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妖魔狩り  作者: 望月満
9/22

其ノ八 セントラルへ

「―――――ふぅん。で、あのレネちゃんを引き取ったわけね」

「そうだ」

 雨に濡れたため、着替えたエリスと、着替えを持っていないため、エルピスの弟のものを借りているレネが、エルピスのマンションのロビーのソファにエルピスと共に座っていた。レネはソファに寝転んで、スースーと規則正しい寝息を立てている。

ザアァァァァ――――――

外では(いま)だに雨が降っていた。

小さな寝息を立てて眠るレネをエリスは複雑な表情をして見ていた。



 次の日。妖魔狩りの死体片付け班がスラムに行き、かたづけをしていた。そして、死体の数を調べたところスラムの住人は、妖魔が現れたときにスラムにいなかった人、計八名を除いて全滅したらしい。

「・・・・・・だってさ」

 新聞の記事を簡潔にまとめてエリスとレネに説明したエルピスは、そう言って新聞を閉じた。

「―――――そうか」

「・・・・・・・・・・・・」

 短く返事を返したエリスと、黙り込んだままのレネ。暫く、ロビーの中に沈黙が流れる。と、

「おはよぉ」

 まったく緊張感のない声が階段方向から響いた。

「あ、やっと起きたの」

 エルピスが階段を振り返り、そう声をかけた。

「うん。それより姉さん朝食は?」

 大きな欠伸(あくび)と共にロビーにやってきたのは、エルピスの弟だった。そして、その弟とは昨日エリスが路地で助け出した、童顔の青年だったのだ。

「食堂にあるよ。それから、服借りてるから」

「え?」

 そこでエルピスの弟は、ソファに座る小さなレネと、その傍の壁際に立つエリスを見付けた。

「あっ。おはようございます。エリスさん」

 エリスは黙ったまま、ちらりと青年を見ただけであった。それから青年はレネの傍へと歩みよる。

「おはよう。僕はエルメス。よろしく。君は?」

「・・・・・・エイレネ。―――――レネと呼んでくれ」

「レネちゃん、だね」

 ぶっきらぼうなレネに、青年エルピスは少し苦笑した。

「エルピス」

 その時、ふいにエリスがエルピスの名を呼び、エルピスは「うん?」と返事をした。

「今日からセントラルの方へ向かう。妖魔の出没数が増えてきていると、耳にした」

「分かった。・・・・・・で、レネちゃんはどうするの?」

「レネ自身、ついて来たいと思うなら、ついて来たらいいさ。嫌ならば、ついて来ずここにでも居れば良い」

 ちらりとレネを見、エリスはそう言った。

「・・・・・・行く。私はエリスさんについて行く」

 レネはしっかりとエリスを見上げ、強くそう言った。

「そうか。ではすぐに行く。準備しろ」

 (うなず)いたレネは立ち上がって、泊まっている部屋のある二階へと向かって行った。エリスもその後に続いて上がる。

「・・・・・・ところで姉さん、さっきのレネちゃんは一体?」

「あぁ。あの子はちょっと事情があって、エリスが引き取ってるのよ」

 ロビーの方からは、二人の話し声が聞こえてきていた。


 セントラル。この国の中枢(ちゅうすう)都市であるそこは、人口密度が高くスラムとは正反対に、とても富んでいる。今エリスとレネがいる町から、汽車に乗って西へ一日ほど走ったところに、セントラルはある。


 汽笛の鋭い音。汽車のはく煙で少しけむたい。

「じゃ、気を付けてね。エリスもレネちゃんも」

「あぁ」「行ってきます」

 それぞれに挨拶を交わし、エリスとレネは汽車乗り場のホームを歩きだした。ホームは人が多く、ごった返して蒸し暑い。二人の乗る汽車は、、まだ到着していない。

 暫く二人はホームを歩いた(のち)

「レネ、(はぐ)れるなよ」

 エリスが振り返り、ふいにレネに声をかけた。

瞬間、エリスは溜息を吐きそうになってしまった。

そこには既に、レネの姿がなかったのである。

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