21歳①
ようすけが死んだことを手紙で僕はようやく彼女に伝えることができた。
文通をしていた事は両親も知っていて、数年に渡って頻度は大分減ったとしても返事の無い手紙を送り続けた彼女に対して家族で話し合い返事を出すことにしたから
僕が彼女に初めて名前がけいすけであることを伝えられた瞬間に森咲との繋がりは切れてしまったのだった。
そりゃそうだろう
彼女はようすけの事しか知らないんだ
5年以上経つのに郵便ポストに彼女宛の最後の手紙を入れた感触が未だに胸を苦しめる
僕では森咲には会えない
会う理由もない
そう考えるだけでも、まだ泣けてくる
ようすけよりも大人になった僕は
未だに森咲 はるを引きずっていた
そんな僕に一通の手紙が届いた
「…なんで??」
差出人は森咲 はる
なぜ?彼女から僕宛に手紙が…
疑問に思いながらも僕は手紙を開封した
夏に日本に帰ってこれるので
会ってお話がしたいのですが…
都合がいい日をメールでご返答ください。
アドレスは…
手紙を持つ手が震えだした
なんだろうか、彼女らしさがない
文通はようすけがしていたことで僕じゃない
僕のことは知らないし関わりもない
事務的な文章にもなるかもーーでも
突然のことで読み終えた途端に力が抜けてその場に座り込んだ僕は頭を抱えて暫くの間は手紙を握りしめて何時間も座ったままだった。
震えが止まらない手で手紙に書いてあるアドレスを打ち込んだ
会いたいです。◯月◯日のーーー
我妻 けいすけ
アドレス打ち込んだ後に送信ボタン押すまでも僕は1時間も座ったままで動けなかった
約束の日
神社の椅子に座りながら森咲を待った
「…けいすけくん?」後ろから声をかけられ驚いてしまった恥ずかしさで顔をあげるまでに体中が汗で浸ってくる
「森咲…さん」森咲 はるは見た目もほぼ変わらずに綺麗な女性へと成長していた
「初めまして…では無いよね。私たち」
「…そうだな」
ようすけのフリをして君に会っていたんだから軽蔑されているのかもしれない
僕は寒気がしてくるほど緊張していた
森咲は僕の横にある椅子に腰掛けた
「けいすけくん。私は はるじゃないの」
「え?」
じゃあ、誰だっていうんだ
姿かたちは森咲 はるじゃないか
「はるの妹で なつといいます」
「…妹?」
彼女らも双子だったのか…
「そして、ようすけくんと最後に会ったのも私です」
そう話す彼女の目からは涙が雨粒のように下へとポタポタ音を立て落ちていった。
「あの日は、はるがホテルで熱をだして
私が替わりに彼に伝えるはずだったんですっ。
また会える約束をしようって」
「そうなんだ」彼女に聞くと話は数分で済んでようすけとは直ぐにわかれたと伝えられた
なのに ようすけは帰ってこなかった
なぜ?
「私はっ。けいすけくんのこと既に知っていたの
一度だけはるに内緒で会いに行ったから」一度だけという言葉に
「あ!カフェモカのとき…」思い出した。
「…そう。はるが嬉しそうに話す子に会ってみたくなってお店を覗きに行ったら
けいすけくん笑顔で私を迎えてくれた
はるに向けてる笑顔だって理解はできても
私はそのとき嬉しかったの。
あぁ、好きだなぁこの笑顔って…
けいすけくんのこと知りたいって思った。」
「じゃあ、あの時の彼女は君なんだね」
「そうです」
彼女の行為に僕は咎める権利はない
僕だって 森咲はるに関しては危うい行動をとっている弟になりすましていたんだから。
「…そして、あの時の私はあなたが
ようすけくんなんだと思い込んでいた」
「ごめんなさい。ようすけくんが死んだ後すぐにお店で確認させて貰ったのあなたはようすけくんでは無いことも」
「…そうだろうね僕は君たちを騙してた」
「そう…ようすけくんを好きになったと思い込んでいた私は はるが許せなくなっていったの」
どういうことだ?
「はるは彼が好きだとも言わなかった!私は確認したの『好きなの?』って
でも…答えなかった。あの日までも」
「好きじゃないなら私が彼に『好き』だと伝えたい。そう、はるに言ったら」
「『…好きにしていい』とだけ」
そして彼女は嫉妬に蝕まれた心のままで
ようすけに会った。
ようすけは『付き合って欲しい』と告げ
はるではない彼女の返事を静かに待った。
嫉妬で冷静ではない彼女は
『…好きな人がいる』と答えた。
ようすけは笑いながら平静を装い
『どんな人?』と聞いてきたので
あなただ!!と伝えたかった彼女は精一杯考えて記憶を辿り僕の好みであった
『…苺味が好きな人』と答えた。
そう答えてから『私は妹のなつであなたが好き』でと惚れた経緯までを続けて伝えるはずだった…のに『…あぁ、そうだったのか』と突然に急いで
ようすけは雨の中で傘を閉じ『さよなら』とだけ彼女に伝えて走り去ってしまった。
「…じゃあ、ようすけは森咲さんが僕のことを好きだと勘違いしたまま死んでしまったんだな」
ようすけが苦しんだ原因を作ったのは自分だと気付かされた途端に体中に寒気がする
「きっと僕を恨んでいるね」
「っっ!ごめんなさい。私は はると、あなたが付き合うことが許せなかった
まさか弟さんと入れ替わってるなんて」
「そうだね。ぜんぶ僕が悪いんだ」
望んでしまった森咲 はるとの時間を
「はるは今ロンドンでピアノの調律師になる勉強をしてる。ようすけくんのことは忘れたように振る舞っているけど先日ね見てしまったの。彼からの手紙を握りしめてひとりで泣いているのを…」
「はるは、ここ最近ずっと泣いているの。
寂しい、寂しくて堪らないって」
「私は はるを置いて離れなきゃならない」
涙を拭いさっぱりとした彼女は僕を真っ直ぐに見つめながら
「今日は けいすけくんにお願いがあってきました。」そう話しながら彼女は何かしら記入されたメモを一枚僕に渡してきた。
「はるの住所です。繋がってあげて欲しい
今あの子には誰かの繋がる手綱が必要なの
私は結婚して日本に帰ってきてしまう
はるの側には彼女を理解できる人は両親だけ
でも彼等は仕事で世界中を飛び回るような人たちなので はるには構っていられないの」
だからー「僕が彼女と地上を結ぶ手綱になればいいんだね」僕は泣いていた
彼女とまた繋がれるきっかけができたこと
そして弟の死の原因が僕自身だったことに
嬉しさと虚無感がドッと僕にのしかかり
薄い紙切れが重くとてもじゃないけど
手に持っているのも正直にしんどかった。
「分かった、やれるだけのことはするよ」
「ありがとう」と安心した表情の彼女と僕は
これからのことを数分だけ話してわかれた。
次の週に僕は森咲 はる宛に手紙を書いた
謝罪から始まった手紙は森咲に伝わるだろうか拒否されるかもしれない
そう思うだけで胃が痛くなり気が遠くなるような時間を過ごした。
もう返事は来ないんだろうと
夏服から秋服へと衣替えした僕は
バイトへ向かおうと玄関のドアを開いた。
「あ!こんにちは。お手紙届いてます」
そう伝えられて渡された手紙には
我妻 けいすけ 様
森咲 はる と書かれていた。
僕は手紙を大事に鞄に収めると
少しだけ高揚した熱をおさめながらバイトへとペダルを漕ぎだしたのだった。