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62歳 けいすけ

時がずいぶん経って僕は62歳になった


体力の衰えを感じながらも、懐かしい坂道をゆっくりと登っていた。

かつて何度も訪れたこの場所は、今でも心に深く刻まれていた。

年月が経っても、ここには変わらぬ静けさと穏やかさがあり、僕には大切な場所になっている

父と母は旅立ってしまったので

僕は家の整理の為に、実家に帰ることが多くなった


足を進めるたびに、頭の中には昔の記憶が蘇ってくる。

はるとの出会い、すれ違い、そして別れ。

すでに遠い昔のことだが、なぜだろう?

今日、この坂道を登っていると、その記憶が鮮明に浮かび上がってくるのだった。


頂上が見えたとき、遠くから耳に聞き慣れた声が響いた。


「けいすけ!」


驚いて、声のする方をみると

そこには、22歳の頃のはるが立っていた。

風になびく長い髪、はっきりとした瞳、そして、彼女の若々しい姿がそのまま目の前にあった。


僕はというと

顔もシワだらけで白髪混じりの髪に

体だって痩せ細って…なのに

彼女は僕をしっかりと見つめながら息をスッーっと吸うと


「けいすけ!ずっと好きだった!」


声を張り上げ、まるであの頃のままの勢いで、彼に愛を叫んでいた。

彼女の姿は、まるで夢の中のように鮮明で現実離れしていたが、その声は確かに心に響いていた。


これは現実なのか??


僕は息を飲み、足がすくんだ

何も言えず、ただ彼女を見つめていたら

溢れた想いで涙が自然と溢れてきた


「はる…」


はるの瞳が真っ直ぐ僕を見つめていた

彼女は微笑みながら、再び愛を告げる


「けいすけ、愛してる…」


諦めたように絞り出した声色で


その言葉に、僕はもう堪えられなかった。

涙を流しながら、ついに声を震わせて答えた。

声は彼女に届いているのだろうか

もう僕には大きな声を張ることが困難で…


「俺も…俺も君が好きだったんだっ、ごほっっ。

ずっと、ずっと…っつ!!」


僕は泣きながら、その言葉を絞り出した

張り上げた喉が痛くてヒリヒリとする

自分の中の長年心の奥底にしまい込んでいた感情が、一気に溢れ出した瞬間だった。


すると、はるは静かに微笑んだ

その笑顔は、かつて彼が愛したあの優しい表情だった。


「ありがとう、けいすけ…」


はるはそう言うと、ゆっくりと消えていった。

彼女の姿は次第に霞み、風に溶けるように消え去ってしまった。

まるで幻のように、はるはそこにいたかのようで、もういなかった。


僕は一人、坂道の途中に立ち尽くしていた。

涙は止まらなかったが、どこか心が軽くなったような感覚があった。

ずっと抱えていた想いを、ようやく彼女に伝えることができたのだ。


空を見上げ、深く息を吸い込んだ

そこには澄み渡る青空が広がっていた。


「ありがとう、はる…」


そう呟いた僕は、またゆっくりと坂道を登り始めた。

これで、本当の意味で彼の心は過去と決別したのだ。

坂道の頂上を目指しながら、もう一度、心の中でそっとはるに別れを告げた。


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