1-1 目覚め
○7月3日06:00(+0時間)
目が覚める。
知らない天井だ。
ぼやけた視界の中には、空のように広がる青色の中に雲のような数個の白い塊。広がる先は頭と首が痛くて動かせず、視界はこれ以上拡大できそうにない。
大空という知ってる天井ではある。
どこの空かは知らないが、とりあえず今は青空の下で大の字になって仰向けで寝ていることはわかった。
もう少し情報を集めたい。
立ちあがろうとするも、ちょっと体が埋まっているらしく、なかなか起き上がれない。諦めてそのまま大の字になる。
砂浜に5センチぐらい自分の体が埋まってるのを確認。
心地の良い浜風を全身に浴びる。正確にいうと、体の正面全てが潮の香りがする温かい風を受けている。
頭がぐわんぐわんしてて痛いため、目線を体の下に向けることはできないが、おそらく全裸なんだろう。異様にスースーする下半身とお腹が冷えていないのは、まだ夏だからなのかもしれない。
本当にここがどこだかわからないし、なんでここで寝ているのかもいまいち理解できない。
足元の方向から波の音がすぐ近くに聞こえるから「夏の砂浜の上で全裸で寝ている」まではあってると思う。
時間は多分朝の8時ぐらい。視界内に太陽いないし、風も足元から受けてるし多分それぐらいだろう。
日付は…思い出せない。
頭が痛すぎて何かを考えることも憚られる。波が砂浜に乗り上げる音をさえも騒音に感じる。
今の僕の状態は俗にいう、二日酔いってやつだ。
この痛みは何回も経験がある。大学の新歓、入部歓迎会、大学同期とテスト期間が終わったあとの打ち上げ、バイトの新人歓迎会、夏季休暇中の学部でのバーベキュー、部活のシーズン終了後の飲み会、先輩の追い出しコンパ、前夜祭、学園祭、後夜祭、ゼミの忘年会、部活の忘年会、学部友人との新年会、バイト先の新年会、次の回生への進級パーティ、友人の留年励まし会…などなど。すべての飲み会で盛大に飲み散らかし、次の日に絶望的な感情の中、起床をしていた。
まさか、社会人になってもこの頭痛と共に起きなければならない事に諦念を覚えつつ力を振り絞り上半身を起こす。
やはり、全裸だ。
正確にいうとネックレスのみ着けているが、靴もパンツも履いてない。野球拳する時、ギリギリまだ全裸じゃないとほざく昔の自分を思い出す。あの時は理由もなくシャツより先にパンツ脱いだんだっけな。大学生の頃の羞恥を忘れ去りたい。いや、今まさにこの状況をすべて忘れて、次の瞬きが終わる頃、自宅のアパートに戻っていることを切に願う。
そんなに現実は甘くなく、長めの瞬きの後には、自分の足の10メートルぐらい先に透き渡るほど綺麗な海が見える。
「ここどこ?」
酒焼けの喉でかろうじて声を出す。
水平線の先には何も見当たらない。この目線の高さからなら3マイル圏内には何もないと分かる。
ここがどこなのか依然としてヒントが見つからない。
上半身を起こして気づいたが、筋肉痛も酷い。特に腕。首も痛くて回らない。
いつもなら二日酔いの次の日は頭痛、筋肉痛、腹痛の3コンボを叩き出し、絶望の淵の中、次の飲み会では絶対に酒を飲まないと、固く心に誓いながら昨日の飲み会楽しかったなーと思い耽るのが常だったはず。
なのに今回は楽しかったなーという記憶がない。
考えろ、今日は何日で、なぜ僕は二日酔い+全裸でここにいる?
明らかに昨日の何かしらのパーティで飲み過ぎたのだと思う。
最後の記憶を辿る。
自宅近くの居酒屋で他部署の同期たちと飲んでいたはず。飲み会の日は1日の日曜日だったはず。一人が出張から帰ってきたので久しぶりに飲もーぜって誘って居酒屋に入店して楽しく飲んでいたところ、僕の職場から緊急の電話がかかって来てめんどくさいなと思いながら退店。仕方なく同期3人を置いて一人タクシーで職場へ向かおうとしたところから思い出せない。
多分職場には着いたはず。
もし、職場に着いていなかったら今頃上司が鬼のように電話を掛けてるんだろうなーと思って、絶望的な起床、通称絶起を数年ぶりにやってしまった事にただならぬ後悔をする。
携帯もなければ連絡のしようがないし、頭が痛いのでこれ以上上司に怒られる未来のことを考えることは放棄する。
まだ社会人2年目だが、遅刻は初めてだ。学生の頃とは違い自重を手に入れていたはずなのにこれだ。
自分の愚かさに笑うしかない。
しかし、冷静に考えてみると、あの日は途中で席を立ったこともあり、お酒はビール2杯しか飲んでないはず。普段飲む量を考えても泥酔するほどでもなければ、ましてや記憶が飛ぶこともないだろう。
なのに何故、店を出てからの記憶があやふやなのだろう?
そう考えていると急に胃の方から込み上げてくる何かを感じる。ガンガン響く頭の中で緊急事態を察知した脳が、筋肉痛でジンジン痺れる全身の筋肉に鞭を打ち、自分を正面の波打ち際まで走らせる。
母なる海に戻りたまえと念じながら、胃の中全てを透き通るブルーへとぶち撒ける。
紺碧の空とターコイズブルーの海との狭間で、太陽の光により神々しく輝くモノを眺めながら、もう少し回復してから物事を考えようと思い、また深い眠りについた。
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読んでくださってありがとうございます!
数話分は書き溜めているのですが、固有名詞が出てくる3話以降の名前を可能な限り実在の人と被らないようにしたいので、なかなか決められず時間がかかっています。
初めての投稿ですので気になるところとかありましたらコメントくださると嬉しいです!