目を覚ます
なんて心地の良い朝なのだろう、
明るく、暖かい部屋で目を覚ます。
結奈がサーカンスから解放されてから数週間が経過した。
レミーラ王国の民達はメルーナが戻ってきたことに歓喜の声を上げ、涙を流す。
そんな民達に結奈は苦笑いをする。
(…やっぱり、私には重いなぁ…)
結奈はあくまで聖女と入れ替わってしまっただけの一般人、何年経とうと、この重すぎる期待には慣れないだろう。
結奈が軽くため息をつくと、コンコンとおとなしいノックが聞こえた。
「お嬢様、ロセでございます、失礼致します」
「あ、どうぞ」
結奈は扉の向こうにいるロセに返事をする。
ガチャと扉が開くと、美しい紫色の髪を緩く巻いているロセが入ってきた。
「おはようございます、お嬢様」
「おはようございます、ロセさん。
今日は髪型がいつもと違うんですね、似合ってますよ!」
「…ありがとうございます」
ロセは照れ臭そうに少しだけ下をうつ向く。
「…グイユ様とは最近いかがですか?」
「へ?!」
ロセは桃のように顔を染めていたが、グイユの名を出すと次は苺のように顔を真っ赤に染めた。
「ど、どうもありませんよ、お嬢様ったら…」
ロセは焦りを見せながらメルーナの水色の滑らかな髪を梳かす。
いつもよりぎこちない動きをするロセに結奈は笑みが溢れる。
………
数日前
青々とした草木が太陽に照され、暖かい風が運ばれる、白く丸いテーブルには沢山のお菓子に美味しい紅茶。
それらを味わうルイゼン、リリーナ、結奈。
しかし三人の目線はその贅沢な品々ではなく、草の上に情けなく倒れ込んでいるグイユに向けられていた。
「…どうしたんだい?グイユ」
ルイゼンは困ったように一筋の汗を滴し、グイユに話しかける。
「………まった」
「は?聞こえない」
ボソボソと喋るグイユにリリーナは強く聞き返す。
「……しまった」
「グイユ様?」
結奈は心配した様子で首を傾げグイユの名を呼ぶ。
するとグイユはこの世の終わりのような顔で口を開いた。
「…ロセさんに、ロセさんに迷惑をかけてしまった…」
「はい?」
リリーナはワケわからん、とでも言いたげな顔をする。
「えっとぉ、何があったのですか?」
結奈の問いにグイユは化物に腕全体を食べられてしまった時の事を話す。
「……そんな事が…」
「あぁ、あんときの話ね」
「グイユ、あれから傷は痛まないかい?」
三人はそれぞれバラバラの反応を見せる。
「うぅぅ、ロセさんに気持ちの悪いものを見ぜてしまっだ…」
グイユはグズグズと涙を流も鼻水も流す。
「うわぁ、きったな、拭いて」
「あ"り"がどう"ござい"ま"ず」
グイユはリリーナ投げたハンカチで涙を拭う。
「ロセざんに意識がもっでいがれずぎでロセざんにカッコ悪いどごみぜちゃった、もう顔あわぜられない」
「…ロセさんはお優しいですね、ロセさんが無事ならそれだけで僕は嬉しいです、なんてキザなこと言ってたくせに」
「ぎがれでだ」
リリーナは鼻で笑いながら悪意しかない物真似を披露する。
「フフ…その話を聞く限り、グイユ様は確定でロセさんの事がお好きなようですね…」
「見る目があるじゃないか、流石はグイユだ」
「ありがどうございまず」
グイユは二人に慰められながら使用人が用意した新しい椅子に腰かける。
「僕、ロセざんにあやまりだいんでず。
でも、ロセざんにいやがられないがをがんがえちゃっで」
「うーん、でも、私何度かグイユ様の事を話題に出しましたが、ロセさんはグイユ様を嫌うような素振り見せていませんでしたよ?」
「あぁ、俺もメルーナに会いに行く際に何回かロセさんと話したが別に何ともなかったぞ」
「ぼんどでずが」
二人の言葉にグイユは少し安心したような表情をする。
「…女々しいやつ…そっちの方が引かれるんじゃない?」
「ングッ」
リリーナにより言葉のナイフで刺されたグイユは苦しみ出す。
「はぁ、うじうじしてる暇があったら今からでも会いに行ったら?」
「確かに、リリーナ嬢の言うとおりだ」
「え"」
さっそくチェルラー家へと向かう準備を始める二人にグイユは困惑する。
「いや、でも」
「でもでもだって~~
…そんなことばっか言い腐るな、腹括れ」
「…はい」
四人は馬車に乗り込みチェルラー家へと向かった。
チェルラー家へと到着した四人は馬車から降りる。
「ロセさんは多分庭にいると思います」
結奈のその発言を元に四人はすぐに庭へと歩みを進める。
すると結奈の言うとおり、ロセは庭で花に水を与えていた。
「行け」
「頑張るんだグイユ」
「応援しています!」
グイユは三人の圧にしぶしぶロセの元へと向かった。
「ロ、ロセさん!」
「え?グイユ様?どうしてここに?怪我は大丈夫ですか?」
「あの…」
「?」
グイユのモジモジとした態度にロセは頭に?マークを浮かべる。
「…あの、すみませんでした」
「へ?何がですか?」
「僕が油断してロセさんに迷惑をかけてしまったことについてです」
「そんなこと言わないで下さい、それにあれはロセがしっかりしていなかったから…だから皆さんに迷惑をかけて―」
「ロセさんは悪くありません、あんな状況になれば誰だってどうすればいいか分からなくなってしまいます!」
「……グイユ様はいつでもロセを気にかけて下さいますね、どうしてですか?」
「え?あ、そ、それは」
グイユはすぐさま目線を反らす。
「もしかして、ロセの事が好きだからですか?」
「え?!」
「フフ、なんて、ごめんなさい、冗談が過ぎましたね」
「……そうです、僕はロセさんが好きなんです」
「…冗談では?」
「ありません、僕はロセさんに一目惚れをしました」
グイユは目を伏せながら言葉を次々に繋げてゆく。
「…………」
「…………」
無言の時間が続く。グイユはやらかした、そう感じ後悔をした、しかしその後悔はすぐに消し飛ぶことになった。
グイユが目を開けロセを見ると、ロセの顔は林檎のように綺麗な赤色になっていた。
「…ロセさ―」
「ロセは、あの時からグイユ様の事が頭から離れないんです。グイユ様の事を意識すると、心臓が激しく動くんです」
ロセはそう言い、意識されていない上目遣いでグイユを見つめる。
そしてロセは失くなった腕の方の袖をつかむと小さな声で呟いた。
「…ロセの初恋を奪った責任をとってください」




