだろうか?すごい興味があるので聴いてみると
「そういう姿で見たほうが納得する人がそういう物質集めて作ってしまうから、画一的な宇宙人像ができてしまうの。私たちも地球では肉体を持つことはできるんだけど、残念ながら地球人がその主導権を持ってしまうのよね。
今回だって、イチロさんがグレイの方がしっくりくるわ、とか思ってたらそこのアーレンちゃんはグレイの姿でずーっと対応してくれることになってたのよ」
それは嫌だ。
過去に読んでいたオカルト雑誌や本からの影響より、ケモみみ宇宙人アニメからの影響が強くて良かった。
では、今目の前の人物の姿はどこからきてるのか?
聞いてみると
「私は、イチロさんの記憶にある宇宙の謎の情報を伝えてくれるのに最適な人物の姿、になってるんですよ」
なるほど。未知の世界に誘導してくれる案内人としてはスターシャよりメーテルだったのだな。
良かった、つくづくアニメや特撮から影響受けてて。
オカルト雑誌しか読んでなかったらグレイとかなんとかデーモンとかの姿になってたかもしれんし。
そして、今回のまたこちらにきた要因についての話が始まる。
昨日は冷凍みかんが原因だったと思われたのだが、2回も連続で同じ人間が事故に遭うのは偶然では片付けられず「必然」であると考えられるので、先ほど俺とアーレンの全ての意識レイヤーがチェックされ、その原因が見つかったらしい。
いつの間にチェックされてたのやら。俺がこっちに転送されて、アーレンが土下座する僅かな間にされたのか?
「つまりね、あなたとアーレンはすっごい深いところで結びついてしまったの。運命の出会いよねー」
とか言って、またさっきの角でぶつかる食パン咥えた女子高生のスライドが出てくるわけだが。
そんなにほのぼのしてない気はする。
「その深いところってのはすぐに外れないのですか?」
「それが、人間の集合無意識の原点に繋がっちゃってるから、あなたの個人のレイヤーをいじるだけでは無理になってるのよ」
「集合無意識の原点?」




