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ワタシといくつか目の世界

 

 調停者。そう呼ばれるものがいた。

 曰く、世界の危機を救うもの。

 曰く、世界を破滅に向かわせるもの。

 果たしてその存在は一体なのものなのか。それはだれもしらない。





 ここに一つの世界があった。

 魔王によって支配され尽くした世界。そこに生きる人間は奴隷におとされ、魔族のされるがままであった。

 人々の目に希望はなく、かと言って自死することも魔法によって制限されている。

 女は犯され、男は働く。


 しかし人々は決して希望を捨てていない。なぜなら、この世界には一つのおとぎ話が伝わっているからだ。

 

 

 月の満ちる日、我らが希望が舞い降りるであろう。


 俗に言う勇者伝説だ。


 そしてそれは真となる。


 神は人類を見放していなかった。


 突如天に大いなる光が宿る。

 

 そして現れたのは、異界の勇者であった。


「え、ちょちょちょちょ、ここはどこだよ」


 これから世界を救うというのに、勇者の声はあまりにも心細かった。


「大丈夫ですよ、あなたならできます」


 ワタシはそうとだけ言っておく。


「まったく、日本で死んだとおもったらいきなりこんなところに飛ばされるんだもんな」

 

 聞き飽きたセリフだ。


「もしあなたがこの世界を救うことができたのなら、褒美として第二の生をうけられます。こんなにいいことはないでしょう」


「くそう、なんてよくある異世界転生なんだ。だがやってやろうじゃないか。そして俺だけのハーレムをつくるんだ!」


 そういって二人は地に降り立つ。

 どこから嗅ぎつけたのか、魔物に囲まているようだ。


「って、えええ。もしかしていきなりバットエンドです? 聞いてないんですけど」


 勇者が焦っている。


「大丈夫です。あなたには才能がある。このくらい、余裕でしょう。さあ、手を振りかざして」


 勇者は手を振りかざす。するとあたりに竜巻が起こった。

 近くにいた魔物はすべて吹き飛ばされる。


「す、すごい」


 勇者から感嘆の声がもれた。


「いったでしょう?」


 ワタシは遠くに見える街を指さした。

「ではまず、あそこに見える街を取り返しましょうか」


「取り返す・・・?」


 そうだった、説明していないのだった。


「この世界は今魔物によって支配されています。このままでは人類は絶滅してしまうでしょう。そこであなたが呼ばれたのです」


「それって、俺が救世主ってこと?」


「そうです。よろしくお願いします、勇者様」


「ゆ、勇者!?」


 召喚された勇者は鼻息を荒くして聞き入っていた。どうやら相当興奮したらしい。

 それもそうだ。こんな美少女にこんなことを言われてドキドキしないはずがない。

 そもそも、そうなるような人を選んできた。


「さあ、行きましょう、勇者様」


 ワタシは勇者の手を取って走り出す。目指す先は1つ目の街だ。





「グランドファイアー」


 勇者が魔物を倒していく。

 ワタシはそれを見ているだけだ。


 目の前でブラッドオークが倒れる。


「これで、この街は俺たち人間のものだ」

 勇者が総宣言すると、たちまちあたりから歓声が響く。そしてわらわらと人間が飛び出してきた。


「まさか、勇者様?」

「あの伝説は本当だったんだ」

「勇者様バンザイ」


 どうやら勇者伝説を広めたかいがあったようだ。人々はすぐに召喚者を勇者と信じていく。


 そろそろ頃合いだろうか。


「やったよ、女神様。それで、次になにを・・・、あれ?」


 勇者が振り向くとそこには誰もいない。


ーーーーあなたならもう大丈夫。この世界を救えます。だから、自分を信じて突き進みなさいーーーー


 勇者にはそう聞こえた。

 同時にワタシはこの世界に住む全人類に宣誓する。


ーーーー今、絶望にそまっている全人類よ。聞きなさい。あなたがたの苦悩は今この時をもって終わりを告げます。この地に勇者が舞い降りました。さあ、戦うのですーーーー


 そして各地で反乱が起こり、魔王は次第に追い詰められていくのだった。






 任務をひとまず終えた私は天界へと戻る。

 一瞬光が立ち込めたかと思えば、すぐに景色が戻る。

 そこは楽園であった。かくいうワタシも初めて来たときには天国かと勘違いするほどだ。


 石で舗装された地面を歩く。

 並行して変身もといていく。


 美少女だったその体は青年へとかわっていった。


 近くを鍛冶神ヘパイストスが通り過ぎていく。

 向こうに見えるのは癒やしの神イシスだ。


 ここは天界。ありとあらゆる神が集う場所である。


 そしてワタシは調停者。

 すなわちこの世界、いや、ありとあらゆる世界の均衡を守る者。そして神々の子飼いの犬。

 あとは・・・・・・、悪魔への最終兵器。


 ワタシに性別はない。

 ワタシに名前はない。

 ワタシに意思は・・・ない。


 ただ望まれたことを望まれたように行えばいいのだ。


 天界で最も大きい屋敷の前についた。


「おかえりなさいませ、調停者様」

 双子の天使アークとイークが門を開く。

 ワタシは無言で通り過ぎた。


 応接間では一柱の神がまつ。

 名をアテナ。最高神が一柱である。


 ワタシが到着したことを確認すると表情すら一切変えずに話始める。

「報告を」


「深度4域の世界に第6階級の勇者を送り込みました。時期人類全盛の世の中がやってくるはずです」


 それをきいたアテナは満足そうにうなずいた。


「そう。さすがね。それにしても惨め。彼らはただ全力を尽くしただけだったのに」


 彼らとは支配していた魔族を指すのだろうか。


「すいませんが、意味がわかりません。彼らはただ道を間違えたのです。責があるとするならば前任の調停者なのでは? あなたが悔やむ理由がわかりません」


「あなたは、まるで機械ね。いえ、ほんとにネジでできているのかしら。まあいいわ。それで、もう同じ過ちは侵されないのよね?」


「ええ。問題ありません。今送り込まれた勇者が死んだ後は、再び魔族の力が高まるでしょう。ですがそれまでに人類はありとあらゆる策をもって強くなります。結果的に拮抗状態に入るでしょう」


 アテナがうなずいた。


「あなたのそういう目利きは信用しているわ。だって、調停者の中でも軍を抜いて優秀だもの、あなた」


 ワタシは一礼をしておく。


「さ、話は以上ね。帰ってもらって構わないわ。引き止めて悪かったわね」


 ワタシは屋敷をあとにした。


 そして街にでる。少しずつ太陽が沈んでいった。

 どうやら今日の太陽神ラーは気が立っているらしい。


 

 少し歩けばワタシの割り当てられた居住区、家がある。

 そこに入り、立てかけてある制服を手に取った。


 近くにワープホールを出現させる。

 登校の時間だ。


 ワタシは地球へとむかうのだった。

 

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