姉妹国の破綻
森の中、シーンと静まり返った教会。
その静寂の中、人ならざぬ声が響く。
(…フメル…)
………
民達は不安と絶望の声を漏らす。
レミーラ王国の聖女である、【メルーナ・チェルラー】が失踪し、1ヶ月の月日が経過していた。
美しく、高貴な聖女様が失踪しているともなれば、それは民達にとってとんだニュースだ。そのためか、町中では何処を見回しても、メルーナ失踪の記事しか見当たらなかった。
しかし、人とは残酷なものだ。
今はまだ、皆メルーナにすがっているが、数ヶ月後には皆の興味はメルーナからはなれてゆき、次の新しい聖女を求めだすだろう。
人とはそんなものだ。
「…あぁ、聖女様…」
一人は手を祈るような形にする。
「…聖女様、どうかご無事で」
一人は涙を流し、メルーナを想う。
「…聖女様なら必ずお戻りになられるであろう」
一人は慰めるように証拠もない確信の声を上げる。
そんな民達を丈夫な城から見つめ続ける、一人の男がいた。
(…どうせ、後数ヶ月後にはコイツらもメルーナの事を忘れるんだ…)
自室から外の様子を見ていたルイゼンは、歯をギリギリと強く噛みながら見下すように町を彷徨く民達に目を向ける。
(あぁ、メルーナ、きっと今頃寂しい思いをしているに違いない。大丈夫だよ、すぐに兵達が君を見つけ出してくれるからね。そして君を拐った怪人を退治するんだ。君と一緒に、二人の愛で!)
ルイゼンは目を輝かせ、幼子のようにはしゃぎだす。
次期国王とは到底思えない姿で。
ルイゼンが平和な妄想に想いを馳せていると、自室の扉ををノックする音が聞こえた。
ルイゼンは「どうぞ」と言い、扉を開けさせた。
「失礼します。王太子様」
扉の向こうにいたのは、ルイゼンの乳兄弟であり、幼い頃からルイゼンの専属護衛をしていた【グイユ・ザイーグ】だった。
グイユはエメラルド色の綺麗な長い髪を靡かせながら、頭を下げ、ルイゼンの目の前へと向かい、片膝をついた。
「片膝をつくのはやめてくれ、グイユ。俺達はそんな関係じゃないだろ?」
「一応ですよ」
「いいから」
ルイゼンは苦笑いを溢しながらグイユを立たせる。
「…ところでグイユ、捜索隊の人達はどうなった、メルーナは?見つかった?」
「…いいえ、聖女様はまだ見つかっておりません。と言いますか…
…どうやら捜索隊は今日、フメル王国に到着したようです。」
「え?どうしてだい?捜索隊は数週間前に送り出したではないか。なぜそんなにも時間がかかったんだい?何かあったのかい?」
「…すみません。僕も今、連絡を受けたものでして…
捜索隊に聞いた話によりますと、レミーラ王国とフメル王国を繋ぐワープゲートが使えなくなっていたようです。
なので捜索隊も時間がかかるのを承知で海を渡り、やっとフメル王国に到着したようです。そのため、こちらへの連絡が遅れてしまったようです。」
「ワープゲートが?」
「はい、これはあくまで我々の考えですが、きっとフメル王国の者達が我々、レミーラ王国の者を通さぬよう、【聖女を逃がさぬよう】ワープゲートを使えなくしたに違いはないかと…」
グイユのその言葉は【主人公】なルイゼンの怒りを買ってしまった。
「…そうかい、そっちがその気であれば、こちらも遠慮なんてしない。
グイユ…皆さんに伝えてはくれないかい?
戦の準備をしてくれ…と」
ルイゼンはレミーラ王国への宣戦布告を感じ取った。
………
「…戦…?フメル王国と?」
「あぁ」
アルバンのその言葉に、リリーナは手で拳を作り、血が滲むほど強く握った。
華奢な肩を震わせ、下を俯いている実の娘に同情の瞳を被せたアルバンは、リリーナの小さな頭に大きい手を乗せながら、リリーナを安心させようと、口を開いた。
「大丈夫だ、リリーナ。父様に任せなさい。リリーナはこの城で母様と共に行動していてくれ。
父様は戦の先頭を立たなくてはいけないからね」
「……」
リリーナは黙ったままだ。
「…大丈夫だ、リリーナは―」
「わたしが立つ」
「…何がだ?」
「戦の先頭、わたしが立つ」
「何を言っているんだリリーナ。これは遊びではない。血で血を洗う戦いだ。リリーナにはこの城で―」
「わたしはルーちゃんの【親友】だから。
大切な親友に手を出したあのクズメガネをグチャグチャにしないと気が済まない。それに、父様、お腹大怪我してるでしょ?」
「なッ?!」
「気づいてないとでも思った?少し前にやらかしたんでしょ?そんなんで先頭立たれても困るのは後ろにいる人達だから」
「…リリーナ…」
「父様は何のためにわたしに剣術を叩き込んでるの?何のためにわたしに肉体戦を叩き込んでるの?
何のためにわたしを副団長にしたの?
…わたしを次の軍団長に仕立て上げるためでしょ?」
「……」
「父様がなんて言おうと、先頭に立つのはわたしだから。
そして、あのクズに復讐する…ルーちゃんが苦しんだ以上に苦しめてやる!!」
娘の今までに感じたことのない恐ろしいほどの殺意にアルバンは不安を感じた。
まるで、リリーナがリリーナでは無くなったようだった。
「…絶対に…ルーちゃんを取り戻す」
「必ず、メルーナを見つけ出す」
二人の意思が合わさった瞬間だった。




