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12歳③けいすけ

僕が朝目覚めて顔を洗いに行くと

目を晴らした自分が鏡に映ったので深い溜息をだして、ようすけが起きる前に家を出た。


あいつに泣いた理由なんて絶対に言えない。


朝早く店に顔を出した僕に祖父は

珍しいなと一言だけ告げて開店準備を始めたので暇な僕も手伝うことにした。


開店時間になって

メニュー表を店先に出そうと大きな看板を持って扉を開けた。


「我妻くん??」


聞き覚えのある心地よい声色が店の前に響いた。


彼女だ!


僕は看板を持ったまま緊張で固まってしまった。


「おはよう?」挨拶を絞り出すだけで精一杯だった。


「おはよう。ここはーーー」


彼女は店から出てきた僕を凝視しながら、たぶん脳内で推理を始めている。なぜ此処に僕がいるのか

看板なんて持って憶測でようすけに話されたりしたら面倒だ僕はできるだけ正常を装った。


「じぃちゃんの店なんだ、ここは。」と説明した。


「そうなんだね。驚いたよ」それは僕の話だ!


失恋した彼女に次の日、偶然会うなんて悲劇でしかない。


「今日は喫茶店にいるの?」「たぶんね」


そうかと言うと彼女は、またねと颯爽と僕の前から行ってしまった。


バクバクと高鳴る心音が煩くて僕は看板を出しただけなのに椅子に座って心音が治るのを待った。


その後は常連さんと音楽について話をしたり

祖父の喫茶店を手伝いながら好き勝手な時間を過ごした。


昼前にカラカランと店の扉が鳴ったので

お客さんだと思い皿を洗うのを一旦止めて

迎える準備してオーダーを取りにいく。


窓際の日差しが強い席に水とおしぼりを運んだ僕の心音がまた煩く高鳴った。


「おすすめは?」


穏やかに笑う彼女に見惚れた僕は

若干の手の震えを起こしながら水とおしぼりをセットし、メニュー表を見ている彼女の横顔をみて

胸の高鳴りを抑えられなかった。


「じぃちゃんは腕がいいから何でも上手いよ」


緊張で声が震えるバレていないだろうか。


「じゃあ、オムライス」


「かしこまりました」


オーダーを取って祖父に渡すと僕が女の子と話しているのが珍しいと誰だ?と祖父に聞かれて

知り合いとだけ答えた。


オムライスができるまでの間

他のお客さんもいないという理由で祖父より

オレンジジュースを彼女と自分の分をテーブルに運び彼女の前に座ることにした。


諦めた、けど話してみたい欲求には耐えられないが

僕は気まずさでいっぱいいっぱいだった。


無言のままの僕に彼女はきのうと変わらない気さくさでたわいの無い話をしてくれる


その中で僕は彼女が


音楽が好きでピアノの調律師を目指して

学校近くの教室に休日は通っていること


ジャズが好きでこの喫茶店の店内の選曲に

前々から興味があったこと


学校は神社から近くて

ようすけとは平日の帰りに数分ほどしか

会っていないことが分かった。


いま彼女が接してくれる心地いい距離感は僕のことをようすけだと思っているからだと考えるだけで胸がギュッと締め付けられるように痛い


「休日は何時もここにいるの?」


「大抵はここにいるよ」


と答えた瞬間に気づいてしまった。

ようすけは彼女と会える平日にしか店には来ない休日は部活や友達と遊びに行くことが多い


何も考えずに自分ことを答えてしまった。


(まずい、僕がようすけじゃないとバレる)


「、、、、、じゃあ、また来るよ。」


「えっと、、、あの。、、」


カラカラン


ドアが開いて誰かが入ってくるのが見えた


「あ!いたいた。お母さん今仕事終わったんだけど買い物付き合ってくれない?」


「、、、母さん」


彼女と一緒にいた僕に少し驚いた表情で

母は僕らに近づいてきた。


「こんにちは。えっ?デートか何か?」


「違う!彼女はお客さんだよ。」


そう僕が伝えると彼女は一瞬だけ

悲しそうな表情を浮かべたけどすぐ笑顔で


「話し相手になって貰ってました」


そう母に告げた奥から僕は祖父に呼ばれて彼女のオムライスをテーブルに運んだ。


その間は気が気では無くて

母が彼女に僕がようすけでは無いことを告げてしまわないか気になってしょうがなかった。


彼女の前にオムライスを置く


「美味しそう」


そして母を急いでカウンター席に座らせ買い物に付き合うことを約束して少し待ってもらった。


「オムライスに飲み物付くよ。ジュースか紅茶、コーヒーもあるけど」


オムライスを写真に撮る彼女は


「うーん。コーヒー苦手なんで紅茶かな」


「紅茶は何でも大丈夫?」


「うん、君の好きなお勧めでいいよ。お願いします」


了解とだけ告げて僕は彼女の紅茶を準備する

祖父の店を手伝うようになってからは

コーヒーと紅茶だけは用意出来るようになった。

祖父よりは全然味は劣るけど

見知らぬ誰かではない常連さん達には

たまに振る舞っていたので

祖父に了解も取らず僕は自分で彼女の紅茶を

いれる

彼女の好みなど知らないので

自分の好きなイチゴ味の風味にアレンジした。


すり潰したイチゴを少量カップに入れ

上から紅茶を降り注ぐ。


完成した紅茶を彼女のもとに運ぶと

すぐに一口彼女は紅茶を飲んで

嬉しそうに僕を見つめた。


(可愛い)


熱いのでゆっくりと飲んでいる姿が可愛くてしょうがない。


(ダメだ。諦めただろ僕!)


「君はイチゴ味が好きなの?飴もイチゴ味を選んでたけど」


この質問は察してしまった。


彼女は僕がもしかしたらようすけでは無いのかもしれないと疑っているような節がある味の好みや日常の話を確認したりなど


僕はけいすけでようすけでは無い


知らない顔だけが似てる僕じゃ彼女は

僕に笑いかけてすらくれないだろうか。


きっと彼女はようすけに好意を持っているのだろうと僕は勝手に思い込んだ。


「いや、たまにイチゴ味な気分になるだけで好きな訳でも無いよ。」と落ち着いて答えた。


「、、、そうなんだね」


「うん。じゃあ僕は母さんとこのまま出かけるけどゆっくり食べていって。また。平日に会おう」


「うん、また」


彼女を置いて母を連れて僕は店をでた。


母には彼女は僕の同級生でたまたま通っている教室が近くて店に来たんだと説明した。


家に帰ってようすけの前で彼女の話をされたら苦労が無駄になってしまうし

ようすけが悲しんでしまうだろう。

僕は母に彼女には興味がないことだけ告げて話を終わらせた。


だけど、ずっと胸は苦しかった。


僕は彼女の事が好きなんだ。


でもようすけに嘘ついたこと

彼女を騙していること

全てが今の僕には辛かった。


僕は彼女にとってRPGでいえば村人Aでモブでしかないんだ。


そう自分に言い聞かせて母との買い物を済ませ家に帰ると風邪が治ったようすけが

ダラけきった姿でソファーにもたれかかって寝ていた。


(人の気も知らないで、、)


腹が立ったのでおでこをパチリと叩いて無理やり起こしてやった。


部屋に戻る僕に『労われ!!』と非難が飛ぶけど

たった2日で僕の心はボロボロだ。


無視して部屋に戻り課題に取りかかった。


彼女のことを忘れたい

忘れたい。


そう願って1週間過ごした僕の前には


また彼女が窓際の席に座っていた。


「教室終わるとお腹が空くの」


そう、彼女は僕に伝えてオムライスを頼む


「紅茶はお任せ?今日はオレンジで作れるけど」


僕はわざと言った。ようすけがオレンジ味を好んでいるのを分かっている上で


「ううん、この前のイチゴ味のがいい。

私はイチゴ味が好きなんだ。」


「了解」


奥に向かう僕は自分の弱さを悲観した

僕はなんて単純なやつなんだ。

彼女の好きな味を知っただけで


こんなにも嬉しいなんて


いちばん知りたいことはまだ知れてない


(名前を知りたいな)


ようすけはきっと彼女を名前で呼んでいるのだろうと思うと羨ましくてしょうが無かった。

僕はどうしてしまったんだろう。

生まれて初めて感じたようすけへの嫉妬心を僕はイラつきながらも

紅茶をいれて食べ終わる間のみの

彼女との時間を楽しむことにした。


けいすけだとバレないように注意しながら


ほぼ聞き役に徹した。


彼女は何度も休日のみ店に現れて常連さんたちとも仲良くなってきた。


元々音楽好きな彼女だ。

僕も音楽の話は控えめにして(ようすけは音楽に疎いので)彼女の好みをずっと傍で聞いた。


彼女は何時も1時間ほど過ごすと帰っていった。


僕は休みの日が待ち遠しくなっていた。


一度きりだったけど彼女はいつものイチゴ味の紅茶を頼まずにカフェモカを頼んだことがあって女子の気まぐれだと気にはしていなかったけど頭には引っかかっていたが彼女と過ごせる時間で僕は浮かれてすぐに忘れてしまった。


僕と彼女の不思議な時間は半年ほど続いて

突然の終わりを迎えた。


彼女は突然来なくなった店にはだ。


残念だけど僕には欲しがれないので

諦めるしか無かった。


辛くてまた泣いてしまったけど

これで良かったんだと僕は納得して

彼女との思い出を大切に胸にしまった。





















































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