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第1話 ウサ耳の少女

<第1話>


記憶が曖昧だ。

確か、昨日は出張からそのまま直帰するからと会社に報告して、そのまま街に繰り出し同僚と、もつ鍋を食べて、行きつけのバーでは個性的で中性的なマスターが手作りしているという、いきなり団子をつまみに焼酎飲んで。


そして、今目覚めたら目の前には冷凍みかんが置いてある。


ここは、どこだ?


目をあげると虹色に光る金属のような質感の床と壁。

鈍く光る様子は、中学生時代に溶かして遊んでいたビスマス結晶のようにも見えるけどチタンの焼き色のようにも感じられる。

結晶構造は見当たらない。


広さは京間で8畳くらいか。

壁際には幅1メートル、高さ30センチくらいの少し高くなったところがあり、俺は今、そこに座って部屋全体を眺めているという状況。


そして冷凍みかんは床に置かれている。

皿もない


床に直置きを食えと?

これは、虐待?

イジメられるようなことは、社会人になってからはしてないはずだが。

バーで飲んだあと、何かしでかして反省部屋に入れられているのだろうか。あの中性的な、いわゆるゲイなマスターの趣味してには部屋がさっぱりしすぎているが。

彼は見かけに似合わずゴスロリが好みで可愛いものを集める趣味があったと思う。


会社のリストラ部屋でももう少し窓くらいありそうなもので。


壁に触れるとひんやりとする金属っぽい感触がある。

この部屋には鈍く虹色に光る色以外、窓もない。

立ち上がると天井はかなり上にあり頭がつっかえることはないし圧迫感もないのだが、そもそも光源が見つからないのに明るく全体が見えていることが不思議だ。


自分の手もしっかり認識できる。

20代後半の、肉体労働もこなせる男の手だ。

いつも見慣れているものだから見間違いようがないし、身につけている服装も仕事終わりにバーに寄った時のスーツにネクタイ姿だ。


体に異常はない、異常なのは空間だけ。


さっきまで座っていた、少し高くなった床のところに再び座る。


ん?

金属だと思っていたが座ってみると柔らかく感じる。

だが、強く押すと硬い。

ゆっくり体重をかけると自分の体重が分散するように形が少し変わっていくのだ。


ふと、目の前の冷凍みかんを手に取ってその床を触ってみると、冷凍みかんの置かれていた地面は全く冷えていないのに、この冷凍みかんは溶けてないのだ。


普通は床に接していると少し溶けて湿ったりするだろうに。

手に持った途端に体温でそれは溶け始めたため、また床に置く。

すると、冷凍みかんは溶けかけたままの状態で維持されているみたいになる。


床からも、空気中からも熱が伝わってない?冷やされてもない?

手で触れると溶けるのに床に触れている状態だと溶けかけのまま変化が止まる。


しかし、自分がいるこの部屋が冷凍庫のように冷え冷えではなく息も白くないし自分が座ってる床や壁も少し体温より温度が低いと感じるくらいで、寒くはない。

冷たくもない


これは、かなり不思議な現象だ。

目の前の冷凍みかんは、俺が手を触れない限りは時間が止まったかのように、変化してないというわけだ。

何か特殊な材質で作られた部屋の試験運用に、実験体として俺が入るような仕事でも受けたっけな?

バーで酔ってる時に何か契約書にサインさせられて、ロシアか中国の極秘施設に送られたのか?


しかし、そんな状態はどうでもいい、まずはこの床の材質、それと熱伝導がおかしくなっている状況を何が作り出しているのか、それについて考えたいところだ。

これは今後、仕事に役立つかもしれない。


まず思考を整理するために胸ポケットに入れていたメモ帳を取り出す。

スマホのアプリで計測したりしたかったのだが、カバンに入れてたために今この部屋には無いようだ。身一つで部屋に入れられている。

しかし、スーツのポケットに入れていたメモとボールペンはそのままだったので安心する。財布もスーツのポケットに入っていたので中身を確認し何も減ってないのを確認。

あれ?バーの支払いは現金オンリーではなかったっけ。

お金が減ってないので、一緒に行った同僚が支払ってくれたのか?

カード類も全てそのまま、財布に突っ込んでいた出張先の領収書もそのまま。

とりあえず会社に申請すれば経費扱いのタクシーと食事代も戻ってきそうなので一安心。


そして、キーホルダーにつけていたミニ巻き尺も無事だった。

1mしか測れないが小指よりも小さいサイズで自動巻き取りもできる。ドイツ製で計測値も信頼できるためいつも持ち歩いているものだ。

キーホルダーにはミニ巻き尺とミニ水平器とミニドライバーもついている。全てドイツ製。

日本メーカーのものも信頼してるのだが、出張先で顧客とネタとして話すにはドイツ製の方が食いつきがいい。

日本人、みんなドイツ製品スキ。


記録用紙と計測機器があるから、まずはこの部屋を計測することにする。

冷凍みかんはそのままでも溶けないので後で考えるとして。



全て測り終えるのに1時間くらいかかっただろうか。腕時計をしてないしスマホもないので時間もよくわからない。

特に意味はないのだが、何かしてないと落ち着かないので自分にできる範囲で情報を集めているのだ。

メモ帳に書いたものをまとめていると、何の前触れもなく部屋の一部が急に開く。


先ほど調べた時は全く存在しなかった継ぎ目が急に現れ、そして扉のようにスライドしたのだ。


あんなところに扉の気配はなかったが?


何が現れるか一瞬警戒する。

いきなりライオンとかクマとか入れられたらどうしよう。

とりあえず、武器になりそうなのがキーホルダーかミニドライバーしかないのでそれを手にすぐ動けるよう体重を移動させ構えると、


最初に水色のウサギの耳が現れ、水色の髪色をした女の子が現れた。


一瞬で女の子とわかる顔つきと体つき。

いや、全裸ではないから下半身までは確認できないが、これは女の子であって欲しい。


頭にウサギの耳のような、デ○ズニーランドに売ってそうなキラキラした水色のあれをつけていて、髪色も目の色も水色。

肌の色は、白く透き通るような感じで、顔は白樺の幹を水晶の彫刻刀で熟練の職人が掘り上げたような、仮面の如き雰囲気がある。

つまり、美しい顔つきということだ。


なんか、アンドロイドっぽい感じがあるな


目の前に立っている少女?は俺より背が低く小柄で、全体的に薄あおい雰囲気で。

多少女性らしさがわかるくらいの露出のある服装である。


これ、オフ・ショルダーだったか、仮面ライダーの必殺技みたいな服装だよな。


と、肩の出た、体のラインがわかるような服を見てそんなことを考えていた。

足元は青い膝上までくるブーツを履いていて、短パンスタイル。


どこかのランドのパレードで踊ってる人みたいだな


それが第一印象。

女性は俺が立ち上がっているのを見て、軽くお辞儀をしてくる


あ、日本人だ


そこで少し安心。

少女は自分の胸に手を当て、そして微笑んだ。

そこから床に落ちている冷凍みかんを指差し、口に運ぶ仕草をしてくる。


喋らないのか?

冷凍みかんを食べろと?


それか、そういう遊びなのか?


よくわからないが、警戒を解いて床に置いてる冷凍みかんを手に取る。

すると、その女性はサッと近づいてきて、冷凍みかんを俺のてから受け取って皮を剥いて、そして


はいアーンして


みたいな仕草で迫ってくる。


床に置いたみかんを食わせるプレイなのか?


どこかでバーのマスターが撮影してたりするのか。

それとも何か謎のAVの導入か


相手が可愛い女性、お辞儀したので日本人だろう、そして劣化してない冷凍みかん。


口にしても多分大丈だろう


そう判断し、少女が口に放り込んでくれるのを甘んじて受け入れる。

色んな意味でスイーティー


「よかった、やっと食べてくれましたねー」


急にその子が話し始めてびっくりした。アニメ声ではなく、中低音気味の耳障りの良い声。

ニコニコしながら手には冷凍みかんを持ち、そしてまたアーンして、という仕草をしてくるので素直に食べる。

口のなかが冷え冷えになるが、少女の指先の熱をちょっと感じられたりして。


全部アーンして食べさせてもらった後にドッキリの人が出てくるのかと思ったがそのまま、剥いた皮を一旦俺が座っていた床に置いて、その少女はこちらに向き直る。

ベッドに横並びになって食べさせてもらってるような姿勢になって、最後まで食べさせてもらっていたのだった。


いや、自分で食べてもよかったけど、何かこう、押し切られる感じが断れなかった。

美少女から食べさせてもらうシチュエーションが楽しかったのもあるけれど。


「さて、あなたはこちらに来てしまいましたが、一旦元の世界に戻りましょう」


いきなりそんなことを言われてしまい???

「こちら?来てしまった?」


俺がポケーっとしてたのか、少女は慌てたように一旦手を振って、そして何やら頭につけた耳に手を触れぶつぶつ一人で呟いた後に


「少し説明しましょう。こちらに来てください」


と言ってさっきの部屋に開いた扉の方へと案内してくれる。

俺もそれに続いて立ち上がったが、その際に少女が置いたみかんの皮が気になって見てみると、それは全く溶けておらず、そこには凍ったままの冷凍みかんの皮がそのまま維持されていた。


俺が触った時は少し溶けたはずだが?

あれほどしっかり握って、アーンしてくれてたのに溶けてない?少女はそんなに冷たい存在だった?

でも唇にたまに触れる指は暖かかったと認識してるが?


謎は深まるばかり



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