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はる 

彼の母親に手紙を託したのち

私は彼を待ち続けた-


周りは暗くなり心が諦めかけたとき

彼が近くにいるような錯覚をして

坂を登ってくる姿に私はつい、声をかけてしまった


「けいすけ!」


私の声に驚いた彼は、立ち止まり坂を見上げた

その瞬間、私たちが初めて出会った頃の記憶が蘇り

涙が止まらなかった


彼は驚いた顔を見せたようにみえる

薄暗い中で表情までは見えないけれども

絶対に彼だと私には何故だか確信がある


私は精一杯の気持ちを伝えるしかなかった


「けいすけ!ずっと好きだった!」


その言葉は、長い間私の心の奥底に閉じ込めていたもの。けいすけに届いてほしいと、願いを込めて叫んだ。彼の動きが止まって、私の声を精一杯聞こうとしてくれているのが、私の言葉が彼の心に響いていることがわかった。

驚きと、そして込み上げる感情で、彼はただ私を見つめているように思えた


「けいすけ…」


彼は何も言えないまま立ち尽くす彼の姿が痛ましくも愛おしかった。

でも、私はもう一度、勇気を振り絞って伝える。


「けいすけ、愛してる…」


その言葉に、彼はついに声を震わせて応えた。


「俺も…俺もお前が好きだったんだ。ずっと、ずっと…」


その声は、彼の心からの本音だった。


泣いているのだろうか?声が掠れて聞こえる

私は彼の言葉と共に、長い年月抱えていた感情が、ようやく解き放たれたのだ。


私は、彼の姿を見て微笑んだ。

昔と変わらぬ彼の優しさ、そして私への想いが、今でも彼の中に生きている。それが伝わっただけで、私は満たされていた。


「ありがとう、けいすけ…」


その言葉を最後に、彼に感謝の気持ちを伝えながら、彼の中にもう一度私を残し、風に溶けるように私はその場を離れた。


私が消えても、けいすけはもう大丈夫だろう。

長い間心に抱えていた重荷を、ようやく降ろすことができたのだから。彼はこれから、新しい未来に向かって進んでいくはずだ。


こちらを見上げる彼の姿を見て、私はそっと笑顔を浮かべた。


「ありがとう、けいすけ…さようなら。」


彼には私は思い出として遺ればいい


坂道を下らずに逆にゆっくりと歩きだす


もしかしたら、彼が走って追いかけてくれるかもしれないと卑しい思いが浮かんでは払った。


思い出す

6歳の頃、迷子になって泣いていた私を、けいすけが助けてくれたのだ。


あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。公園の広場で、私は母とはぐれてしまい、どうしていいかわからず途方に暮れていた。その時、小さな男の子が近づいてきて、優しく声をかけてくれた。


「どうしたの?迷子?」


それが、けいすけだった。彼は私の手を取って、近くの大人を呼びに行ってくれた。彼の手の温かさと、安心させるような微笑みが、あの時の私にとって何よりも心強かった。


助けてくれたお礼に、私は持っていた飴の缶を差し出した。その中には、いろんな味の飴が入っていたけれど、けいすけが迷わず選んだのは、苺味の飴だった。


「これ、好きだよ」


そう言って苺味の飴を嬉しそうに受け取る彼の姿を、私はずっと忘れなかった。あの瞬間、私はけいすけに恋をしたんだと思う。6歳の私には、それが恋だとはわからなかったけれど、けいすけの優しさが私の心に深く刻まれていった。


年月が経って、私たちはそれぞれの道を歩むことになったけれど、私はあの時のけいすけの笑顔と、苺味の飴を選んだ瞬間をずっと心の中にしまい続けていた。そして、彼と再び会える日が来ることを、どこかで願い続けていた。


彼に再会することができたのは、偶然ではないと思う。けいすけもまた、あの日の記憶をどこかで覚えていてくれたのかもしれない。

私はは涙を拭いながら、そっと微笑んだ。


「覚えてるよ…あの飴のことも、苺味が好きだってことも。」


胸が熱くなる、彼の人生の中で私は消えてしまう運命だったけれど、それでも今でも彼の中に私がいたことが嬉しかった。


私は、ポケットの中を探ると、小さな包みを取り出した。それは、彼にあの日渡したものと同じ、苺味の飴だった。


「私が好きだって嬉しいな」


私は包みを開け、飴を口に入れる。そして目を閉じ、ゆっくりと味わいながら言った。


「甘いな…懐かしい味だ。」


静かに微笑んだ。けいすけの記憶の中に、私が生き続けるなら、それで十分だった。


私はふと、何かを思い出したように顔を上げる。


「けいすけ、幸せになってね。」


それが、私の最後の言葉だった。


ゆっくり、ゆっくり歩いたけど彼は私に追いつかなかった。それが答えだと私は思い出と共に歩きだす


私の長い長い恋はようやく終わったのだ


口の中の苺飴も直ぐに私の中に溶けて消えてしまうのだった



それから何年もの時が過ぎた


私は62歳になり、新しい人生を歩んでいた。

それでも、時々思い出すように苺飴を舐めていた


春の暖かい日差しの中、私はふと空を見上げ、ポケットから小さな飴の包みを取り出す。そして、そっと呟く。


「ありがとう…私、ちゃんと幸せになってるよ。」


なぜだろうか、彼とはとても遠い所で

もう、会うことも無いのに

いま彼と心が繋がっているような錯覚が

私を包み込んだことに笑みがでて涙がでたのだった。



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