イカレタ支配者
「…行方不明…?てか、普通にやばくない?それ」
リリーナは腕を組ながら不思議がった表情を見せた。
「えぇヤバイんです…本当、勘弁してほしいですよ」
男はハァーとため息をつきながら面倒くさそうに、黒色と赤色のグラデーションになっている髪をかきあげる。前髪がかきあげられたことにより、男の顔がよく見えるようになった。
男はメガネをかけており、そのレンズ奥には左右で色が違う、どこか闇を感じる瞳を持っていた。
片目は血に濡れた薔薇のような赤色。片目は全てを見透かしているような白色。
目鼻立ちがしっかりしており、綺麗に整った輪郭。簡単に言えばイケメンだ。
「そういえば…お前さぁ、名前何て言うの?」
「名前…ですか…」
「そう言ってるじゃん」
「…名乗っておりませんでしたね、私の名前は【サーカンス・クーイ】と申します。一応、フメル王国の支配者をやらせてもらってます。
よろしくお願いいたしますね、ルイル嬢…メルーナ様」
男…もといサーカンスは胡散臭い笑みを結奈に向ける。
結奈はゾワッとした感覚が身体中を襲った。
「…話戻るけど、聖女が行方不明って何があったわけ?まぁ、あったとしてルーちゃんはダメだけど」
リリーナはサーカンスにフメル王国で何が起こったかを聞きつつ、結奈に近付くなと釘を刺す。
「そうですね、少しだけ長くなりますが、フメル王国の聖女である、私の【妹】…【バルツ】の様子が半年ほど前から可笑しくなったのです。
それまでは、得に何の異常も無く、相変わらす無能な妹だったのですが……
何でもない日にいきなり【人が変わった】ように、私に愛されようと媚びを売らなくなったのです。
それどころか、私を邪険に扱いだしたのです。何度か態度を改めさせるために【仕置き】をしたのですが…バルツはビクともせず、平気な顔をして私を悪態を―」
「待て」
「?どうされましたか?」
サーカンスは頭に?を浮かべ、首をかしげる。
「…取り敢えずお前がトチ狂ってるって事が分かったわ…ゴミが…」
サーカンスは自身の妹、バルツに対し、当たり前かのように酷く罵倒し、酷く仕置きする。そしてそれが異常だと気付いていないサーカンスにリリーナは嫌悪感を示す。
「…続き…」
「はい、取り敢えず、そんな毎日を続けているうちに、いつの間にかバルツが部屋に閉じ籠り、出てこなくなったのです。最初は、私も愚かな妹に呆れ返っていたのですが…1ヶ月経ってもバルツは部屋から出てこなかったのです。いつもは部屋に閉じ籠っても必ず二、三日には出てきて、私に謝りに来てたのですが、それが一切無かったので、私はとうとう我慢の限界が来てしまい、バルツの部屋に押し掛けたのです…しかしそこにバルツは居らず、あったのは一枚の紙切れでして…【愛する人の居場所を見つけた】とだけ書いてあったんです。
それで私達は愚かな妹を探していたのですが…」
「全く見つからなかった」
「はい、いい加減探し飽きてきてたので、どうしようかと思っていた所に同じ祈りの力を持つ…メルーナ様を見つけたのです」
サーカンスは清々しほどの笑みを浮かべる。
「…それでルーちゃんを代役に、馬鹿だな、お前…
結局、見下してる妹に逃げ切れられてんじゃん
…能ある鷹は爪隠す…この事を言うんじゃない?」
リリーナはサーカンスに嫌悪の言葉を浴びせながら背を向ける。
「ルーちゃん!本当はカフェに行きたかったけど…そろそろ時間だし帰ろっか!」
リリーナは結奈の手を握り、馬車がある場所へと歩みを進めた。
結奈はチラッと後ろを振り向くと、サーカンスはリリーナにコテンパンニされた護衛の一人を思いっきり踏みつけていた。
サーカンスは自身を見ている結奈に気付くと、好青年のような笑みを浮かべ、手を振った。
結奈はとっさに、サーカンスから目を背け、リリーナの手を強く握った。
「あっ!ルーちゃん!ドレス!!」
「はっ!危ない、忘れるところだった!」
………
「お嬢様、リリーナ嬢と過ごす休日はいかがでしたか?」
ロセはお風呂上がりのメルーナの絹のような髪を乾かしながら、結奈に楽しかったかを聞いた。
「…はい!とても楽しかったです!」
(後半の出来事を除いたら)
結奈はリリーナとのデートを最悪の思い出に塗り替えたあの男、サーカンスに遅めの怒りをぶつける。
「それは良かったです、今日はお疲れでしょう、早めにお休みください」
「はい、ありがとうございます、ロセさん!」
結奈は髪を乾かしてくれたロセが出ていった後、すぐにベッドへと飛び乗った。
そして結奈はサーカンスが話していた事を思い出す。
【私の妹…バルツの様子が【半年】ほど前から可笑しくなったのです
何でもない日にいきなり【人が変わったように】】
結奈の心臓はドクドクと鼓動する。
半年前、人が変わった、結奈の頭にはひとつの言葉が浮かび上がった。
「…魂の入れ替え…」
もしかして…今のバルツさんはバルツさんじゃない…?
結奈は自身との数少ない共通点に、もしもの可能性を考える。
(もし、バルツさんが入れ替わってたとして、半年前ってことは私と同じ時期に誰かバルツさんに転生を……
…あー!!もう!分かんない!)
結奈は顔を枕に埋め、疲れた頭を休ませる事を選んだ




