23歳①
僕らは23歳になった
彼女との文通は未だに途絶えてはいない
森咲には僕のことを偶然に祖父の店で会った頃には僕がようすけではないことは分かっていたと教えられたが、なぜ気付いたはっきりとは理由を教えてはくれなかった。
僕は音楽家への夢見続けたかったが、その才能はないのだと早々に諦めた
だが、音楽とは離れ難かったので楽器を通して音楽と関われる職種に就職をした。
森咲は親御さんの反対などもあったが
今は海外で調律師になる為に修行中だ
『今は毎日が楽しい』
その一文だけでも僕は救われていた。
文通が続く間だけは彼女と繋がっていられる
僕は未だに森咲 はるが好きだった
いつか、会えたならば
あの時期についた嘘、全てを彼女自身に謝れたらいいと思っていた。
それは、先のことだと思っていたんだ
地元の学校に寄付としてピアノを送ってやりたい。そう注文された、お客さまがいたので
ピアノの搬入を見届けたいので付き合ってほしいとのことで、ある地方まで僕が出向いた時だった。
お客さまの知り合いである方が、海外で調律師をされていて偶然にもその日は
日本に移り住んだお子さんに会いにきている、寄付であるなら無償で仕事をしてやると久々に友でもある、お客さまに会いたいという口実で彼から電話がきたそうだ。
「おーい!」と野太い声で海外のふくよかな男性が学校の入口で僕らに手を振っていた。
「久々じゃないか!元気そうだ」
その声の主は、森咲はるの師匠である外国人調律師、ジョン・スミスさんだった。彼のふくよかな体型と陽気な笑顔は、彼が調律だけでなく人々の心も和ませる才能を持っていることを物語っていた。
ジョンさんは、僕のお客さまの古い友人であり、今回のピアノ寄付の話を聞いて自ら申し出てくれたのだ。
ジョンさんの横には、一人の女性が立っていた
僕の心臓が一瞬止まるような気がした
そこにいたのは、森咲はるだったのだ。
「森咲 はる...?」と僕は驚きの声を上げた。
彼女も僕を見つけて、一瞬驚いたようだったが、すぐに微笑んだ。
「久しぶりね、ようすけ君...じゃなくて、あなたはいつも手紙に書いてくれた名前で呼ぶべきかしら?けいすけくん…」
僕は胸が熱くなるのを感じながら
「森咲、ここで会えるなんて思ってもいなかったから驚いたよ」
「私もよ。でも、こうして再会できるなんて、何かの縁かもしれないわね」と彼女は微笑んだ。
ジョンさんは僕たちの様子に気づき、にやりと笑って言った。
「お、二人とも知り合いかい?それはいい。今日の調律は特別に丁寧にしてやるよ!」
その後、ジョンさんがピアノの調律を始めると、僕とはるは少し離れたところで話を続けた。
彼女は海外での修行の話や、新しい挑戦について語ってくれた。僕も、音楽家の夢を諦めたことや、楽器販売の仕事について話した。
「音楽からは離れたくなかったんだ」と僕が言うと、森咲は優しく微笑んで言った。
「それでも、音楽の一部であり続けることを選んだのね。それは素晴らしいことだわ。」
その時、僕は勇気を出して、長い間心に抱えていた言葉を口にした。「森咲、僕はずっと君に謝りたかった。あの時の嘘ついていたこと、ようすけのこと、全部...」
彼女は少し驚いたようだったが、すぐに穏やかな表情に戻った。
「大丈夫よ、全部知っていたの。でも、そのおかげで私たちはこうして繋がっていられた。それに、君の手紙はいつも私の支えになっていたの。」
僕たちは静かに微笑み合った。
そして、心の中で新たな一歩を踏み出す決意を感じた。
この再会が、僕たちにとって新しい始まりになるかもしれないと強く思ったのだった。
その後、ジョンさんがピアノの調律を終えた頃、森咲と僕は自然とお茶をする流れになった。
ジョンさんが友人に家族を紹介してくるとのことだったので、その間『君らも、ゆっくりと話してくるといいよ』と後押しされた。
近くのカフェで席に着くと、僕たちは少しぎこちないながらもお互いの近況を話し続けた。しかし、話すほどに僕は心の中で葛藤を抱えていた。
僕はずっと森咲はるに惹かれていた。
でも、彼女にとって僕はようすけの代わりにはなれない。そんな思いが僕の中に強くあった。
「けいすけくんは...」彼女が静かに名前を呼んだ時、僕は胸が締め付けられるような気持ちになった。
「実は、なつから手紙をもらったことがあるの。彼女が君に告白したこと、その結果も...」
僕は驚きの表情を隠せなかった。
なつの告白のことを彼女が知っていたとは思ってもみなかった。
「そうだったのか...」と僕は言葉を絞り出した。「彼女は伝えてくるだけで、僕には既に選択肢はなかったんだ。嘘をついてしまったところから始まったけど僕が本当に好きなのは...」
「言わないで」と彼女は僕の言葉を遮った。
「君がようすけくんの代わりにはなれないことも分かっているの。…私を彼の代わりに想ってくれなくていいから…」
僕は彼女の言葉に痛みを感じたが、それ以上に彼女の気持ちを理解することができた。
彼女もまた、勘違いをしている
『僕がようすけの代わりを務めようとしている』のだと怖れていたのだ。
好きでも無い自分を慰めから断ち切れないでいると…
僕は否定も肯定もしなかった
まだ森咲のことを何も知らないんだと彼女に確かめもせず勝手に傷ついて淡い気持ちに蓋をして逃げた。
お茶を飲みながら、僕たちはしばらく無言で過ごした。その静けさの中で、お互いの気持ちが交錯していた。結局、僕たちは再び会う約束をすることにしたが、その別れはどこか寂しげだった。
「また、会おうね」と彼女が微笑んだ時、僕は彼女の瞳に一瞬の迷いを感じた。
彼女も僕と同じように、心の中で何かを抱えているのだろう。
「うん、また会おう」と僕も微笑んで答えたが、その声はどこか不安定だった。
お互いに距離を取りつつ、それでも繋がっていたいという矛盾した気持ちを抱えたまま、僕たちはカフェを後にした。
新しい出発のようであり、過去の影を引きずるようでもある。
その一日が、僕たちの未来にどう影響するのかは、まだ何も分からなかった。




