Epilogue ピンクダイヤの指輪と白百合のドレス
「もしもし――お兄ちゃん?
うん。わたし。……もうっ、本物だってば。あなたの妹の、詩音里です。……うん。めっちゃ久しぶりだよね。
ごめん、ぜんぜん連絡しなくて。LINEもブロックしちゃって、ごめんね。ちょっとあのときウザかったから。……ふふっ、そりゃあ、言うよ。
ウザかったって言葉じゃ足りないくらい、アホみたいに、しつこかったです。お兄ちゃんは。うん。ちょっとじゃないなって? 自覚あったんだ?
あはははっ…………や、別れてないよ。ていうか、別れる気なんてないよ。うん。ぜったいに別れない。あのね、きょう、電話したのは、カノジョのことで。うん。……海外に飛びはしないけど、まあ、そんな感じ。
わたしたち、結婚しようと思うの。
私、カノジョと結婚するの。
……無理だろって? それは、まあ、パートナーシップ制度っていうのでくっついて、身内と友だちをちょっとだけ集めて、お式をするってだけ……だよ。うん。……うん。
ねえ、お兄ちゃん。
わたしね、お兄ちゃんに、ちゃんと言わないといけないことがあったんだ。わたしとあの子が同棲するってとき……そう、あのときのこと。……ああ、謝りはしないよ? 悪いことをしたとは、今も思ってない。
あのね、わたし――あのときね、決して嘘をついたわけではないんだけれど、真っ直ぐに言えなかったことがあって。……そう、言い訳、かな。言い訳だったのかもしんない。
お兄ちゃんも知ってのとおり、だけど。わたしは、小学校のときに、男子って生き物を嫌いになってしまって。お兄ちゃんやお父さん以外の異性と関わるのが、まったく嫌になってしまって。
……うん。ごめんね。ずっと心配してくれて、ありがとう。それで、わたしは逃げるように女子校を受験したよね。……そうだよ、逃げるみたいだった自覚はあるよ。うん。
……わたしは、カノジョと一緒に暮らすってときに、それを言い訳にした。わたしは男のひととは幸せになれないって。無理だって。諦めてって。……でもね、わたしね、男のひともいる職場で仕事するようになってから、思ったんだ。
わたしは、もう、家族以外の男のひとと話すことだって嫌じゃないし、たぶん、どうしても男のひとと結婚しろってお見合いでもさせられたら、たぶん、それでもどうにかやっていけちゃうんだろうなって。なんか、もう大丈夫になっちゃったんだな、って思ったの。
……わたしは、お兄ちゃんが前に言ってたみたいに、誰か他のひとと一緒になっても、それなりに幸せになれるとは思うよ。それくらいには、ちゃんと、自分の心がある大人になったよ。
……でも、でもね。わたしが今、世界でいちばん愛してるのは、成実で。わたしは、成実と一緒なのが幸せで。大好きで。
彼女と歩みたいって気持ちは、ずっと、わたしの中にあり続けるんだと思う。……惚気に聞こえる、か。……うん。世界でいちばん、あの子が好きよ。
準備はどうなんだ、って? ああ、こないだブライダルフェアに行った。……プロポーズ? もうしたよ。わたしから。……ん。ピンクダイヤのやつ。ごめん、お兄ちゃんのところのではないや。……べつに反抗期ってわけでもないけど? 成実に似合いそうな指輪にしたってだけよ。
……ドレス。……ドレスは、そっちで、って? ……白百合をイメージした新作って、何それ、面白いと思って言ってる? それとも真面目に? ……えっ、画像送るって? ちょ、ちょっと待ってよ、まだ切らないで。大事なことを言えてないんだから。
……まだあるのかよって、そんなに嫌そうな声しないでよ。かわいい妹からの電話だよ? ……いい歳して痛いとか、それもヤメテ。もうっ。……だからっ、わたしが、言わなきゃいけなかったことは。それは、ね。
――わたしたちの結婚式に、お兄ちゃんは、来てくれますか……?」
「しお、おにいさんとの電話、終わったー? ……って、泣いとる!? ん!? ……そっか、よかったね。よしよし。勇気だして話せて、いい子。うん。いっぱい幸せになろう、しお。……うん。わたしも、愛してる」
――Episode3「ピンクダイヤの指輪と白百合のドレス」
高校時代、スクールカースト上位の高嶺の花
のちにキラキラOLの〈藤田 詩音里〉と、
高校時代、スクールカースト中の下の地味子
のちにコスプレ同人女の〈紙崎 成実〉の話。
Fin
〈作者より〉
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます。第一弾、成実と詩音里のお話でした。
今作は『きらきら。とげとげ。だらり百合。』は不定期更新で、これからも様々な百合のお話を投稿していく予定です。何卒よろしくお願いします!