共依存
「…は?」
リリーナは顔をこわばらせながら瞳を歪に歪める。
「…冗談だよね?
…なんも面白くないよ?【ルーちゃんが拐われた】って…」
リリーナはじんわりと汗をかきながら手を震えさせる。
「てか…待って、何でそんなことになったの?
ねぇ…【ロセさん】?」
「……」
リリーナは下をうつむき何も喋らないロセに言葉を投げ掛ける。
しかしリリーナの問いかけに答えたのはロセではなく、リリーナの尊敬する父、アルバンだった。
「…リリーナ、ロセ殿の話によると、どうやらメルーナ様は隣国の王、【サーカンス殿】に拐われたそうで―」
「サーカンス…?
…ッ!アイツ!!!!」
リリーナはサーカンスの名を聞いた瞬間、切り裂くような声で怒りを含めた言葉を吐き捨てる。
「リリーナ…?何処に行く!リリーナ!」
リリーナはアルバンの言葉を聞かず、そのまま部屋を出ていった。
カツカツとヒールの音を鳴り響かせながら、リリーナは何処に行くでもなく、長い長い廊下をひたすらに歩く。
あり得ない…アイツ、まだルーちゃんを諦めてなかったわけ?!
リリーナは自身の爪をギリギリと噛みながら、真っ暗な瞳で何処かを睨み続け、荒い呼吸を繰り返す。
早く、早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く!!!!早くルーちゃんを助けないと!アイツルーちゃんに何をしでかすか分かったもんじゃない!
…わたしにはルーちゃんが、ルーちゃんがいないと!!
……ルーちゃんがいないと…
わたし、生きてけない…
………
「ルーちゃん!!こっちー!!」
「フフ…はーい」
リリーナは一面に広がる花畑のど真ん中で結奈に手招きをする。
結奈が近づいてくると、リリーナは結奈の薄く細い腰に腕を回し力強く抱き締める。
「ウグッ、リ、リリーナちゃん…力、強っ!」
結奈は苦しそうに顔を紫に染める。
「あ、ごめんルーちゃん」
「だ、大丈夫!物凄く愛を感じるハグだったよ!」
結奈は親指を立てながら、先ほどまで腕が絡み付いていたお腹を優しくさする。
「…力加減難しいな…」
「んぇ?何て?」
「んーん!なんでもない!それより早く座ろ!」
「うん」
二人は花を潰さぬように気を付けながらシートを引き、その上に座り込む。
「綺麗だね」
「ルーちゃんの方が綺麗だよ」
「フフ…ベタだよリリーナちゃん」
「あはは!!」
二人が楽しく戯れていると、前から心地のよい風が流れ込み、花達はその風にのりながら優雅に踊りだした。
ふと何となく、リリーナは風に従うように隣にいる結奈の方へと目を向けた。
そこには、日に照らされ、風を受ける美しき少女が静かに踊る花を見つめていた。
もし、知らぬ人が今の光景を目の当たりにしたのならば、きっと女神が地上に降りてきたのだと勘違いをしてしまうだろう。
サラサラで柔らかく、まるで一本一本に命が吹き込まれているかのように美しく靡くロングの髪。
真っ白なキャンバスのように汚れひとつない、透き通った肌。
長い睫毛に隠された、紫水晶を魅せる瞳。
天使に愛されるほどの、透明で輝く硝子のような繊細な声。
挙げてしまえばキリがないほどの魅力を持つ。それが、メルーナ・チェルラーという存在だ。
だが、リリーナは知ってる。メルーナ、もとい結奈の一番美しいところは、その女神のような【外見】ではなく、女神のように【全てを受け入れる】事が出来るその内面だということを。
ルイル家ではなく、リリーナとして受け入れてくれたように。
(…他の奴らはルーちゃんの外見しか見てない。本当、馬鹿ばっか…でも、わたしは、わたし【だけ】が知ってる。
だって、この世で一番ルーちゃんを愛してるのは【わたし】だから。
あの馬鹿な婚約者なんかじゃない。
わたしだから。
…だから、わたしをルーちゃんの【一番】にして。
その愛が積もった瞳で、わたしだけを見つめて…
…なんて…わたしらしくないや)
リリーナはイエローの宝石がついた指輪を優しく撫でる。
そして、消え去りそうなほどの小さな声で呟いた。
「…わたしだけ…見て…」
リリーナの可笑しな愛情が詰まったその言葉は、まだ少し冷えた風が何処かへと連れ去った。
…はずだった。
「…私はリリーナちゃんしか見てないよ…♡」
グチャグチャとした言葉はリリーナの耳には届かなかった。
………
「…ルーちゃん」
リリーナは少し前の想い出を振り返りながら、自身の部屋で大粒の涙を頬に滑らせながら、喘ぎ苦しむ。
「…早く、ルーちゃん助けないと…ルーちゃん今頃物凄く怯えてる。わたしが助けてないと。
私はルーちゃんの【親友】だから」
リリーナは涙を袖で拭い続ける。
…許さない、絶対に許さない。
…わたしは…お前に、サーカンスに復讐してやる!!ルーちゃんに手を出した間抜けな自身を恨み続けて死ね。屑な自身に後悔しながら死ね……一生死ね!!一生殺してやる!!
リリーナは瞳にはもう、依存と殺意しか見えなかった。




