痛みの末の幸せ
意味の分からない言葉のようなものを発しながら、肉が腐れ落ちたような見た目の怪物達は飛び付いてき、それに加え、敵軍達も容赦なく襲ってくる。
しかし兵達は恐れることなく、剣を振り、銃を撃つ。
「あぁ~!!もうしつこい!虫みたいにうじゃうじゃと!」
撃っても撃っても襲ってくる化物にリリーナは額に青筋を立てながら銃を撃ち続ける。
「でもコイツら倒したらそのまんま霧になって消えていくのでまだマシな方ですよ!どうやら倒しても蘇り続ける個体もいるようですので!」
グイユは攻撃をかわしながら自身の知っている話する。
「なるほど、でなれば希望は見える。切って切って切り尽くすのみ!」
アルバンは速度上昇の魔法を掛け、次々と大量の化物を切り倒してゆく。
そのアルバンの活躍に兵達は歓喜の声を上げる。
「流石軍団長様だ!」
「俺達も行くぞ!」
「軍団長について行け!」
兵達がそう叫んでいる間にも、アルバンは一人で化物を半滅させる。
その様子にさっきまでは余裕そうだった敵軍達も流石に焦りを見せる。
【ルイル家】がまさかここまでの強さとは思わなかったのだ。
しかし考えてみれば、小柄なリリーナは大量の敵軍達を一人で潰し、じゃんじゃん魔法を使い、怪我をしていたとは言え、欠損までとはいかなかった。
敵軍達は改めて思い返すと【ルイル家】は噂どうりの、否、それ以上の力や耐久力を持つことを身に染みて実感した。
しかし、だからと言って敵軍達もここで退くわけにはいかないのだ。
「お花畑王国なんぞに負けるなぁー!!」
「能無しどもが!さっさとくたばって死ねぇ!!」
ここで負けてしまえば我王国の支配者にどんな目に遭わされるか、その恐怖が敵軍達の思考を乱し、焦らせる。
敵軍達の態度に余裕が無いと感じた兵達はその隙を狙い、次々と化物と敵軍達を血の海へと沈め、微かな泡へと変えてしまう。
「12時を過ぎたシンデレラでも少しは落ち着いてたんじゃない?慌てすぎると地面に敷かれた罠に気付けないぞ!」
リリーナは敵軍達をここぞと煽り更に余裕を失くさせる。
すると敵軍達は半狂乱になり、戦法なんてものを忘れたようにはちゃめちゃに暴れだすが、もちろんそんなので勝てるわけなく、どうしようもないほどの人数だった敵軍や怪物は気が付けば半分以下の人数になっていた。
(…やっぱり父様が先頭にいるとびっくりするほど戦がスムーズに進むな…)
リリーナは戦RTAなんて不謹慎な事を考えながら、敵軍達の様子をじっくりと観察する。
(……さっきまで凄い自信だったのに…父様が半滅した瞬間中身が変わったように怯えた態度へと変わった…父様の予想外の強さに怖くなった…?いや、それだけじゃない……もしかしなくてもアイツ絡みだよな……ルーちゃん…)
リリーナは睨みを効かせながら敵軍達がいったい何をされたのか、何を言われたのか、何故あれほどまでに取り乱しているのか、アイツはそんなに恐ろしいヤツなのか、愛するメルーナが無事なのかを考えながら銃を構える。
すると奥で数人の敵にロセが囲まれていた。
「ロセさん!」
「!…リリーナ様!少し助太刀を!」
リリーナはロセの元へと走り出したが、すぐ後ろでロセの状況に強く反応を乱した人物がいた。
「ロセさん!!」
グイユだった。
グイユはロセの状況にひどく取り乱し、すぐさまグイユは周りを見ずロセの元へと向かった。
が、その瞬間、後ろを振り向いたリリーナは似合わないほどに顔を真っ青に染め、そして強く声を絞り出した。
「グイユ!!しゃがめぇ!!!」
バキッ!!グチャ…クチャ…ゴプッ…
ブシャァァ!!!!
骨を噛み砕くような音、肉を噛み締めるような音、恐ろしい勢いで噴き出す血、それらはその場の時を止めた。
グイユは腕どころか右肩ごと化物に食いちぎられてしまったのだ。否、むしろ右肩で済んで良かったと言うべきだろう。
グイユは最初何が起こったか理解出来ていなかったが、徐々に状況を理解するにつれ、声を出せないほどの痛みと強烈な吐き気に襲われた。
そして
「グイユ様!!!!!」
悲痛なロセの叫びが響いた。
「……」
リリーナは無言のままロセを囲んでいた敵達を一瞬でなぎ払い、グイユの腕をまだ口に入れている化物の頭銃で撃ち貫きながらロセに早くグイユを治療してあげてと伝えた。
ロセは罪悪感満載の表情で頷きグイユの元へと全速力で向かった。
「グイユ…!貴様ら!!」
大切な乳兄弟に大きな傷を与えられたルイゼンは怒りに血管が切れそうになっていた。
「メルーナだけではなくグイユにまで!!」
ルイゼンが関係の無い化物に怒りをぶつけている間に、ロセがグイユを抱え運良く側にあった森へと運んだ。
「グイユ様!今治療致しますので!」
しかし痛みで気絶したグイユには聞こえてはいなかったが。
ロセは強い血の匂いと生々しくしっかりとした歯形がついてある肉に倒れそうになったが何とか気を保ち、お得意の治療魔法で血を止め、肉に皮膚を張り巡らせる。
「はぁッ…ふぅ、ごめんなさい…足手まといにならぬはずだっあぅ…フッ」
ロセは上がってくる吐瀉物を飲み込み本人には聞こえぬ謝罪をしながら治療を続ける。
数十分ほど続いた医療が終わると、溢れ続けていた血も止まり、綺麗さすらも見いだせてしまうほどの赤もしっかりと皮膚に包まれていた。
ロセは医療が終わった途端に腰が抜け、動けなくなってしまった。
ロセが何を思うかも分からない表情でグイユを見つめていると、グイユが目をゆっくりと目を開け、頭だけを動かし周りを見渡した。
「…グイユ…様…」
「ロセさん…?」
二人が数秒ほど見つめあった後、グイユは顔を熟した桃のような色にするが、すぐに自身の身に何が起こったかを思い出し、次はブルーベリーのような色に変わる。
「グイユ様吐き気などはごさいませんか?」
「は、はい…大丈夫です」
嘘だ、物凄く吐きたい。しかし目の前には思い人がいるため、グイユは少し強がった言葉を発した。
「…ロセのことは気にせず、吐き気があるのでしたら遠慮なく仰って下さいね」
「…はい」
強がったのがすぐにバレてしまったグイユは恥ずかしさで顔を隠したくなった。
それに比例しロセは物凄く苦しそうな表情を浮かべる。
「…あの、申し訳ございませんでした」
ロセはそう言い、グイユに頭を下げた。
「え?!なっ何がですか?!頭上げて下さい!」
「ロセが油断したから…それでグイユ様と…リリーナ様に迷惑を掛け…グイユ様に関しては…
本当に申し訳ございませんでした」
ロセは美しい桃色の瞳を涙で濡らす。
「…ロセさんはお優しいですね。
僕が怪我をしたのは完全に僕自身の不注意です。
正直、気にするな、と言われても難しいでしょうが、本当にお気に為さらず、それにロセさんが無事ならそれだけで僕は嬉しいです」
グイユは泣きわめく子供をあやすような優しく暖かい瞳でロセを見つめた。
「………はい…」
グイユのその表情にロセの心臓が少しだけ跳ね上がったのは内緒の話し………




