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神の願い

バサッバサッと純白の美しい羽が波を描くように揺らめく。


「羽が!」


結奈(ゆいな)は顔を上げると、フメル神の背中に大きな翼が生えていることに気付く。


《…聖女よ…助かった、礼を言おう》


レミーラ神は自身の肉親を救ってくれた結奈に感謝を示す。


「い、いえいえ」

《謙遜をするでない、礼は素直に受けとるのだ》

「は、はいっ!どういたしまして!」


結奈はレミーラ神の言葉にピシッと背筋を立て返事をする。


《それで良い…聖女よ、そなたにひとつ頼みがある、よく聞くのだぞ》

「はい!」


結奈は喉を動かし緊張を見せる。


《これからはお主一人で、(レミーラ)とフメルに祈りを捧げてはくれぬか?》

「へ?」

「どういう事でしょうか?」


ルイゼンはレミーラ神に問う。


《そのままだ、フメルに祈りを捧げる筈だった少女は自身の役目を放棄し逃げ出した、神に対し敬意を持たぬものは聖女である資格はない。

しかしこのままだと同じ事が繰り返し起こってしまう。そうならぬよう、これからそなたは一年に一度、我とフメルに祈りを捧げるのだ》


レミーラ神は結奈に命令を下す。


「レミーラ神様!それならば新たに聖女の力を持つものを産み出せば良いのでは?」


ルイゼンはレミーラ神に疑問をぶつける。


《そうはいかぬ、聖女とは我々神が力を振り絞り産み出した存在、そうぽんぽん産み出す事は不可能だ。

新たに聖女の力を持つものを産み出すには、今を生きる聖女がその儚い命を落とすの待つのみ…

己の私利私欲で手を下してはならぬ、聖女が持つ力を私利私欲で奪ってはならぬ、それらをやってしまうと神として堕落してしまう。

我々が出来ることはただただ待つのみ》


レミーラはひとつしかない目を伏せ説明する。


《…貴様ら人間は、何故我々神が聖女を産み出すようになったのかは知っているのか》


フメル神は皆に問いかける。


「…それは」


ルイゼンはモゴモゴと口を動かす。


「…力がどんどん退化していったからですよね?」

《…そうだ》


サーカンスの答えにフメル神はゆっくりと頷く。


《遥か昔、我々神は様々な人間に認識され、称えられ存在していた。しかし時が進むごとに人間は我々神を少しづつ認識しなくなっていった。

神は信仰されないと存在ごと消えてしまう。

神も人間と一緒、死を恐怖し怯えるのだ。


そして我々は恐怖の中思い付いたのだ、神を支える力を持つもの造りだせばよいのだということに。


そして産まれたのが()()だ。

聖女は我々神を生かす存在なのだ

聖女が我々神に祈りを捧げる限り、我々は消えることもない、死に怯える事もなかった筈だ。


聖女を産み出す際、我々は人間と契約を果たした、聖女に祈りを捧げさせる限り、我々神は貴様らの平穏を守り続ける。しかし約束を破ると貴様らに罰を与えに降りてくる、と。


しかし貴様らはその約束を破り捨てたのだ、我々が慈悲深い神でなければ今頃貴様らはただの肉片だったぞ》


フメル神は脅すように言葉を紡ぐ。


《…そういう事だ、聖女よ、我々の為に、平穏の為に祈りを捧げるのだ、祈りを捧げてくれればそなたの好きにして良い》


レミーラ神は結奈に慈悲の目を向ける。


「ありがとうございます」


結奈は久し振りの心からの笑顔で答える。


《…聖女と相性が良かった人間よ、初めは物凄く困惑したのだからな》


結奈はビクッと肩を揺らす。


「ハ、ハハ、な、何をおっしゃるのですか、ハハ…」

《余計な言葉だったか、では、我々の用事は済んだ、ここで失礼するぞ》


レミーラ神がそう言うと、フメル神と共に霧になり消えていった。

結奈が安心のため息をつくと、背後からのいきなりの衝撃に結奈は前へと倒れ込む。


「ルーちゃん!ルーちゃん!」

「ングッ、フッ…リリーナちゃん」


結奈はリリーナに強く抱き締められる。


「……無事で良かった…ずっと会いたかった」

「……私もだよ、リリーナちゃん」


結奈はリリーナをおいてこの世を去ろうとした事実を隠しリリーナを抱き締め返す。


「お嬢様…」

「ロセさん」

「申し訳ございません、私があの時しっかりしていれば…」

「ロセさんは悪くありません、私を助けるために来て下さりありがとうございます」

「うぅ…」


ロセもリリーナ同様結奈を強く抱き締める。

そんな感動空間の後ろでルイゼンはサーカンスの首に剣をあてていた。


「…お前がやった事、俺は許さないぞ」

「おぉ、怖い」

「メルーナを拐って怖い思いをさせた挙げ句!フメル王国の民をおいて逃げようとするだなんて!」

「生きていたいのは誰だってそうでしょう?」

「黙れ!お前は生きていてはいけない!ここで俺がお前を殺す!」

「そんなに声を荒げてみっともない、貴方の大切な大切な婚約者が驚くのでは?」


サーカンスは鼻で笑う。


「…そうだ、メルーナは俺の婚約者だ、それなのに」

「婚約者、そんな肩書きに翻弄されて何も気付けない貴方に婚約者を名乗る資格なんてあるのですか?」

「何の話だ!」

「ルイゼン」


二人が争っているとメルーナが止めに入ってきた。


「落ち着いて、サーカン様は殺さないで」

「メルーナ?!どうして―」

「お願い」

「…あぁ」


ルイゼンはそっと剣を鞘に納める。


「ありがとうございます、ユイナ」

「…ん」


結奈はそれだけ言うとサーカンスに背を向け歩きだした。

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