12歳⑤けいすけ
ようすけの真っ直ぐな想いを本人から聞いた僕は、2度目の失恋を味わっていた。
嬉しそうに彼女の話をする兄弟に泣きそうになった情けない顔を見られたくなくて俯き、興味無さげに机に座り背を向けた。
僕は、「頑張れ、、、」そう言えるのもギリギリで震えていた。彼女の名前は森咲 さくら。
あれだけ望んだ彼女の名前を知ることができたと同時にまた失恋してしまった
僕が黙って俯いたままだったので、ようすけが彼女との経緯を話だそうとした。
「いや、要らない」
勉強するしと僕は一括した。
森咲 さくらの事には興味はあるが、今は聞く気がしない。
「、、、そうか。」
ようすけは僕が彼女に興味が無いのかと思ったのか安堵した表情を見せた。横目で見ながら憎たらしかった。
同じ顔なら僕にだってチャンスはあった
ようすけは先に出逢っただけだ
何で僕じゃ無かったんだろう
心の中が醜くぐちゃぐちゃになっていた。
まぁ、もう彼女に会う事は本当に無くなったんだ。
今度こそ諦められるさ後は勝手にやってくれ。
不貞腐れた僕は勉強するフリを続けながら、寝る準備を始めたようすけを確認して、引き出しから取り出した日記に『2度目の失恋日』と記入して静かに閉じた。
彼女との短い思い出は、僕の記憶の中で大切に終われた、そう思い込んで日記とともにしまった。
数日が経ち、ようすけとの会話は普通に戻ったが、心の中のわだかまりは消えない。
ある日、母が部屋に入ってきて、僕の様子を心配そうに尋ねた「最近、何かあったの?」
「いや、別に」と短く答えたが、母の目はすべてを見透かしているようだった。「兄弟でちゃんと話し合ったほうがいいわよ」とだけ言い残して部屋を出て行った。
その夜、思い切ってようすけに話をすることにした。「実はさ、僕も好きな人がいたんだ、会えなくなったんで終わってしまったけど」
ようすけは驚いた表情を見せたが、すぐにその表情は僕に対しての労りに変わった。
「そうだったのか。知らなくてごめんな。」
「いや、俺も言わなかったから。お前が浮かれて喜んでるの素直に喜んでやれなくて、ごめん」
「でも兄弟としてお互いの気持ちを大事にしたい俺にとっては、けいすけも大切なんだから」
その言葉に僕は少しだけ心が軽くなった。
失恋の痛みはまだ消えないが、このことで兄弟としての絆は強くなった。
森咲 さくらとの思い出は、いつまでも心の中で輝き続けるだろう。そして、僕は新しい一歩を踏み出す勇気を見つけた。