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最後の優しさ

 結奈(ゆいな)は何もない天井を見つめ続ける。

 何もない。何も出来ない。

 手、足、首。これでもかってほどの鎖が結奈を縛りつける。

 これでは逃げるどころか立つことすらも難しい状態だ。

 しかし結奈は逃げるつもりなど無く、ただ全てを諦めたようになにもしないでいると、重い鉄の扉が開く音が聞こえた。


「元気ですか?」

「…元気に見えますか...?」

「いいえ」

「なら聞かないで下さい」


 結奈はどろりと絡み付くような不気味な声の持ち主、サーカンスの目も見ず返事をする。


「…ここ最近、貴女から生きる意思を感じません」

「…無の空間に長くいると、どうしても自身の人生を振り返ってしまいます。考えれば考えるほど、馬鹿げた私の人生…生きるのはもう疲れました、人生の休息が欲しいです」

「殺してくれと?」

「そう感じたのであればそう受け取って貰っても構いません」

「残念ながら、貴女にはこれからもフメル王国のために生きていただく必要がありますので」

「醜い人生に反逆罪という更に醜くいトッピングを施して終わらせたくありません。せめてものプライドです。というか、考えてたんですけど、わざわざ私を拐わなくとも、またフメル王国から新しい聖女を探せば良いのでは?」

「それが出来ているのであれば、私は貴女を拐っていません」


 サーカンスは壁に体を預けながら結奈に冷めた目を向ける。


「今はまだ、いないんですよ、フメル王国に聖女の力を持つものが」

「いない…?」

「えぇ、居なくなったバルツを探しつつ、保険で聖女の力を持つものを探していたのですが、まぁ案の定、見つかりませんでしたよ」


 サーカンスは呆れたようにため息をつく。


「…案の定?何か心当たりでも?」


 結奈はサーカンスの話に興味を持ち始める。


「ひとつだけ。

 貴女は【歴代聖女の記録】という名の本をご存じで?」

「いいえ。始めて聞きました」

「その本は名のとうり、フメル王国で生を受けた聖女達一人一人が記録されているんです。いつ生まれ、いつ死んだかも事細かく。レミーラ王国にもあるはずですよ」


 サーカンスは結奈が寝転んでいるベッドへと腰を掛ける。


「当時私がその本を見つけた時は、あまりその本に興味はありませんでしたが…まぁ多少の暇潰しとして、私はその本に目を通しました。

 最近のうちは特に何も感じませんでしたが…

 途中で、私は違和感に気付きました。


 本に記録されている歴代聖女達は皆

 一世代前の聖女が亡くなってから必ず【一週間以内】に聖女としてこの国、フメル王国に産まれ堕ちており、逆に言いますと、聖女が【亡くなるまでは】新しい聖女は産まれてこないという事です」

「ほぇ…何だか都合が良いですね…」  


 結奈は「偶然…とは思えませんね」などと呟く。


「えぇ、きっと神が【そうなるように】操っているのでしょうね。

 まぁ、あくまでもこれはひとつの考察に過ぎないので間違いがある可能の方が大きいですが」

「なるほどですか…つまりはバルツさんが亡くならない限りはフメル王国にて新たな聖女は産まれない…だからわざわざ私を拐って監禁までしている」

「そういう事です」


【上手く出来ている】結奈はサーカンスの話を聞き、そのように感じた。  


「…なんとなくは分かりました。しかし何度も言いますが、私は反逆罪を犯すつもりはありません。これ以上、醜い人生を歩みたくはありません

というか、そう思うのでしたら何故尚更私を殺さないのですか?私を殺してレミーラ王国で新しく産まれた聖女を誘拐した方が効率的では?私が言うのもなんですが」

「…赤子を含め子供は大っ嫌いです。見ているだけで潰したくなる」

「変なやつ、私が貴方なら嫌いでも赤子の方を使いますが…

もしかして赤子は自身の思い通りにならないから嫌いとかの理由ですか?」


 結奈は馬鹿にしたように言葉を吐き出した瞬間、結奈の首にかけられていた重い鎖がガチャと音を立て外れたが、

 すぐに冷たく、ゴツゴツとした大きな片手がメルーナの細く美しい首を包んだ。


「……最後の【お願い】です。

 フメル王国の神に祈りを捧げてはくれませんか?

 もし、断るようでしたら…次から私は手段を選びませんよ?…

 …あぁ、後、一応言っておきますが、フメル王国とレミーラ王国を繋ぐワープゲートは使えなくしておきましたからね。

 …もう逃げる気は無いでしょうが…」 


 サーカンスは結奈を睨み付けるようにしながらメルーナのサラサラな髪に触れ、最後の優しさを見せる。


「…そうですか。サーカンス様の言うとうり、私は逃げる気どころか、もう死んでも構いません。

 むしろこれ以上罪を増やさぬうちに消え去りたいです。このまま首を絞めて下さいよ、サーカンス様?」


 結奈は口角だけを上げる。


「…つまりは【断る】ということで間違いはありませんね?


 …はぁー、馬鹿な女だ、せっかく最後の選択を与えたのに…」


 サーカンスは結奈は首から手を離し、ため息をつきながら髪をかきあげる。


「友好タイムは終わってしまいましたか…」

「貴女がわがままな選択をしたせいで…ね」


 二人は不思議な雰囲気を纏いながら、お互いに嫌悪の目を向ける。


「では、私はこれで失礼します。…明日からが楽しみですね」


 サーカンスはベッド腰かけていたベッドから立ち上がり、再度メルーナの首に鎖を着ける。

 それが終わると、サーカンスは扉へと向かい、最後に結奈に青年のような薄っぺらい笑みを見せつける。


「…何度も言いましたが、私は人生を諦めました。だからこそ、もう穢れるような選択は致しません。

 まだ間に合ううちにこの世を去ります」

「ダメですよ、貴女には必ずフメル王国で祈っていただかなくては、こちらも何度も言いましたが、時間がないんです」

「何故私が、サーカンス様の尻拭いをしなくてはいけないんですか?」


 全てを諦めた結奈は怯えることなく、むしろ馬鹿にしたような瞳をサーカンスに向ける。


「私の尻拭いではなく、愚妹(バルツ)の尻拭いの間違いでは?」

「私は貴方が嫌いです。ここまで他人に嫌悪感を抱いたのは産まれて始めてです」

「それはそれは光栄です」


 サーカンスは結奈に目も向けず、そのまま部屋を去ってしまった。

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