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三章 渦巻く暗躍 一話










1、理想の途中で








突然の、死の知らせ。


それは、風蘭にとって、初めての体験ではなかった。先王である父の訃報もまた、突然の知らせだった。


「霜射民部長官が死んだ・・・・・・?馬鹿な・・・・・・」


「俄かには信じられないだろうけれど、本当なんだ。民部棟が今、混乱で大騒ぎになっている」


力なくつぶやく風蘭に、こそこそと木蓮は言い加える。呆然とした風蘭は、ため息のように木蓮に問いかける。


「・・・・・・殺されたのか?」


「さすがにそこまではわからないけど・・・・・・」


「だっておかしいじゃないか!!俺は、ついさっきまで、民部長官と話をしていたんだぞ?例の件で!!明日、その返事を聞くことになっていたんだ!!なのに、その霜射民部長官が死ぬなんて、おかしいだろう?!」


「風蘭公子!!」


興奮して喋り始めた風蘭に、木蓮がぴしゃっと厳しい声で諌めた。木蓮の視線の先には、先ほどまで風蘭と他愛のない話をしていた、紫苑姫がいた。


彼女は、愛らしい顔を青ざめさせて、困惑した表情で、風蘭と木蓮を交互に見つめた。


「霜射民部長官がお亡くなりになられたのですか・・・・・・?私たち妃候補のなかには、霜射一族の姫もいらっしゃいます・・・・・・。彼女に、一体どう伝えればいいというのですか・・・」


「それは・・・・・・」


「紫苑姫」


まだ自分自身混乱している風蘭の横で、木蓮がさっと前に出て、言葉を続ける。


「紫苑姫、この事実はまだ公表されていない機密事項にございます。故に、どうぞこのことは紫苑姫の胸のうちにのみ、おしまいください。采女所所属の官吏として、重々にお願い申し上げます」


目上の姫に対する、正式な礼をとりながら、木蓮はしっかりとそう言い切った。それを受けた紫苑の顔つきも、『姫』のものとなっていた。


「かしこまりました、羊桜 木蓮殿。この事実は私の胸に留めておきましょう」


「ありがとうございます」






そんなふたりのやりとりを、風蘭はぼんやりしながら見ていた。


彼はまだ、信じられなかった。民部長官が、死んだ、など。


つい先刻、彼の悪事を暴きに行ったというのに。




これからやっと、民部を、朝廷を変えていこうと思ったのに。




もっと、もっと情報がほしかった。確かな情報が。




「・・・・・・芍薬兄上なら知っているか・・・・・・」


ふと思い立ち、風蘭はふらりと歩き出した。


「芍薬公子さまのもとへ行かれるのですか?!ですがきっと今、芍薬公子さまは・・・・・・」


遠くで木蓮が何か言っているのが聞こえる。だが、風蘭は今、芍薬に全てを聞くことしか考えていない。




紫苑に別れの挨拶すらすることなく、彼は木蓮と紫苑を置いて、後宮の奥へ歩みを速めた。


無心に歩き続け、目的の室にたどり着くと、いったん彼は深呼吸をした。






掌から、するりするりと、落ちていく感覚。


絡みつく呪いのように、負の連鎖が続いていく。


抗うことのできない渦の中に、星華国そのものが飲み込まれていくようで。






喉に冷たい空気を入れ込むと、風蘭はわざと大きな声で室の中にいる兄に向かって言った。


「風蘭です。入ってもよろしいですか?」


返事はない。いないのだろうか。


「芍薬兄上?」


勝手に開けてしまおうかと躊躇っていると、室から芍薬付けの女官が出てきた。


「お入りください、風蘭公子さま」


両開きの扉のうち、片方だけが開かれ、風蘭はもう片方も自らで開けようとした。ところが、彼が扉に手をかけるよりも前に、扉が勝手に開いた。


「失礼いたしました」


内側から現れたのは、蠍隼 蘇芳だった。


「・・・蠍隼執政官・・・・・・!!!」


あまりの衝撃に、風蘭は不覚にも後ずさってしまった。




「・・・・・・なぜ、あなたがここに?」


「それはわたしも同じ質問を投げかけてもよろしいのでしょうか?」


風蘭を案内するはずの女官が困ったように立ち尽くす横で、風蘭は蘇芳に問いかけたが逆に返されてしまう。


「弟が兄の室を訪れるのに、理由がいるのですか?」


「・・・それはごもっともなご意見。・・・では、わたしも申し上げましょう。執政官が次期王となられる芍薬公子さまのもとを訪れるのに、なにか理由は必要でしょうか?」


「少なくとも、弟よりは必要じゃないかと」


風蘭の返しに、蘇芳は喉の奥で笑った。目を眇める第3公子に、蘇芳はなだめるように手を軽く振った。


「そうですね、そうでしょうとも。・・・・・・風蘭公子さま、すでにお聞き及びかもしれませんが、民部長官が亡くなりました」


突然話題が核に触れたので、風蘭は一瞬返す言葉を失った。


「明日、芍薬公子さまにも参加していただき、朝議を開きます。高官、星官にも集っていただきます」


「・・・・・・だったらわたしも参加させていただく」


今までの蘇芳の態度だと、再び「朝議の場は遊び場ではありません。ご遠慮ください」くらいの嫌味が返ってくるかと思われた。






だが、今回の蘇芳からは意外な返事が返ってきた。


「もちろんです。風蘭公子さまにもご参加いただかなくては。そうしなければ、朝議は進みません」


なにか、含みのある笑みを、彼は浮かべた。風蘭は蘇芳の真意をつかめずに、眉を寄せる。けれど、蘇芳はそんな彼を気にもせず、背を向けて歩き始めた。


「明日、朝議の席でお会いしましょう」




なんとも不気味な捨て台詞を残して。








「・・・やっぱり来たな、風蘭」


呆れているような、怒っているような、安心しているような、そんな掴めない表情で、芍薬は風蘭を招きいれた。


「民部長官のことだろう?」


風蘭がなにか言う前に、疲れたように芍薬はそう言った。


「・・・・・・はい。・・・民部長官は、殺されたのですか?」


弟の言葉に、温和な芍薬には珍しく、鋭い視線を彼に送った。


「なぜ、そう思う?」


「理由は言えません。ですが、民部長官が自殺をする理由がないのです」




風蘭の答えに、芍薬は薄く笑った。


「なぜ自殺しないと言い切れる?民部が怪しいと、民部長官を追い詰めていたのは、風蘭、おまえだろう?」


「兄上は、俺が民部長官を殺したというのですか?!」


「そうは言っていない」


気性の荒い弟の言葉を軽く受け流して、次期王は弟公子を諭すように、ゆっくりと言った。


「可能性の一つだ、と言っているんだ。民部長官が自殺というのも、ありえない事態ではない。無論、他殺も同じだ。今、刑部の者たちがそれらを調べている」




そして、さらに彼は言った。


「明日、朝議を行う。風蘭、おまえも参加しなさい」


「参加していいのですか?いつもはあんなに嫌がるのに」


皮肉を込めて、風蘭は言い返してみたが、芍薬にはそれも通じない。


「執政官の要請だ。なぜ、執政官がおまえを朝議に参加させようとしているのか、わたしにはわからないがな」


疲れているのだろう、ため息と共に、芍薬はそう言った。風蘭も、なんだかどっと疲れが出てきた。


「・・・・・・わかりました。明日の朝議には参加します。では、失礼いたします、兄上」






聞きたいことは、聞けた。


芍薬からではなく、蘇芳からだが。




だが、どうにもひっかかる。


常日頃から、「朝議の場は遊び場ではありません」なんて人をバカにしたようなことを言っている蘇芳が、風蘭を朝議の場に参加させるように要請したとは。






「罠でもあるのか・・・・・・?」


だが、罠であろうとなかろうと、彼は朝議の場に参加するつもりだった。


蘇芳など、風蘭は怖くもなんともない。蘇芳が風蘭から奪えるものなんて、ないと思っていた。






「あ、坊ちゃん」


風蘭が室に戻ると、そこではすでに、お茶の用意をすませた連翹が控えていた。


「連翹?どこに行っていたんだ?今、朝廷が大騒ぎで・・・・・・」


「えぇ、聞いています。わたしもそれで、なかなか後宮に戻れなかったんです」


「ふぅん・・・」


突然の展開に振り回された風蘭は、すでにくたくたで、連翹の言い訳も特に真剣に聞いてはいなかった。連翹が淹れてくれたお茶を飲むと、なんだかほっとした。


「いったいどうなっているんだ・・・・・・。なんで、民部長官は死んだんだ・・・・・・?」


茶器に残るお茶の水面をゆらゆらと揺らしながら、風蘭はひとりで考え込む。


「自殺・・・・・・?あいつには自決するような勇気も覚悟もないはずだ・・・」


「・・・・・・明日は、朝議ですか?」


悶々と考え込む風蘭に、とうとう連翹が話しかけた。顔をあげた風蘭の茶器に、新たなお茶を注ぎ込む。


「あぁ。蘇芳が、俺にも参加しろと」


「執政官が?なぜです?」


「さぁな。だけど、蘇芳がなにを企んでいようとも、俺は絶対に負けない!!」


ぐっと拳を握り締め、風蘭は強く宣言した。そんな彼を、珍しいことに連翹は心配そうに眺めていた。


「でも、事態が事態です。あまり反発ばかりなさらないでくださいね?」


「わかってるさ。俺だって子供じゃないんだ」


風蘭がそう言うと、連翹は彼の見えないところでそっと苦笑した。








次の日の朝早くから、政治堂で朝議が開かれた。


玉座には、芍薬が座っている。風蘭と木犀は星官よりも高位の座で座っているが、玉座の傍で立っているのは執政官である蘇芳だった。


「みなさま、朝早くからお集まりいただき、恐縮です」


蘇芳の声が、政治堂に響き渡る。


「早速ですが、昨日、霜射民部長官がお亡くなりになりました。原因は、未だわかりません」


ちらり、と蘇芳は刑部長官を見る。刑部長官は申し訳なさそうにうつむいている。


「ですが、現時点でいくつかの事項をはっきりと定めておきましょう。幸いと、本日は何人かの星官の方々もいらっしゃるようですし」


蘇芳の視線は、刑部長官から、空席の目立つ星官へと移った。たしかに、いつもは完全空席の星官の席が、今日はいくつか埋まっている。






星官は、11貴族本家の当主たちにのみ、与えられた官位。


ゆえに、当主本来の職務で多忙な彼らは、めったに朝廷に現れることはない。だが、決定権は高官よりもある。


執政官と比べると、状況に応じて権力の有無は変わるようだが。






その星官のうち4人が、珍しく朝廷に来ている。しかし残念なことに、風蘭はめったに会うことのない星官が、どこの誰かもわからない。それでも気になった風蘭は、隣に座る木犀に、こっそりと尋ねてみた。


「木犀兄上、あの星官たち、ご存知ですか?」


「そうだな・・・。あの中だと、女月家当主と、霜射家当主ならわかる」


「え?!」


気になる二家の姓を聞き、風蘭は過剰に反応してしまう。




女月家の当主ということは、紫苑姫の父ということになる。それは、一度ちゃんと確認してみたい。


「女月家の当主はどなたです?」


「あの真ん中に座った、目の細い男だ。女月 石蕗。たしか、女月家の姫が妃候補で後宮に来ていただろ?」


「あ、はい・・・・・・」


「それと、その後ろで冷めた顔して座っているのが、霜射家当主、霜射 柘植。そういえば、そこの姫も妃候補だったな」


「あぁ、そういえばそんなことを・・・・・・」


紫苑姫が言っていた気がする。あのときのやりとりを、風蘭はもうよく覚えていないが。






「そこで、ここからはわたしの提案です」




急に、蘇芳の声が大きくなったので、風蘭も木犀もおしゃべりをやめた。ほんの少ししゃべっていただけだったのだが、話は進んでしまっていたらしい。


蘇芳は相変わらず、玉座の横で、ひとりで勝手に喋っている。


「今、後宮には3人の姫君がいらっしゃいます。次期王となられる芍薬公子さまの妃候補の姫君です。女月家、蟹雷家、そして霜射家からです。ですが、今回のこの騒ぎにおいて、霜射家の姫君をいつまでもこの後宮に置いておくのはいかがなものかと思われるのです」


いっせいに、みなの視線が霜射家当主、柘植に集まる。彼の表情はまったくの無で、いったいなにを考えているのか、誰も何もわからない。


「霜射星官、まことに遺憾ではありますが、このたびの妃審査、雲間姫には辞退していただきたいのです」


蘇芳の声だけが、政治堂の中で響き渡る。






みな、柘植がどう言うか、息を飲んで見守っていた。やがて、柘植がその重い口を開いた。


「蠍隼執政官のおっしゃる通りです。朝廷を血で汚した一族の姫を、王の妃にすることはできません。雲間を連れ、わたしは冬星州へと帰りましょう」


もっと抵抗するかと思ったが、あっさりと柘植はそう言った。淡々と告げる彼の表情は、やはり無表情で感情が読めない。




柘植の返事に、蘇芳は満足そうな笑みを浮かべながら、


「賢明なご判断かと思われます」


とだけ言った。


芍薬は、これで一通りの話は済んだと判断したのか、朝議の終了を告げようと立ち上がりかけた。が、蘇芳が片手でそれを制した。


「いまひとつ、芍薬公子さま」


その執政官の瞳は、これから得るであろう勝利にすでに笑みが浮かんでいる。




「・・・なんだ?これからの民部の処置、雲間姫の退去、すべての懸念事項は話し終わったと思うが?」


「いいえ、もうひとつございます。民部に深く関わり、そして、最後に民部長官に会った・・・・・・」


にやり、と蘇芳は笑いながら、その人物に振り返る。


「風蘭公子さま、ご相談があるのです」


その場の視線が、いっせいに今度は風蘭に集まった。






「・・・聞こう、蠍隼執政官」


風蘭は、努めて冷静に、そう答えた。執政官は、玉座の横から少し離れ、少しずつ風蘭へ歩み寄る。


「霜射民部長官が亡くなるほんの数刻前、風蘭公子、あなたが民部長官とふたりきりでお話をされていたとの証言がとれました。これは、真ですか?」


蘇芳が嬉々として話す言葉に、玉座の芍薬が驚きに瞠目している。


「あぁ、本当だ。・・・・・・よもや、わたしを疑っておいでか?」


「いえいえ、まさか。風蘭公子さまが立ち去られた後、民部長官と話をしている者もおります」


不気味な笑みを浮かべる蘇芳の企みが、風蘭にはわからない。


「では、わたしに何の相談か?」


いらいらしてきた風蘭は、段々冷静さを失っていく。蘇芳はそれを待っているかのように、じりじりと彼に近づいてくる。




「謎の多い、民部長官の死、正義感のお強い風蘭公子さまはさぞや心を痛めておいでかと思われます」


「・・・・・・それで?」


「民部長官の死を、解明していただきたいのです」


「それは、刑部の仕事だろう?」


再び、ぱっと刑部長官が顔をあげたが、誰もそれに気付かない。


「えぇ、もちろん。朝廷内での調査はすべて、刑部が行います。ですが、風蘭公子さま、気になりませんか?霜射民部長官が、彼の地元で、何を思い育ち、朝廷へ出仕しにきたか。いま、彼の家族はどうなっているのか」


「・・・・・・それを調べるのも刑部の仕事だろう?」


「もちろんです、刑部にも調べさせます。けれど風蘭公子さま、あなたもまた、独断でお調べになりたいのでは?」


蘇芳の次々と投げられる言葉に、細かな棘がちくちくと生えていて、風蘭は理性を刺激される。






刑部の仕事を無視して、風蘭は民部長官の死を調べるだろう、と蘇芳は嫌味を言っているのだ。


民部の内部を勝手に調べた風蘭に対して。






「蠍隼執政官、回りくどい言い方はやめていただきたい。わたしにどうしろと?」


「では、はっきりと申し上げましょう」 


声高く、蘇芳は風蘭に告げた。


「冬星州にて、この事件について風蘭公子さまにお調べいただきたいのです。民部をこつこつとお調べになったその鋭い洞察力で、民部長官の死を、刑部の者たちとは違う視線でお調べいただきたい」


「なっ・・・・・・!!執政官、それは、風蘭公子を冬星州へ追い出すということか?!」


そう叫んだのは、兵部大将、双 縷紅だった。


「いいえ、双大将。わたしはあくまで、風蘭公子さまに『ご相談』申し上げているだけです。・・・・・・無論、芍薬公子さまのお一言次第で、事態はどうにでも変わりましょうが」


視線の塊が、風蘭から玉座の芍薬に移る。


蘇芳もまた、芍薬を見る。






芍薬は、苦しんでいた。


まさか、蘇芳がそんな一手を討ってくるとは思わず、油断していた。蘇芳に逆らえば、混乱した現在の星華国の王政は、たちまちさらなる混乱の渦へ落とされるだろう。


皮肉にも、朝廷がなんとか正常機能を保っているのは、やはり蘇芳の強引な手腕のおかげでもあった。




だが、風蘭を冬星州へやることも決断できない。


やはり、風蘭は大事な弟だ。それを、星華国で一番治安の悪い冬星州へやることなど、芍薬にはできない。


まして、その内容が民部長官の死の解明など、蘇芳の見え見えな嘘も憎たらしい。結局は、風蘭を朝廷から追い出し、左遷してしまいたいのだ。






決断できないでいる芍薬を、風蘭は眺めていた。蘇芳も根気強く、芍薬がなにかを言うのを待っている。


と、ちらり、と何かを言いたげに、蘇芳が風蘭を見、にやり、と笑った。






なるほど、そういうことか。






風蘭は、蘇芳のしたいことを理解した。




優しい芍薬は、風蘭を冬星州へやることを決断できない。


だが、今この場で蘇芳の発言を全否定するだけの勇気もない。




芍薬は、決断できない。どちらかを選んでどちらかを切り捨てることはできない。


だが、蘇芳の提案した案に、妥協のしようがない。中間の選択肢はない。






そう。


決断できない、苦しむ兄公子を救うには。






「わかりました。冬星州へ行きましょう」






風蘭が答えた。


答えるしかない。これ以上兄を苦しめないためにも。


ほんの一瞬だけ、蘇芳が勝利に酔いしれるような笑みを浮かべた。






「それは素晴らしいご決断です。さすが王族、獅一族の嫡子」


蘇芳と風蘭の間で、かつてないほどの火花が飛びちる。


「では、風蘭公子さま、雲間姫たちが水陽から退去される日取りと同じくして、冬星州においでになるとよろしいかと存じます。兵部も惜しみなく、公子さまの護衛を派遣いたしましょう」


反発した縷紅に、蘇芳が冷笑を投げかける。


「・・・・・・もちろんです」


悔しそうに、かみしめた歯のすきまから、縷紅は答えた。






玉座の芍薬は、大きなものを失ったかのように、痛みをこらえるかのように、苦しそうな表情を風蘭に無言で向けていた。


風蘭は、彼にそっと微笑んだ。兄が、この決断で心を痛めることがないように。








風蘭を、冬星州へ。


蘇芳の企みは、果たされた。


だが、歯車は少しずつ、動き始めていた。蘇芳の目の届かないところで少しずつ。


















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