第四話 別の男たちの目覚め
3人の男の出会いから、時は少し戻る
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○7月3日07:58(+2時間)
俺の名前は番場宏樹。
49歳バツイチ独身。
太陽の光が眩しくなり始め、意識が完全に覚醒する。
砂の上でうつ伏せで寝ていたらしく口の中に少し砂が入ってしまった。
現在、うつ伏せのまま銃を構えた体勢で寝ており、非常に理解に苦しむ。
銃なんて仕事以外で使うはずがないのに、なぜ持っているのかも理解できない。
……。
仕事中だった事を思い出し、飛び起きる。
砂浜の上に立ち上がってあたりを見渡し、腕時計で時刻を確認する。
現在の日時、7月3日07:58。
最後の確実な記憶からは30時間経過している。
視界のぼやける二日酔い。
首の痛みを中心とする筋肉痛。
数時間分の抜け落ちた記憶。
この感覚には覚えがある。
ホーワエスタロンニッカ、通称WTと呼ばれるの錠剤をお酒で服用した時と同じだ。
この錠剤はカフェイン入りの錠剤で、眠くても必ず仕事ができるようになる興奮剤で昔からよく利用していたが、副作用として、アルコールと一緒に摂取してしまうと“ちょっと”テンションが上がり、次の日は記憶が飛んでしまうお薬だ。
最後の記憶を思い出せ。
最後の記憶は、AM3時からの仕事を始める20分前にホワイトタイガーを服用した時。
という事は7月2日の早朝3時から現在までの29時間は丸々記憶が抜け落ちている。
WTの効果は12時間でキレるから、どこかのタイミングで2回目を飲んだと見て間違い無いだろう。
思い出せ、その前は何をしていた。
砂浜で全周警戒を続けながら思考を巡らせる。消えたと錯覚した記憶を呼び戻すしかない。
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あの日は確か7月1日の夕方から、東京に転勤する後輩を気持ちよく送り出す為に同僚6人ぐらいで送別会をしたのち、2次会の居酒屋、3次会のカラオケと飲みの深淵にはまった。
理性の半分と記憶の半分をカラオケのトイレに流して後輩たちの待つカラオケボックスに帰ったところで携帯に緊急参集が携帯に鳴り響いていた。
俺はすぐさま水をがぶ飲みして頭をシャッキリさせ、カラオケに入店したばかりで熱唱していた新人2人に携帯の確認とみんなで出勤する旨を伝えてタクシーの手配をさせ、後輩には別れを告げ、酒に倒れてた同僚2人を担ぎ上げ、店を出た。
正気を保ったのここまでだ。
これ以降はは途切れ途切れの記憶しかない。
どうやって職場に着いたかはわからないが、おそらく後輩が呼んだタクシーで移動したに違いない。
気がつけばフネの上でベットに揺られていた。
艦内放送で「不審船情報有り、本艦はただいまから南西海域に進出する」と流れた。
多分こんな感じだった気がする。
なんとなく状況を理解して、自分の仕事が始まる時間まではとりあえず寝て休もうと思ってそのまま2段ベッドの上で深い眠りに着いた。
「仕事の時間ですよ」と下のベッドの同僚の声に起こされた。
二日酔いと深夜3時に叩き起こされて寝ぼけてた脳を仕事前に活性化させる為にホワイトタイガーを摂取したんだった。
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これ以降の記憶はない。
ホワイトタイガーは昔の職場で利用していたカフェイン含有錠剤なので目が覚醒とするはずなのだが、記憶は朧げだ。
酒と一緒に飲んだ時は記憶が欠落したり曖昧になったりするので、おそらく間違えてアルコールと一緒に摂取してしまったのかもしれないが、酒は職場に持ち込めないので、飲んでないはずだ。
なのに記憶がない。
その前の飲み会のアルコールが残っていたのかもしれない。
まぁいいだろう。
なぜ今ここに自分がいるのかを過去の記憶が教えてくれないのであれば、職場に連絡する方法と自宅または職場に帰る方法を模索しよう。
そう考えて、長い思索から解放し、あたりを見渡す。
あいも変わらず砂浜の上にいる。全裸でだ。
目の前には、焚き火の跡、その周りに散らばる無数の異国の酒瓶、衣類の燃えた断片。
自分と側には、隣の部署の同僚が同じく全裸で1人、ヘルメットと防弾チョッキと安全靴のセットが3人分、小銃4丁、ベルト付きの拳銃3丁。
焚き火の向こうには人が大の字で寝ていた形跡と海岸に向かう足跡がくっきりと残っている。
状況が読めてきた。
俺は普段、フネで唯一准看護師の資格を持つ衛生員として部下数人と共にフネの乗員の健康管理と緊急医療を行っているが、俺の隣で寝ているこいつは直接の部下ではない。
こいつの名前は梶谷で、通信関係の部署でパソコンのメンテナンスを行うスペシャリストのはずだ。
だが、こいつと一緒に仕事をしていたのならば、不審船舶に立入検査で乗り込む時、俺を班長とする臨時の4人の班として一緒に編成されるはず。
乱雑に置いてある装備と銃が立入検査をしていたことを証明している。
問題は隊長をはじめ、自分の班員や他の班員がいない。
とりあえず梶谷海曹を起こそう。
「梶谷海曹、起きろー」
「んー……」
まだ起きない。
もう少し大きな声で揺さぶりながら話しかける。
「梶谷、起きろー、朝だぞー」
「んー、おはようございます…」
彼はしわがれた声で目を細めてこちらをみて来る。
「……番場班長ですか?おはようございます。
……すみませんメガネが近くに置いてたりしませんか?」
「君の頭の上にに着いてるから目の上に移動させなさい」
「班長、ありがとうございます」
梶谷海曹も全裸というのは嘘だった。
大きな丸メガネを頭の上に装着していた。しかし、彼は未だに寝そべったままだ。
「早くメガネをつけて起き上がりなさい」
「私も早くメガネをつけたいんですけど、腕が上がりません。
体もなんか痺れて動けません」
ガラガラの声で梶谷が訴える。
仕方がないので彼のメガネをあるべき場所に装着させて、手を取って起き上がらせる。
梶谷海曹は砂浜の上に胡座をかいたまま俺に話しかける。
「すみません、班長。
自分の体が筋肉痛でなかなか動けなくて…何が何だか…あと、右後頭部に痛みがあって。」
「謝らなくてもええ、俺もちょっと状況が分かってなくてな。
それより二日酔いの方は大丈夫か?」
俺も少しだけ疼く頭を休めるために梶谷海曹の前に座った。
正面に座ると全裸の男が2人対面して恥ずかしいので少し斜め前に座る。
「はい、頭は痛いですし、吐き気もやばいです。
今聞くことではないのかもしれないんですけど、なんで番場班長は全裸なんですか?
私も全裸ですが…」
「多分昨日の夜に酒を飲みすぎて、おそらく服を燃やした」
「えっ?!」
「あっちを見てみろ」
そう言って焚き火の跡を指差す。
メガネの奥で彼の目が見開く。
「完全に私たちやらかしましたね…」
「あぁ、間違いなく報告書の山になりそうだ…。
梶谷海曹は俺たちが昨日何してたか覚えてるか?」
「銃撃戦があって……うっ……!
ちょっと吐いてきます!!」
そう言いながら彼は四つん這いになりながら海岸線に向かっていく。
途中でゲロを撒き散らしながらもその上を進んでいく。
ゲロロードを作りながら進む先は日の昇る海岸線であり、アルコールとクスリに侵された男が2人して駆け出す。
前方の1人は四足歩行で、後方のもう1人は二足歩行で走る。
海に向かって全裸の2人が一直線に進む様は原初の海に帰りゆく哺乳類の退化を映すかのような光景だったのかもしれない。
梶谷の介護をする番場にはそんなことを考える余裕はなかった。
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装備品一覧
◯番場班長
生まれたままの姿、小銃
◯梶谷3曹
生まれたままの姿、メガネ
仕事忙しすぎで何もできてませんでした…
頑張って週一投稿します!




