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 引いていたはずの頭痛が戻ってきた。


 レノンの様子を観察すると、彼女は震えている。顔面蒼白という言葉がこれ以上ないほどに似合う。


「お、奥さまは侍女にとても厳しいお方で……」

「厳しいというより、いじめていたのかしらね」


 記憶がないせいで、以前の自分の行動がわからない。


 しかし、ここまで怯えられているということは、相当ひどく当たっていたということだろう。


「……私の夫に相談しなかったの?」


 そもそも、この屋敷の持ち主はシャルロットの夫のはず。


 相談したら手を打ったのではないだろうか?


「そんなことできません! 旦那さまは大層お忙しいお方です。侍女のことで手を煩わせてしまうことは……」


 レノンが目の前で手をぶんぶんと振る。


 話していてわかったが、彼女は悪い人ではない。ただ、臆病なだけだ。


「レノンはどうして私の侍女を続けていたの?」


 気になって、問いかけてみる。レノンはぽかんとしている。


「あなただって辞めたかったでしょう? 聞いたところ、私は相当傲慢な女だったみたいだし」


 ちらりとレノンの様子をうかがう。彼女は迷った末に、口を開こうとした。そのとき、扉が乱暴にノックされる。


「レノン! いつまで――」


 返事も待たずに、扉が開いた。現れたのは中年の女性だ。衣服からして、彼女も侍女だろう。


 中年の侍女は、シャルロットの顔を見てサーっと顔を青くした。


「も、申し訳ございません! まさか、お目覚めだとは思わず……!」


 今にも床に額をこすりつけそうな勢いだ。一体、どれだけシャルロットが怖いのか。


 頭の片隅で考えつつ、シャルロットは歩く。


「今日は許してあげるわ。けど、今後はこんなことないようにしなさい」

「は、はい!」

「わかったなら、さっさと出て行って。今の私は取り込み中よ」


 冷たく告げると、中年の侍女は逃げるように部屋を出ていった。


 大きな音を立てて扉が閉まる。品のない態度に、若干苛立つ。


「とにかく、着替えます。いつまでもこの格好は寒いわ」


 いくら室内が適温に保たれているとはいえ、薄い布地一枚では寒くてたまらない。


 シャルロットの言葉に、レノンはさっと動き出す。


 レノンの手を借りて、着替えをする。薄い布地のナイトドレスを脱ぎ、生活用のドレスに着替える。


 その後、鏡台の前に座ってレノンに髪の毛を梳いてもらう。ついでに鬱陶しいからと、一つにまとめるように指示を出した。


「朝食は、どうなさいますか……? 食堂に行かれてもよいですし、こちらに運ばせることも可能です」

「そうねぇ」


 食堂に行ったら、シャルロットの夫に会えるだろうか。


 レノンいわく、大層忙しい人らしいが……。


(一度会ったほうがいいでしょうね。そして、現状を話したほうがよさそう)


 夫という立場である以上、シャルロットも無視はできない。


 あちらが放置しているなら、こちらも無視でいいとは思う。しかし、そうではないなら白状したほうがいい。


 ごまかすのも疲れるのだ。


「私の夫だという人は、まだご在宅かしら?」

「は、はい! 最近は割とお屋敷にいらっしゃいます。朝はゆっくりしていらっしゃるので……」

「一度会いたいわ。お話したいことがあるのよ」


 シャルロットの言葉に、レノンが微妙な表情を浮かべる。


「あなたがなにを言いたいのかは知らないけど、お話しなくちゃならないことがあるの」

「かしこまりました」


 強い口調で告げると、レノンは渋々といった風に頭を下げる。


「ところで、私の夫とはどういう人かしら?」

「ど、どうとは?」

「察しが悪いわね。どういう性格の人なの――と言っているのよ」


 ついつい言葉が強くなってしまう。


 レノンが臆病だとわかっているので、優しく言いたいという気持ちはある。でも、うまくいかない。


「えっと、旦那さまは一言でいうと――奥さまと、正反対のお方でございます」

「正反対?」

「はい。とても正義感が強くて、周囲から頼りにされています。伯爵である以上に、騎士団長でもあります」

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