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めしエッセイまとめ

個人経営の大体なんでも聞いてくれる焼肉屋さん

作者: よもぎ

父は、どこでどうして知ったんだ?という個人店をめちゃくちゃ知っていて、外食先はチェーン店よりも個人店が圧倒的に多かった。

今回の焼肉屋もそのひとつで、駐車場は店の前にある二台分のみ。

カウンター席やテーブル席はなく、座敷が四つほどの小さな小さなお店だった。


この店は決してシャレた店ではない。

なんなら若干薄っすら昭和の香りがした。

しかし肉はおいしかったし、ライスも常に炊き立てのようなおいしさだった。


チェーン店のような微妙な薄さの肉ではなく、ちゃんと厚みのあるお肉をチェーン店と同じか若干安いくらいの値段で提供していたし、無駄に野菜を盛ったりしてくることもない。肉は肉単体でやってくる。

野菜が食べたければ別で注文しなくてはならないが、逆に言えば食べたくなければ頼まなくて構わない。


肉の種類は決して多くない。

カルビやハラミはあったし、鳥豚牛全て対応していたが、羊肉は取り扱っていなかったし、一枚のペラッとしたメニューに全商品が乗る程度だった。

それでも肉のうまさで食が進んだし、何枚同じ肉を頼んでも飽きなかった。


座敷も小ぢんまりとしていたけれど、足を伸ばして座ることも出来たし、五人家族の我が家でもそんなに狭いとは感じない程度の空間はあった。

焼くための網はテーブルに備え付けで、取り換えてもらうなんてことはできなかったが、別段問題はない。

チェーン店のようなタレに漬けた肉なんかはなかったので、タレで汚れたから取り換えてもらわないといけないなんてことがなかったからだ。



父は見た目だけならガテン系の昭和バリバリな感じの男だったが、鍋でも焼肉でも世話を焼く人だった。

自分はビールを飲みながら肉を食っているのに、ひょいひょいと肉をひっくり返したり、食べごろになったと宣言したりするので、私たちはあまり焼肉で困ったことはない。

関係ないがバーベキューでもビール缶を傾けながらずっと網の上を監視していた。焼けると私の皿に率先して肉だの野菜だのを置いてきたので、私は自分でバーベキューの肉や野菜を焼いたことがない。



さて、このお店で一番おいしいのはわかめスープである。

食後のシメとしてスープを皆が頼むのだが、これがまた美味しい。

程よい塩味と油っ気のないスープが油でぎっとぎとになった口内を洗ってくれる。

胃袋はもう満タンなのでその後に繋がることは決してないが、シメとしてこれ以上適したスープはないと今でも思う。

勤め始めてから焼肉に連れていってもらったりすることは何度もあったが、あの店のわかめスープに匹敵するわかめスープにはついぞ出会ったことがない。




この店の面白いところは、テイクアウトで料理の素を頼めるところにある。

焼き肉のための肉は勿論売ってくれるが、ホルモン鍋のスープとホルモン本体と野菜も売ってくれるのだ。

なので母は、夕飯を作りたくない時は学校や職場にいる私にメールを送り、帰る時あの店寄ってもらってきてくれる?などと言ったものだ。

もちろん自分で買いにいくこともしていたが、頼まれることは割とよくあった。


しかもこのホルモン鍋のキットは具が少ないことがなかった。

むしろ余るほどぎっしり入っていた。

無論食欲爆発している私と、あればあるだけ食べる父がいる時点で余ることはないのだが、鍋いっぱいにぎっしり入ったホルモン鍋はそれなりにリーズナブルだったようだ。

でなければ、中流家庭の我が家で月二度以上出てくることはなかったろう。




物価高で信用払いが淘汰されつつある現在もリーズナブルで気のいいお店のままかどうかはわからない。

そもそも私がクソガキだったころにはすでに中年だった店主夫婦が今も営業しているかどうか。


ただ私は時たま、あの店に行って好きなだけ焼肉を堪能してわかめスープでシメたいという衝動に駆られる。

そのために丸一日以上かけて帰省するわけにもいかないので、自宅焼肉とインスタントわかめスープで無聊を慰める他ないのだが、いずれ法事なり何なりで帰省することがあったら未練のあるいろんなお店に行きまくりたいと思う。



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