二回目の二年生
「うぅ~お嬢様…お嬢様が…二年生…」
「わかった、わかりましたから」
結奈は顔をくしゃくしゃにしながら涙を流すロセを泣き止ませる。
時とは恐ろしい物だ。結奈がメルーナとして転生してから、もう一年が過ぎた。
そして、結奈はこれから二度の高校二年生になるための準備中だ。
(そういえば...フメル王国ってどうなったんだろ…祈らないと神様怒るんじゃ…)
フメル王国、数ヶ月前、結奈がメルーナと遊びにへと足を運んだ王国だ。
結奈はあれから、自身を狙っているサーカンスが目の前に現れるかもしれないと警戒していたが、得に何の音沙汰もなかったため、結奈はサーカンスが聖女を諦めたのだと思い、ゆったり過ごしているが、結奈はひとつだけ不安を抱えていた。
(もしかして…サーカンスさんが私の目の前に現れないのって【バルツ】さんが見つかったからとかじゃないよね…?
…大丈夫かな…バルツさん…どうか、バルツさんが見つかっていませんように)
結奈は姿も知らぬ、バルツの安全を祈った。
サーカンスはイカレタ男だ。そしてバルツはそんなサーカンスに虐げられていた。
ムチを打たれ、見下され…【愛されない】…
結奈はそんなバルツに少しだけ自分を重ねていた。
「うぅ、お嬢様~」
「フフ…大丈夫ですから、ロセさん」
結奈はロセに微笑みながら、目の前にある鏡に向き直し、二年生専用のリボンを身につける。
……やっぱり、いつになっても慣れないな…
…今の私は聖女
でも、聖女に近付ける気なんて全くしない。
…でも、いつか…受け入れられるようにならないと…
向けられる愛を、全て。
結奈は目を瞑り、深く深呼吸をした。
………
最初は大きさに驚いた校舎も、今となれば何の感情
もわかない。
メルーナが群衆の目線を独り占めしながら、校舎へと向かっていると、背後から軽く、小さな足音が聞こえた。
「ルーちゃん!」
「わっ!リリーナちゃん」
結奈は背中にトンッという衝撃を感じ振り向くと、リリーナが、結奈に抱きついていた。
「んふふ、ルーちゃん、ルーちゃん!」
リリーナはメルーナの名前を連呼しながら、結奈の手を握った。
(…かわいい…♡)
「どうしたの?リリーナちゃん」
「ん~?何でもなぁ~い…!」
「そっかぁ…何でもないかぁ…♡」
結奈はリリーナをドロドロと熱が籠った瞳で見つめる。
「ルーちゃん!わたし達、また同じクラスになるといいね!」
「うん!そうだね!」
二人は緊張と不安で胸を高鳴らせながら校舎へと入り、綺麗な額縁に飾られてあるクラス表を見上げる。
(…メルーナ・チェルラー…メルーナ・チェルラー…)
「あ"!!」
「わぁ?!」
結奈が眉をひそめながら【メルーナ・チェルラー】の名を探していると、隣にいるリリーナが大きな声を出した。
「ど、どうしたの?リリーナちゃん?」
「一緒!!一緒だよ!ルーちゃん!」
リリーナは興奮気味に結奈の指を包み、握りながら何かを伝える。
「一緒…?」
結奈がクラス表を再度見つめ直すと、【メルーナ・チェルラー】の名の真下に【リリーナ・ルイル】の名が書いてあった。
「やった…!やったね!リリーナちゃん!」
「うん!やったね!ルーちゃん!」
二人は両手を繋ぎながら、嬉しそうに言葉を交わしていると、何処からか、メルーナを呼ぶ声がした。
「メルーナ!」
「…ルイゼン!」
メルーナを呼ぶ声の持ち主はルイゼンだった。
「久しぶりだね、メルーナ!」
「うん、久しぶり」
結奈はぎこちない返事をする。
初めてルイゼンを見た時の結奈は、その麗しい外見や、素直な性格に少しだけ心を射たれたが、
今の結奈はあまりルイゼンを好いてはいないようだ。
ルイゼンは良くも悪くも【主人公】だ。
明るい性格で皆を温め、優しい言葉を与える。
しかし、その明るい性格は、卑屈な人とっては【毒】でしかない。
その優しい言葉は、一歩間違えば【死】への引き金になってしまう。
けれども、ルイゼンはその事には気付かず、皆を温め続ける。
結奈には【毒】でしかない温かさで...
「メルーナ!良かったらこの後お茶会でもしないかい?君の進級祝いに!」
「あぁ…えっと…」
結奈はどのような言葉で断るか考えていると、リリーナが結奈の前に出て、ルイゼンに話しかけた。
「ごきげんよう、王太子様」
「ごきげんよう…えっと君は…?」
「初めまして、わたくし、リリーナ・ルイルと申します、メルーナ様のご友人関係を築かせていただいております。」
リリーナは今まで聞いたことの無いしっかりとした口調で喋りだす。
「ルイル…もしかしてアルバン殿の…」
「はい」
アルバンは驚きの表情を見せた後、すぐさま感心の表情へと変えた。
「流石だねメルーナ!まさか【ルイル家】のお嬢様とも親しい関係になるなんて!!やはりメルーナには【ルイル家】のような名家の人達が似合っているよ!」
「…は?」
ルイゼンが心酔したようにメルーナを褒め称えていると、リリーナがドスのある声を発した。
「…申し訳ございません、王太子様、メルーナ様はわたくしとのお約束があるので、王太子様と時間を共に過ごすことは出来ません」
丁寧な口調だが、刃が含まれているような言葉で、結奈の代わりにルイゼンに断りを入れる。
「…そうだったんだね…それはすまない、では、また今度誘わせて貰うね」
ルイゼンはその言葉を最後に、二人に背を向けながら何処かへと消え去った。
「……ムカつく、ルーちゃんはわたしがルイル家だから仲良くなったんじゃないもん…」
「…リリーナちゃん…勿論だよ…私はリリーナちゃんが話しかけてくれたから仲良くなったんだよ」
(て言うか私普通にリリーナちゃんがアルバンさんの娘だって気付かなかったし…)
リリーナは先ほどのルイゼンの言葉に小声で不満を漏らす。
「…教室に行こ、ルーちゃん」
「うん…」
二人はお互いの友情に縋るように、強く手を握った。




