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最初の騒動

 新しい世界の情報は次のようだった。

 

 まず、この世界には魔族、獣人族などの亜人、そして人族がいるということ。そして完全に魔族がこの地を支配しているということ。そして最後に魔族の中でも何個か派閥ができていて、それぞれ魔王と呼ばれる強力な個体に従属していること。

 

 人族や亜人の扱いは想像のとおりだ。奴隷としてこき使われている。

 

 ワタシの最初の目的としては、魔族の力を大きく衰退させなければならない。それも勇者なしで。

 それができれば、悪魔は自分の思い通りに行かないことに怒って直接手を出しに来るはずだ。

 そうすれば調停者であるワタシは直接干渉をする、つまり倒すことができる。


 問題はどうやって魔族の力を衰退させるか、だが。

 ワタシが着目したのは、魔族が何種類かの派閥に別れているということだ。これは大チャンスである。

 もし魔族同士で潰し合うことができたのなら、他の種族にもわんちゃんが生まれてくるだろう。


 逆に言うと、魔族同士の絆が固くて、仲間割れなんて起こせそうになかったら、それこそどうしようもない。諦めて勇者を召喚する他に方法はないだろう。

 そうすればワタシはゼウスに怒られるだろうし、調停者の位から外されるかもしれないが、それはそれで仕方がないだろう。


 さて。


 事前に考えられることは考えた。あとは実際に情報を集める他ない。


 ワタシは次元ゲートを開いた。






 ようは今まで勇者にやらさせてきたことを、現地の生き物にさせればいいのだ。

 

 ワタシが降り立った場所は魔族が支配する街の近く。まあこの世界ではどこも魔族に支配されているのだが。

 そのなかでもここは得意に他の種族に対する扱いがひどいらしい。

 最初にワタシが考えたのが、奴隷たちによる開放戦争だ。これを行えればだいぶ魔族たちの力が弱まる。

 それにもし失敗してもそれまで奴隷たちがしていた仕事を自分たちがしないといけなくなるんだ。不満は貯まるだろう。

 そういう意味でもこれは有効な作戦に見えた。


 ワタシは自分の体を巨人にする。

 ワタシが許されていること、つまり世界に対する直接干渉にならないことといったら、変身魔法と信託くらいだ。それも、この魔法の使い方を誰かに教えることは許されていない。つまるところ、ただの一般人なのだ。

 だがこと今に限ってはたすかった。

 

 ワタシは街の入り口にはいる。

 そこでは検問をしているらしい。

 2つ前に並んでいた巨人の番になった。すると、急に騒がしくなる。どうやら彼は変身魔法で返信した他の種族だったらしい。魔法をかけられると変身がとけて、中から吸血鬼がでてきた。そして近くの衛兵に捕まる。彼女もなんとか逃げようとするが、力負けしたようだ。終いには捕まってしまった。

 自分の番がきた。簡単な手荷物検査をするのみだ。ワタシの変身魔法はそんじょそこらのものじゃない。天界レベルだ。

 どうやら彼らに天界を見破れるほどの力はなかったらしい。

 ちなみに変身魔法がバレたやつはというと、そのままどこかへ連れて行かれてしまった。

 だがこれでわかった。この街の他の種族に対する排他的な態度は想像を絶する。

 これは反乱が成功する確率が高くなってきた。


 ワタシは街の中にはいると、まず聞き耳をたてた。

 情報収集をするにしても、まず元手となる情報がなくては始まらない。

 そうするうちに、この街は巨人の魔王、ゴルドブの統治下にあり街の名前はモルッツェというらしい。

 なかなかおしゃれな町だ。

 

 


 こうして情報収集しているうちにわかったことがある。それはこの世界についてだ。知っている通り5の魔王がこの世界にはいる。それぞれ

 妖精の魔王フィングンド

 吸血鬼の魔王ミルフィンユ

 巨人の魔王ゴルドブ

 蜘蛛の魔王アールードール

 竜王ゲール


という名前だ。

 強さで言えば、単体としての強さはゲールが最もあり、ほかは変わらないらしい。

 潰し合うには最適な条件だ。

 

 さて、そろそろ本題にはいろう。

 それはこの街にいる人族、亜人族たちのことだ。


 人数が多ければ多いほど有利だが、果たして・・・。


 ワタシは奴隷市場にやってきた。

 そこには奴隷がところ狭しと並べられている。どうやら隠す気は少しもないようだ。

 奴隷が一人ずつかごに入れられ、それぞれ値札が貼られている。

 問題はどうやってこのかごを破壊するか、だな。

 間違いなく中にいる奴隷の力じゃ壊れないようにできているはずだ。かと言って俺が何かすることはできない。

 だとしたら他の誰かに頼むしかないが、巨人族で協力は・・・得られないと思ったほうがいいな。なにせこんなにも統制が厳しいんだ。他種族に味方する巨人なんていたとしてもすぐに見つかって殺されてしまうだろう。

 だったら人族、あるいは亜人族だが・・・。


 



 この世界で3日ほどたった。

 この3日間、ワタシが何をしていたのかというと、巨人に買われている奴隷の数を求めていたのだ。

 そしてわかった。

 その数およそ100。

 十分すぎる数だ。

 そして売買されている奴隷がおよそ300。これ全員が反乱を同時に企てれば巨人といえども一溜りもないはずだ。なんせ今この街にいる巨人は100ほどなのだから。

 さあ、善は急げだ。決行は今夜。巨人が寝静まった頃だ。



 夜。


 どこかで狼の遠吠えがする。

 始めるぞ。


ーーーー信託である。モルッツェに住むすべての虐げられている者たちよ、聞くがよい。そなたらの苦悩は今日このときまでである。さあ、武器を持て。勇気を掲げろ。誇りを今一度取り返すのだ!ーーーー


 その瞬間、街中が一度に騒がしくなった。

 なんせこの街にいたすべての非支配者が声を上げたのだ。

 それは買われていた奴隷たちだけではない。檻の中に閉じ込められていたものも、あるいは牢屋にいたものも、全てが、だ。

 さらに今の信託は巨人には聞こえていない。つまり、彼らにとってはいきなり今まで買っていたペットに噛まれたようなものなのだ。 

 

 巨人たちが呆気に取られているうちに人族が鎖から抜け出す。亜人族が市場の檻を壊す。そしてさらなる奴隷たちが飛び出してきた。

 彼らにおそれはない。

 神がついているから。

 彼らに後退の文字はない。

 もう後ろは崖なのだ。


 それぞれ思い思いに武器をとり、今までの恨みを返していく。

 とうとう街中で血が流れ始めた。

 支配されていた者たちが、支配を抜け出そうとしているのだった。


 牢屋から、檻から溢れ出てくる。


 手には巨大な頭を抱えて。


 そして、巨人はその殆どが殺された。

 今まで歯牙にかけなかった者たちに、無惨に殺されていった。

 人類側の被害も少なくない。

 その数は400から250まで減らした。

 だがその顔は今までのような死んだものじゃない。

 いきいきとした、人族本来の顔だ。


 ワタシはそっと変身をとく。

 ガサッ。

 物陰からそんな音がした。


 振り向くと、そこには吸血鬼、の幼体がいた。

 体は小さく、まるで幼稚園生のよう。

 だが額に映える角は、彼女が鬼であることを示していた。


 ひどく怯えている。

 そんな感情が伝わってきた。


「大丈夫だ。ワタシはあなたに悪いことはしない」


「ほ、ほんとに?」


「ああ、ほんとだ」


 そういうとその子は近づいてきた。


「血、すわせて」


 ワタシはしばし考える。

 今のワタシには血が通っていない。だが、通わせることもできる。それは変身魔法による人族の完全コピーだ。

 天界の魔法であるそれならばそのような離れ業も可能である。

 だが、それはすなわちこの幼女にワタシの魔法を見せることとなる。万が一、この子が敵になったとき、あるいは誰かにこの魔法のことを教えたとき、ワタシの立場が怪しくなることは間違いない。

 冷静に考えれば協力するなどありえないのだ。

 だがーーーー


「変身魔法」


 ワタシは人族を完全に模倣する。


「ほら、飲みな」


 そういってしゃがんだ。


 吸血鬼の少女は少し驚いたあと、首に顔を近づけてカプッと噛むと、血を吸っていく。



 しばらくすると、飲み終えた。

 

「さあ、あとはあそこにいる人たちについていってご覧」

 そういってワタシは近くにいた反乱軍をさす。

 彼らなら魔人に属する彼女も受け入れてくれるだろう。


 だが、その時。


ドゴーン。

 轟音がなった。


「なんだ?」


 そこには、先程までとは比にならない巨人が。


「どこじゃ。あやつはどこじゃ」


 そういいながら街の中に入ってきた。


「なんじゃ、この有様は。我らが街が滅ぼされているじゃないか」


「ゆるさんわあああ」


 そう言うと、その巨人は反乱軍に襲いかかる。そして一瞬で数十人を殺してしまった。


 それを見た反乱軍は一目散に逃げ始める。

「うわーーー」

「ば、ばけものだ」



「まずいな」

 家の中でことの成り行きを見ていたワタシはつぶやく。

 このままあの巨人たちがワタシたちを見逃してくれるとは思わない。

 むしろ殺されそうだ。


「逃げるぞ」


 ワタシは気づけば少女を抱えて走り出していた。

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