ウサギは林檎を食べる
(まずいまずいまずいまずいまずい、まずい!)
リリーナは青ざめながら自身の部屋の中をぐるぐると回り続ける。
リリーナのすぐ側にある机の上には、一枚の記事が置かれていた。
【レミーラ王国の若き国王陛下【ルイゼン・アンドロス】陛下は、シャンデリアが落下する事件に巻き込まれ、永遠の眠りにへと落ちてしまわれたことを、我々民は心よりご冥福をお祈りいたします】
記事にはそのような内容が淡々と綴られていた。
(国王陛下が亡くなった今、女王陛下が再度、国の頂点に立つことで話しは一応落ち着いたが、重要なのはいったい誰が、何のためにあんなことを…?)
シャンデリアが落下したのは間違いなく、誰かの悪意が姿を表したから、その証拠に、シャンデリアの接続部分が深く傷ついていた。
(…ふぅ、落ち着け、焦るな。
…どうしたもんか…)
リリーナは足を止め、椅子に座る。
すると、部屋の扉をノックされた。
「お嬢様、アタシです。メイド長でございます」
「どーぞ」
リリーナは扉の向こう側にいるメイド長に言葉を返す。
扉が開けられると、向こうにはメイド服を纏った小太りなおばさんがトレーを持ち立っていた。
「失礼致します」
「…ん」
メイド長はリリーナがいる机へと向かい、トレーを机に優しく置いた。
「お嬢様、最近とても忙しそうですので、アタシからのちょっとした労いでございます」
そう言うと、メイド長はトレーに置かれていたウサギの形をした林檎とアップルティーをリリーナの前へと置いた。
「ありがと」
「どうぞお召し上がり下さい」
リリーナはその言葉を受け取ると、林檎へと手を伸ばした。
「…林檎なんて久々……美味し」
リリーナは林檎を口いっぱいに頬張る。
「こちらはフメル王国からお取り寄せした林檎でこざいます」
「…ふーん」
リリーナはフメルという単語を聞くと、少しだけ声のトーンを下げた。
(……なんか目がしぱしぱする、最近あんま寝れてないからかな)
リリーナは少しだけぼーとする。
(…ダメ、今は寝てる暇なんてない!)
リリーナは自身の頬を軽く叩いて意識を保とうとする。
「…お嬢様、どうしたのですか?
眠たいのでしたらベッドへとお連れいたしましょうか?」
「…大丈夫」
リリーナが目を覚まそうと椅子から立ち上がった瞬間、ガクンと前へと倒れ込んだ。
「…身体か…」
リリーナは立ち上がろうとするが全身に力が入らなかった。
「………はっ、ルイル家はヤバいって聞いてたけど、大したことなかったわ」
聞き覚えのない声が馬鹿にしたように話し出す。
「………は?なに…」
リリーナは眠りに堕ちそうになりながらも顔を上げる。
するとそこには、メイド長を名乗る小太りなおばさんではなく、若く美しい女性がキャッキャッと子供のように笑っていた。
「んふふっこれでもう邪魔なのはいなくなったかなぁ…あ、でも、この身体の兄貴はどーしよ…まいっか。
結奈ちゃんを気に入ってるとはいえ、どうせあの王子様とこのピンク女みたいに積極的に助けようとはしないでしょ」
何処か嫌な既視感のある女性を見つめるだけでリリーナは何も出来ずにいた。
(……こいつ、メイド長に化けて……てか、もしかしなくても話し聞く限り国王陛下を殺したのって…
…クソ、身体が動かん、目が開かない。
…何が目的なんだよ…ユイナ…?て誰…)
そこでリリーナの意識は途絶えた。
………
「……やっと寝た?」
女性はイバラ姫のように永遠の眠りにへと堕ちたリリーナの頬をつつく。
「んーどーしよ…このまま放置でもいいかな?
いーよね」
女性は立ち上がると、何処からか取り出したマントで黒と白の目立つ髪を隠すように深くフードを被る。
「よしじゃ、バイビー、ピンク女。
もう二度と起きることは無いだろうけど。
いや、わんちゃん愛する人にちゅーでもして貰ったら起きるかな?知らんけど」
女性は地べたに倒れ眠り込むリリーナに向けて一方通行の会話をすると、颯爽と窓から飛び降りる。
「これでアタシ達の愛を邪魔する愚か者が消え去った。
すぐに迎えに行くからね、結奈ちゃん♡」




