神の怒り
神々しい光を纏いながら、実に不気味な形をした神を名乗る不思議な存在に皆は目を奪われる。
「…あれが、フメル…神?」
リリーナは絶句し、立ち尽くしていた。
「…神様って言うから美しい女性の姿してるのだと思ってた……アニメとかでもそうだったし…」
結奈はボソッと呟く。
「美しい姿をしているのは悪魔だけですよ、悪魔は人間を惑わす必要がありますからね。
それに比べて神はわざわざ人間を惑わす必要なんてないので、尊い神ほど歪な姿だと言われているんですよ」
サーカンスは未だに結奈を抱き寄せながらフメル神を見つめる。
《我を怒りに沈めた愚かな人間ども、貴様らは約束のひとつも守れぬのか》
「言われてますよ」
「私はしっかりと祈りを捧げてもらう為に奮闘しましたよ、なのに答えてくれなかったのはユイナでしょう?」
二人は神の前で罪の擦り付け合いを始める。
「おい、お前生け贄にでもなって怒りを鎮めてこいよ、元の原因はお前だろ」
「原因は私ではなく愚かにも逃げ出した愚妹ですよ」
「まだ言うか」
リリーナは逝け、とでも言いたげに首を動かすが、サーカンスは結奈に引っ付いたまま動こうとしなかった。
「…フメル神様!!」
そんな静かな争いをやっていると、ルイゼンが一歩踏み出しフメル神に向かい勇敢にも話しかけた。
「落ち着いて下さいませ!こちらにも訳があるのです!」
《貴様らの愚かな争いなど、我にとってはどうでもいい!約束を破り捨てた事は事実であろう!!》
フメル神はルイゼンの言葉に怒りを見せる。
「んな時にでしゃばるな!余計なことすんじゃねぇ!」
リリーナは小声でルイゼンを非難する。
「…はぁ」
サーカンスはため息をつき、結奈の肩を抱きながらフメル神の元へと近づく。
「ちょっと、何で私まで…!」
「…私を愛し、理解して下さるんでしょ?
言ったからには責任を取って下さい。
私も貴女を愛し、理解しますので。
同じ傷を持つもの同士、舐め合いでもしましょう」
そう言い、サーカンスと結奈をフメル神の前に立つ。
「フメル神様、約束を守れず申し訳ございませんでした。
…我々人間がフメル神様に無礼を申しますが、今からでも祈りを捧げてもよろしいでしょうか?」
《何だと?》
「…この者は隣国であるレミーラ王国の聖女でございますが、これからはフメル王国の聖女として、この国にいてもらう予定です」
「はっ?!なに言って!―」
「この者をフメル王国の聖女として、フメル神様に受け入れて貰いたいのです、ですのでこの者に祈りを捧げさせてもよろしいでしょうか?」
《なら最初から何故それをやらなかった!!!》
「申し訳ございません」
「申し訳ございません、じゃねぇよ!なに勝手なこと決めてんだよ!」
「メルーナはレミーラ王国の聖女であり俺の婚約者だ!貴様なんぞに渡してたまるか!」
「お嬢様!!」
サーカンスは後ろから聞こえる声を全て無視し結奈に話しかける。
「ユイナ、貴女が私を本気にさせたのです。
冗談なんかではない、あの時の貴女に私は柄にも合わず、心から【貴女しかいない】と思ったのですよ、貴女が言った冗談を、私は真に受け落とされてしまったのです。それに、愛が欲しい貴女にとっても悪い話ではないでしょう?」
「………あんなこと言うんじゃなかった…貴方に変な情が沸いちゃったじゃないですか」
そう言い、結奈が自身の肩に置かれた大きな手を握りしめたその時、流れ星のような大きな光が暗い夜を照らした。
「また?!次は何!!」
リリーナは目を伏せ次々と襲い来る展開について行けてなかった。
《…フメルよ…少し落ち着け…》
《レミーラ…様…何故ここに…》
「レミーラ?!次はレミーラね?!」
リリーナは襲い来る情報を無理やり受け入れる。
「レミーラ神様!」
ルイゼンは己の国の神の姿を見れたことにより感動を隠せずにいた。
レミーラ神と呼ばれる存在は、フメル神同様、可笑しな形をしていた。
ひとつの生首にひとつの目玉がついており、首から下は大きな翼が生えており、頭には眩く輝く天使の輪、耳の代わりに三本の手が生えていた。
《…大切な肉親が消えかけているのだ、やって来ないわけがないだろう…聖女よ、フメルに祈りを捧げてくれ、人間達が考えた罪など気にせずに…」
「…はい」
結奈は胸の前で手を組み、去年やったように、フメルの神様が落ち着きますように、と内心で唱える。
すると、結奈は二柱に負けず劣らずの光を纏う。
「……すご」
「やっぱりいつ見てもメルーナは凄いな」
「お嬢様、頑張って下さい」
周りがメルーナに見惚れる中、サーカンスは驚きを隠せずにいた。
(ユイナはあくまで聖女と入れ替わっただけの人間…なのにどうして聖女の力をここまで操れてるんだ…?
…普通じゃない…尚更目を引かれてしまうな)
「…あれ?フメル神の背中…」
グイユの言葉にメルーナへと向いていた視線はフメル神へと移り変わる。
フメル神はもぞもぞと身体を動かし背中をガリガリとかきむしっていた。
《グゥ…グッ………!》
その瞬間、フメル神の背中からレミーラ神と同じ大きさの羽がバサッと音を立て姿を表した。




