①
突然新連載がはじまったのは私がむしゃくしゃしたからです(´;ω;`)ウゥゥ
(ライブは全公演落選し、ゲーム機にも当選しなかったんです)
随分と長く眠っていたような気がする。鈍く頭を押さえ、身体を起こす。
「……ここは?」
室内を見渡して、小首をかしげた。
部屋にある家具や調度品に見覚えがない。壁紙や床も知らないものだ。
疑問を抱きつつ、移動する。寝台に腰かけ、サイドテーブルにある水差しを手に取った。カップに注いで、口に運ぶ。
ちょうどいい冷たさだ。一杯分を一気に飲み干す。どうやら、相当喉が渇いていたらしい。
「それにしても、ここはどこなのかしら?」
寝台はふかふかだし、部屋は広い。家具の類もきらびやかなもので、この部屋の持ち主がお金持ちなことだけはわかる。
「とにかく、だれか呼んだほうがいいかしら?」
迷った末に、立ち上がって扉のほうに近づくことにした。
数歩進んだところで、部屋の扉がノックされる。
「奥さま、失礼いたします――」
怯えを含んだ声だった。しかし、それよりも気になることがある。
(奥さま? だれが?)
室内を見渡すものの、この部屋には自分しかいない。
部屋を間違えているのだろうか? それとも――。
思案していると、扉が開く。顔をのぞかせた女性は、こちらを見て目を真ん丸にした。
「お、お目覚めでございましたか! お呼びにならないので、まだ眠っていらっしゃるのかと……」
女性は深々と頭を下げる。
完全に怯えている。なんだか可哀そうになって、「気にしないで」という意味を込めて彼女の肩に手を置いた。
だが、その仕草に彼女の身体が大きく震える。
「く、クビはやめてくださいませ! どうか、どうか今回ばかりはお許しを――」
ついにはガタガタと震え始めてしまった。
どうして彼女がここまで怯えるのか。意味がわからなくて、頬に手を当てた。
「クビ――にするつもりはないわ。それに、私にそんな権限はないでしょう」
「……は?」
「教えてちょうだい。ここはどなたのお屋敷? 私はどうしてここにいるのかしら?」
彼女の瞳をじっと見つめて問う。
「あなたは奥さまと言っていたけど、ここは本来奥さまが使うお部屋なの? ということは、私は不法侵入かしら?」
眠る前の記憶は思い出せないが、もしも不法侵入ならすぐに出ていかねばならない。
考え込んでいると、目の前の女性は口元に手を当てていた。表情は驚愕に染まっている。
「どうなさったのですか……?」
「どうなさった、とは? 私は――」
そこまで口にして、疑問を抱いた。
――自分の名前は、なんだっただろうか?
(あれ、私の名前って? それに、生い立ちや家族のこともわからないわ)
近くの本棚に視線を移す。文字は問題なく読めるし、言葉だって理解している。話すこともできる。
一般常識だって、物の名前だってわかる。
ただ、『自分にまつわる記憶』がないのだ。
黙り込んでしまったからなのか、女性は混乱しているようだ。
彼女の身なりを観察する。多分、侍女かメイドだ。
「悪いのだけど、いろいろと教えてほしいことがあるわ」
「な、なんなりと!」
「――私は一体だれなのかしら?」
のんびりと問いかけてみると、彼女が目を見開く。小さな身体がふらりと傾いて、倒れる寸前で踏みとどまる。
「ごめんなさいね。どうにもうまく思い出せなくて」
困ったように笑うと、彼女はぶんぶんと首を横に振った。
「え、えっと。その。あなたさまは名門貴族ルビッチ伯爵家の当主夫人でございます」
「名前は?」
「……シャルロット・グラシア・ルビッチさまでございます」
教えてもらっても、やはりピンとこない。
(どうやら、私がこの家の夫人のようね。記憶はないけど)
ソファーに腰かけて、記憶を掘り起こしていく。
しばらく考えて――シャルロットは大きくため息をついた。
「――私、どうやら記憶喪失みたい。まったく自分のことが思い出せないわ」
膝の上に手を置いて、小首をかしげて話す。
目の前の彼女は、なにも反応しなかった。