軍の前に立つのは
レミーラ王国の兵達は綺麗に整列をする。
そして兵達の目の前には、大きな銃を腰にぶら下げた、副団長のリリーナ・ルイルが立っていた。
「…レミーラ王国の聖女、メルーナ・チェルラーが行方不明となった」
リリーナのいつもとは違う、何かを憎むような表情と声色に兵達は生唾を飲み込む。
「メルーナ様が何故失踪したか…
話を聞いてる者はいるか?」
リリーナの言葉に空気が固まり、息苦しい時間が流れ出す。
皆、何故聖女が失踪したのかを知らされていないのだ。そのため、何のためにこんなにもの沢山の兵が集められたのかに疑問を感じる者もいた。
「…メルーナ様は、姉妹国であるフメル王国の支配者を名乗る男…サーカンス・クーイに拐われたんだ!!」
いつもの可愛らしい、少し癖のある声はまるで悪魔のように激しく、ガラガラとした声に変わり果てていた。
ウサギのように小柄で愛らしいその姿が故、騎士団のアイドル枠として君臨していたリリーナ。しかしあまりの変わりように、兵達は分かりやすく戸惑いを見せた。
「…前々から、サーカンス・クーイはメルーナ様を狙っていた」
リリーナは深く深呼吸をし、話を続けた。
「メルーナ様に被害が及ばぬよう、我々は目を光らせていた。しかし、少し隙を見せたその瞬間、メルーナ様は何処からともなく現れたサーカンス・クーイにより拐われてしまった」
兵達が信じられないかのように声を漏らし、その場にざわめきが生まれる。
「…メルーナ様の婚約者様であり、次期にこのレミーラ王国を納めるであろう王太子様の命令により、1ヶ月程前に捜索隊がフメル王国へ向かった。しかし、捜索隊からの報告によると、どうやらレミーラ王国とフメル王国を繋ぐワープゲートが破壊されていたそうだ。
何故ワープゲートが破壊されていたのか…そんなもの、考えなくても分かる。
メルーナ様を我々に救出させないよう、サーカンス・クーイが破壊させたに違いない!!」
リリーナが大声で煽るように言葉を吐き出す。
それに感化されたのか、兵達も次々と聖女を拐った恨みとしてサーカンスに対する罵倒を始める。
「お前ら!!アイツはメルーナ様を拐っただけではあきたらず!先代の国王様が作り上げた繋がりを自らの手で破壊した!!これは間違いなく、我々レミーラ王国への宣戦布告だ!!」
ウオォー!!!!と熱が上がりきった兵達は声を荒げる。
「いいかお前ら!!これはわたしが決めたのではなく、王太子様の命令だ!メルーナ様を取り戻し、フメル王国を潰すのだ!」
ウオォー!!!
沢山の兵達を従わせ、感情を操り戦を促す。
罪の無い平民が苦しみ、兵を英雄と崇めたたえ、敵の血を舐め息絶える。
戦という物はそういう物だ。
リリーナだって最初は戸惑いを見せた、間抜けなメルヘン王子を疑った。しかし覚悟が決まった今のリリーナの瞳は酷く冷たかった。
16の少女が愛する親友のために血溜まりに飛び込むのだ。
父親は何度もリリーナを引き留めた、しかし、覚悟した娘に何を言っても、もう手遅れなのだ。
勝つか負けるか。それすらも分からない。
…いや、勝つのだ、リリーナは自身の頬を叩き目を覚ます。
そして、愛する結奈に心からの謝罪をするのだった。
……………………
(…さて、どうしたものか…)
ルイゼンの専属護衛のグイユはレミーラ王国の大臣達と共にテーブル一面に敷いてある巨大なフメル王国の地図を見渡す。
「やはりここから攻め混んだ方が...」
「…いや、そちらから攻め混むと…」
大臣達がどうフメル王国に攻め混むかを話し合っているのを横目に、グイユはどこか一転を見つめ続ける。
(…戦…するんだ…実感…ないな)
グイユは未だに主が言った事を信じられずにいた。
ルイゼンはどこか世間知らずな王子様で、まるで人魚のように夢見がちだった。
グイユはルイゼンが戦をする発言をした時、何度も考え直すように促した。確かに、聖女様を拐われた事も、ワープゲートを破壊されたことも事実だ、しかし、だからといってそう簡単に戦はやるものではない。
だかルイゼンはどれだけ止めても駄目だった。そしていつの間にかその話は騎士団にまで流れ込み、兵達もリリーナの言葉に操られ戦をするき満々だった。
そして今、ついに大臣達が集まり戦の話し合いをしているのだ。
(…僕はルイゼンの専属だから積極的に戦に参戦はしないけど…どちらにせよ戦場には向かうからワンチャン死ぬかもな……まだあの方に気持ち伝えて無いんだけどな…今からでも伝えに行くか?
…いや、駄目だ!あの方だって聖女様を失い悲しみに暮れているんだ。
…なら今がチャンスでは?)
「グイユ殿はどう思われますでしょうか?」
「え?あっ…えと…」
「大丈夫ですか、グイユ殿」
「ご心配無く...」
今は戦に集中しなくては…とグイユは目線を地図へと落とした。




