1-3 探検開始
この浜辺は森が非常に近く、海岸線から森までがわずか50メートルほどしか無い。
「森の中を歩くか、海岸線を歩くか。」
大学生の頃も似たような状況で2択を迫られたことあったなーと考えながら歩く。
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当時、大学の卒業式1ヶ月前ぐらい。高校時代の部活仲間8人で卒業祝いに飲み会をしていた。
大阪の難波で夕方から次の日の朝まで飲み歩き、ここいらで解散となった。
帰る方面が同じ4人組で電車に乗るも皆で寝過ごし関空に到着。
春休み中だったこともあり、そのままのノリと勢いでで飛行機に乗って沖縄に行って、クラブに乗り込んだ。
気づいたら4人とも春先の沖縄のビーチで取り残されていた。
いつ買ったかもわからないアロハシャツに身を包み、4人で助け合いながら起き上がった。
僕らの所持品は、ほとんど空の財布4つ、充電の切れた携帯3つ、残りの充電10%の携帯1つ、前日の記憶、二日酔いの頭のみであった。
そんでもって、4人でどうするかとなり「街の方に歩いて行くか、海岸線を歩くか」で議論した。
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あの後どうやって結論を出したのか記憶は曖昧だが、バカな学生を謳歌してたなぁと昔の自分を笑う。
笑いながら今の自分が置かれている状況の方がシャレにならない事を思い出して落ち込む。
今は仲間も服も携帯もなければ、記憶もない。
沖縄弾丸旅行の時は記憶なんぞ飛んでないかったからよかったが、今回は寝てた時間も含めておそらくおそらく丸1日の記憶が飛んでる為、元来た道を戻ることさえもできない。
いや、まだ詰んでない。歩こう。
そう決心し水を求めて歩き出す。
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○7月3日18:55(+12.9時間)
歩くこと約20分で川に着いた。
すぐ近くで真水を確保できるところがあって助かった。森と海岸で迷う必要もなかった。
何も考えずに川に飛び込む。
プハー!生き返る!水サイコー!
海水で痺れる舌と喉を水が通過して、数十時間ぶりに水が体全身に行き渡る。二日酔いだった脳も覚醒する。
潮に塗れた体を川の水で洗い流し、水を口にふんだんに含む。そしてまた飲み込む。
ふと見上げると綺麗な夕焼けが視界いっぱいに入ってくる。この美しく景色を前に思考が停止する。
明日太陽が出てから考えればいいやと思い、川から出てようと水を振り落とし、川岸に上がる。
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○7月3日19:10(+13.2時間)
銃口を目の前に突きつけられる。
ここ最近、俺はとことんついてないらしい。今この瞬間、銃を目の前に突きつけられるなんてこんな平和な日本では俺ぐらいだろう。
銃を持ってる男が聞いてくる。
「お前は誰だ?どうしてここにいる?」
「僕は阿川っていいます。なんでここにいるかは分かりません。」
「………。」
「あのー?そちらこそどなた様でしょうか?もしここがどこかご存知でしたら是非教えて欲しいのですが?」
「……………」
銃口を向けられたままなので緊張に震えながら質問する。全然反応がない。
まだ足首ぐらいまで川に浸かっているので川岸に上がりたいと思うのだが、それどころではない。
星の光で照らされる薄暗い夜の中、
男を観察する。
肩には2つ目の銃を掛けていて、ヘルメット、防弾チョッキ、長靴を付けている他は僕と同じ服装だ。下半身の服がない。
心臓と頭はがっちり守ってるのに、下半身の防御力はゼロである。
彼はまだ銃口を向けたまま、こちらの目をじっと観察している。
こちとら生まれたままの状態で丸腰なのでその手に持った銃を下ろして欲しいものである。
あ、銃口を降ろしてくれた。やっぱり心の底から願うと想いってモノは通じるんだね。
「…………」
「……………」
沈黙が流れる……
この気まずい雰囲気を打破するかのように、半裸で銃を持った男の後ろから声が聞こえる。
「班長、どうしました?」
「黙れ」
「………………」
「………………」
この男はハンチョーと呼ばれているらしい。ただ、ハンチョーが黙れと言ってまたもや静粛が続く。
ハンチョーの後ろからもう1人の銃を持った男が現れる。
そいつも同じ服装だ。全裸の上にヘルメット、防弾チョッキ、長靴。
え?下半身丸出しで銃を構えるのが最近の流行りなの?なんなの?
質問を投げ掛けたいが、夜の厳正な雰囲気に包まれたこの状況では言葉を発すると撃たれる可能性があり何も発言ができない。
2人が全然名乗ってくれないので、とりあえず心の中で命名する。1人目の銃口突きつけてくる半裸の男を「半裸ハンチョー」、半裸ハンチョーの後ろで怯えた様子でこちらを伺ってくる2人目の半裸の男を「全裸防弾チョッキマン」と呼ぶことにする。
半裸ハンチョーは死線を潜り抜けてきた歴戦の戦士風な体つきの40歳前後だろう。腕や脚のさまざまなところに銃創や斬られた跡が見える。
それに対して全裸防弾チョッキマンはちょっと脂肪がつき始めた20代前半ぐらいの青年で、いかにもデスクワークしてますみたいな風貌だ。丸メガネが銃を持つ手と合っていない。
先程からハンチョーは僕の鼻先に銃口を突きつけたまま僕の顔を見つめてくる。
こっちがちょっと恥ずかしくなってくる。
防弾チョッキマンはメガネの奥から僕の下半身に視線を向け、僕が全裸であることにびっくりした様子で目を見開いた。次に僕の顔を見て目を細めて如何にも困惑してますといった顔になる。
彼は分かりやすくて楽しい。彼の顔を見て話すと嘘発見器みたいになりそうだ。
全裸防弾チョッキマンが口を開く。
「もしかして、あのー、隊長ですよね?」
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