28歳 けいすけ
はるがイタリアに渡った後
けいすけの日常は静かに、しかし大きく変わっていった
はるから手紙を読んだ瞬間から、彼は自分の心の中で何かが壊れていくのを感じた
もう二度とはるには会えない――
その現実が、彼の胸を重く締め付けた。
坂道の頂上に置かれていた苺のキャンディは、はるの優しさを物語っていた。
しかし、手に取ることすらできず、けいすけはその場に座り込んでしまった。
「どうして…」
時間が経つにつれて、けいすけは
はるの存在がどれだけ大きかったのかを痛感する
しかし、彼女はもう遠くに行ってしまった
彼女の夢を追いかける姿を思い浮かべるたび、けいすけは胸の中でわずかな安堵を感じるのだった。
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月日は流れ、けいすけはゆうりとの時間を過ごすことが増えていった。
最初は心の隙間を埋めるような関係だったが、次第にその関係は深まっていった。
ゆうりはけいすけにとって、いつも側にいてくれる存在だった。
はるとすれ違ったその日、嘘だと分かっていたゆうりの言葉――「私たち、付き合ってるのよ」――が、今では現実のものとなっていた。
けいすけは心のどこかで、はるのことを忘れられないままゆうりと付き合い始めた。
ゆうりもまた、それを感じ取っていたが、それでも彼を愛する気持ちが止められなかった。
「けいすけ、私でいいの…?」ゆうりが不安げに問いかけることがあった。
「お前でいいんじゃない、お前がいいんだよ。」
その言葉に嘘はなかった。
けいすけは、目の前のゆうりを大切に思い始めていた。完璧な恋ではなかったかもしれないが、それでも二人はお互いに少しずつ寄り添い、支え合うようになった。
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そんなある日、けいすけはゆうりからプロポーズされた。ゆうりは彼の前で緊張した面持ちで、小さなリングボックスを差し出していた。
「けいすけ、あなたとずっと一緒にいたい。結婚しよう。」
けいすけは一瞬、驚きを隠せなかった。彼からのプロポーズではなく、ゆうりからの提案。
それは、彼女の強い意志と愛情の表れだった。
けいすけは静かに頷き、ゆうりの手を取った。
「ありがとう、ゆうり。俺と一緒にいてくれて。」
二人は自然な形で結婚へと進んでいった。
けいすけにとっては、はるとの関係とは違う、安定感と穏やかさがある生活だった。
ゆうりは彼の心の中にある過去の傷を深く理解し、無理に何かを求めることはなかった。
そんな彼女の優しさが、けいすけの心を少しずつ癒していった。
結婚式は、二人の家族や親しい友人だけを招いた静かな式だった。
けいすけは、ふと式場の外に広がる空を見上げた。あの日、坂道の頂上で見上げた空と同じ青さだった。
「はる…」
心の中で、けいすけはそっと彼女の名前を呼んだ。彼女への思いは決して消え去ることはなかったが、今はもう過去のものだと理解していた。
はるは夢を追いかけ、遠くで幸せになっているはずだ。けいすけは彼女の幸福を願い、静かに心の中で別れを告げた。
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その後、けいすけとゆうりは穏やかな結婚生活を送る。
けいすけは仕事に励み、ゆうりは家庭を大切にしていた。
二人の間に子供が生まれ、家族としての絆が深まる中で、けいすけはようやく自分の人生に満足感を得ることができた。
かつてのはるとの出会い、すれ違い、そして別れ。
それらはけいすけの中で一生忘れることのできない思い出だったが、今の彼にはゆうりという大切な存在があった。彼女との結婚は、けいすけに新たな人生を切り開かせてくれたのだ。




