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貴女の親友

「もー!」

「まぁまぁ…」


 結奈(ゆいな)はぷりぷりと可愛らしく怒るリリーナを宥めながら新しい教室へと向かう。

 しかし、先ほどのルイゼンの言葉は結奈さえも苛立ちを覚えた。

 きっと本人は無意識なのだろう、尚更タチが悪い。


 結奈はそんな事を考えながら、目の前にある教室の扉を開く。すると…


「あっ!聖女様だわ!!」

「本当?!」

「聖女様!!」

「なんと美しい…」


 皆がメルーナの存在に気付くと、教室がわっ!と一斉に騒ぎだした。

 結奈があまりの圧に驚き、立ち尽くしていると、

 隣で手を繋いでいたリリーナが結奈の前に立ち、庇うようにしながら教室の中へと入って行った。

 それを見ていた他の生徒達はヒソヒソと何かを話し合う。


「何なの?あの()?」

「聖女様にお近づきになれたからって…」

「…わたくし達に自慢でもしているんじゃない?」


 リリーナに対する憎悪にまみれた嫌味な声があちこちから聞こえてくる。


 結奈は嫌に纏わりつく言葉の数々に眉間にシワを寄せながらリリーナを見つめる。

 しかしリリーナは涼しい顔をしながら自身の席へと向かう。そんなリリーナの態度がお嬢様達の癪に触ったのだろう、教室中に醜い言葉が次々と溢れ出す。


 大切なリリーナに言葉の刃を突き刺す醜いお嬢様達に嫌気が差した結奈は、リリーナを守るため、反論の言葉を振りかざそうとすると、何処からか焦りの声が聞こえてきた。


「…ねぇ、あの()って【ルイル家】のお嬢様じゃあ…」



 その言葉が教室中を包み込んだ瞬間、ざわざわとした声はびっくりするほど一気に静まり返った。


「ル、ルイル家…」

「…嘘」


 醜い言葉の次は驚きの言葉が教室中に溢れかえる。


 ルイル家、ルイル家ならば【仕方がない】ルイル家のような【名家】は聖女の隣に【釣り合っている】


 手のひらを返した言葉が満ちてゆく。

 そんな気味の悪い言葉に結奈は足を止め、口を開いた。


「…さっきから何なんですか…貴女達…名家だから何なんですか?ルイル家だから何なんですか?私はそんな下心でリリーナちゃんと友達になったわけではありません!!リリーナちゃんの悪口を言わないで下さい!!」


 結奈は怒りを含めた声を晒す。


 メルーナ、聖女の怒り。

 そこに触れてしまった人達は慌てふためき顔を青ざめさせる。


 聖女様、違うんです。聖女様、わたくしそんなつもりじゃ…。聖女様がお家柄で見ないのは分かっています。


 皆、早口で捲し立てるように、各々が弁解の言葉を口に出す。

 薄汚い人間の姿が今なら見放題の状態だ。


 ふと結奈がリリーナの方に顔を向けると、リリーナは満足そうに口角を上げていた。


「…んふふ」


 リリーナは場似合わない明るい声を漏らす。


「リリーナちゃん…―」

「ありがとうルーちゃん!わたしのために怒ってくれて…」


 リリーナは嬉しそうな顔で結奈に優しく微笑んだ。

 そして、リリーナは自身の悪罵を口から漏らしていた人達に向き直り言葉を紡いだ。


「…貴女達も、わたし、今更これくらいじゃ不快に思わないから……でも、だからといって、他人を不快させることばかり言ってると、いつか口を縫われちゃうよ?」


 威勢のよかった人々は気まずそうに顔を沈め、リリーナの言うことに言葉ひとつと返さなかった。


「ルーちゃん…お庭に行こ?」

「へ?いやっ、今から色々な授業が―」

「よし!レッツゴー!!」


 リリーナはケラケラと笑いながら結奈の腕を引っ張った。




 ………




 様々な花が主張をしながら美しく咲いている。

 結奈はそんな花達に見惚れながらリリーナの後ろを歩く。


「ルーちゃん、あったよ、座って?」


 リリーナに腕を掴まれ案内された先には、綺麗な花に囲まれポツンと存在する、お茶会用の白いテーブルと椅子だった。


「どーぞ、ルーちゃん」

「あ、ありがとう」


 リリーナは椅子を引き、結奈を座らせたあと、結奈の目の前にある椅子に座わった。


「んふふ…わたし達、二年生になって初めての授業、サボっちゃったね?」


 リリーナは艶かしく首をかしげながら小さな声で呟く。


「怒られちゃうね…私達…」


 結奈は苦笑いしつつも、どこか楽しそうに呟く。


「だね…ねぇねぇ、ルーちゃん、わたしね、さっきの言葉、物凄く嬉しかった……


 …わたしね、ずっとね【ルイル家】としてしか見られてなかったんだ…誰も【リリーナ】として見てくれなかった。

 さっきも、わたしがルイル家だって分かった瞬間、皆手のひら返してた。

 皆、わたしに媚び売るばかり。


 わたしが【名家】出身だから…わたし、何回も考えた、わたしがルイル家【じゃなかったら】…もしかしたら、もっといっぱいの人がわたし(リリーナ)を見てくれてたんじゃないかって…


 …なんてね!ごめんね、変なお話ししちゃって」


 リリーナはいつもどうりの明るい表情で結奈に向き直す。


「…ありがとう…」

「…ん?」

「その話し、私にしてくれてありがとう…リリーナちゃんが私を信頼してくれてるから、だから、私に話してくれたって、私は勝手に思ってるから」


 結奈は自身に打ち明けてくれたリリーナに感謝の言葉を伝える。


「んふふ…何それ…おかしなルーちゃん。普通、こんなマイナスな話しされたら嫌じゃない?」

「嫌じゃないよ、少なくとも、私は嬉しかった」


 今まで、相手のマイナスな部分を知ることが出来なかった結奈にとって、リリーナの話しは結奈からしたら信頼の証でしかなかった。


「…やっぱり、あの時ルーちゃんに声かけてよかった!わたしルーちゃんのお陰でどうしようもないぐらいに幸せ!」

「リリーナちゃん!…私も!リリーナちゃんのお陰で凄く幸せ!」


結奈は薬指に付いたブルーの宝石を持つ指輪を愛でるように撫でながら、リリーナに対するドロリとしたオカシナ愛情を膨らました。

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