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 彼女に促され、シャルロットはとりあえず朝の支度をすることとなった。


 ぬるま湯で顔を洗い、今日の衣服を選ぶ。なにもわからないシャルロットは、すべてを彼女に任せることにした。


(あの様子だと、私専属の侍女かしら? なんだかすごく怯えていたけど)


 もしかして、記憶がなくなる前の自分は、彼女をいじめていたのだろうか?


 だったら、謝ったほうがいいかもしれない。


「でも、記憶がない私に謝られたところで、心に響かないわよねぇ」


 鏡台の前に座って、ため息を吐く。


「それにしても、なんて美しい人なのかしら」


 鏡に映る自分自身を見て、感嘆の息を漏らす。


 緩く波打つ銀色の長髪。少々きつく見える吊り上がった金色の瞳。双眸を縁取るまつげは長く、唇はぷっくりとしていた。大層な美女だ。唯一気になる点といえば……。


「露出が多いわ。ナイトドレスとはいえ、さすがに際どすぎるわね」


 記憶を失う前の自分は、派手なデザインが好きだったのだろうか。


 薄い赤の布地に、黒いレース。丈は短く、動くのにいちいち気を遣ってしまう。


「もっと落ち着いたものにしましょう」


 つぶやいて、クローゼットのほうに視線を向ける。奥から音はするが、先ほどの女性が出てくる気配はない。


 ちょっとだけ迷って、シャルロットは立ち上がった。クローゼットに続く扉に近づいて、中を覗き込む。


「……うわぁ」


 自然と声が出た。


 クローゼットの中にはこれでもかというほどに、ドレスが詰め込まれている。


 そのどれもが派手なデザインで、露出も多めだ。顔をしかめるシャルロットに気づいたのか、女性がこちらにやってくる。


「も、申し訳ございません! 退屈されてしまいましたよね……」


 いっそ哀れになるほどに怯えていた。


 シャルロットは身を縮める彼女の隣を通り抜け、クローゼットの奥に進んだ。


「これは全部処分しましょうか」


 クローゼット内をぐるりと見渡してぼやくと、彼女がシャルロットのほうに駆けてくる。


「ど、どういうことでございますか!?」

「どういうことと言われても、こんなにいらないじゃない」


 これだけの量は、一年あっても着ることができない。なら、売ってお金にしたほうがいいだろう。


「捨てるのももったいないし、買い取ってもらうのが一番ね。そういう業者はいるのかしら?」

「は、はい……」


 彼女の目が、明らかに困惑している。


「じゃあ、全部売っておいて。その代わりに、落ち着いたデザインのものが数着欲しいわ」

「すぐに手配させていただきます!」

「えぇ、お願いね」


 ドレスを眺めて、まだ落ち着いたデザインのものを探し出す。色自体は赤と黒系統で派手だが、デザインはまだ大人しい。


「今日はこれにするわ」

「はい!」


 クローゼットを出たところで、シャルロットは振り返る。


「そうだ。あなたってどういう役職なのかしら?」

「や、役職、ですか?」

「メイドとか侍女とか、いろいろあるじゃない。あと、あなたの名前も知りたいわね」


 気になるから尋ねただけなのに、彼女は目を真ん丸にする。しばらくして、上ずった声をあげた。


「わ、私はレノンと申します。奥さま付きの侍女を任されております」


 やはり侍女だったのか。


 大体は納得できるが、一点納得できないところがある。


「私が奥さまということだけど、ほかに専属侍女はいるのかしら?」

「……えっと」

「貴族の奥方には、数名の侍女がつくものでしょう?」


 もしかして、交代制なのだろうか。


 考え込むシャルロットに対し、レノンが言いにくそうに口をもごもごと動かす。


「そ、そのですね。奥さま付きの侍女は私だけでございます……」


 レノンが視線をさまよわせる。小動物をいじめているみたいで、これ以上聞くのをやめようかと思う。


 でも、知らないままでいることはできない。


「それはどうして?」


 こんな広々とした部屋を与えられているのだ。伯爵である夫から冷遇されている――ということは、ないだろう。もしも虐げられているなら、こんな部屋を与えない。どこか隅っこの部屋にでも追いやられているはずだ。


「た、大変申し上げにくいのですが――奥さま付きの侍女は、そのぉ」

「はっきりと言ってちょうだい」

「み、みな精神がもたずやめていくのでございます!」

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