其ノ六 スラム(下)
キイィィ―――ン!
金属と金属のぶつかる、鋭く高い音。
エリスと女の刀が派手にぶつかり、火花をちらした。
ビュンッ!
風を切り、女の右手の刀がエリスに振りかざされる。
エリスは自分の刀でそれを受け止め、ジリジリと押さえつけた。
が、女の左手の刀がエリスに突き出される。
バッとエリスは女の右手の刀を押し、後ろに跳んで身を引いた。雨水を吸った服は、ずしりと重い。
鋭い気迫と共に、エリスは女めがけて刀を振るう。しかし、簡単に受け止められ、弾かれる。女は右の刀を、右から左へとエリスの足元で振るい、エリスはそれを跳んでかわす。エリスの斜めに振った刀を、女はくるりと一回転してかわし、刀を突き出す。エリスはそれを横へと弾き、僅かに後ろに後退した。そのまま力まかせに背から跳び、手を地面につけ、さらにその手に力を込めて。後ろへ跳んだ。女とエリスの間には、数十メートルほどの距離ができる。
「裏切り者よ。仲間を切る感覚はどうだ?」
「・・・・・・・・・・・・」
女は数十メートル先でニヤリとし、エリスは無表情に立っていた。
「楽しいか?心地よいか?清々しいか?面白いか?」
「だまれ・・・・・・」
「それとも―――――」
「やめろ!」
エリスは叫び、女を睨んだ。女はそんなエリスの反応を面白がるように、そっとほくそ笑んでいる。
「汝等に、仲間呼ばわりなどされたくもない」
「何故だ?もしや、罪悪感を―――――」
「母を殺した汝等に、
『仲間』呼ばわりなど、されたくないのだ!!」
女はエリスの言葉にスッと目を細め、すぐに左側の口を引きつらせて笑った。
しかし―――、
ドスッ
女の笑みが一瞬で消え、目が大きく開かれる。訝しんだエリスは、僅かに眉間に皺を寄せた。そして、
女の笑みが消え去った理由が、すぐに分かったのである。
「な、ぜ・・・・・・?」
女の脇腹に、深々とナイフが刺さっていたのだ。ただの小さなダガーナイフ。それだけなら、妖魔である女にとっては、致命傷にならなかっただろう。しかし女は震え、顔色がどんどん蒼白になってゆく。
ダガーには、猛毒が塗られてあったのだ。
ドサリ、と女は糸が切れたマリオネットのように地に崩れた。
「うっ・・・・・・」
荒い女の呼吸が響く。そして、
「ヴヴヴヴ・・・・・・」
激しく、獰猛な唸り声。
「まさか―――」
そう声を上げたエリスの目に映ったのは、
まぎれもない、レネその人だった。
「レネ――――。何故ここへ来た?」
「ヴヴヴヴ・・・・・・」
レネの目にエリスは映っていない。返事もしない。そして、
「!」
レネが腰に付けているポーチの中から取り出したものを見、エリスは絶句した。
レネの小さな手に握られていたもの。それは、
妖魔の身体に刺さったダガーと同じナイフ。それから、
『紅』の珠の首飾り。まぎれもない、
『妖魔狩り』の証―――――。
レネは首飾りを自らの首にかけ、スッと右手にダガーナイフを握った。そして、レネは倒れた女の傍へ歩み寄り、
「っ!」
ズブッ!
思いきり力を込めて、妖魔の女の身体にナイフを突き立てた。そして、
グシャ、ズブッ、ドスッ
女の肉を切り裂き、ナイフを抜いてはまた突き立て、切り裂き、めちゃくちゃに女の身体を切り裂いていた。
女の鮮血がキズ口からほとばしり、レネの身体を濡らしていく。
「・・・・・・・・・・・・」
その光景を、エリスは無表情で眺めている。
ただ、その赤い瞳に、一瞬だけ暗い影が過って行った。が、
誰一人、その影に気付いたものはいなかった。
今日は時間に余裕があったため、幾分か疲れはないです。さて、今回もグロいですね・・・。特に音とか、音とか、音とか・・・・・・。
こんな私の作品を読んで下さっている方には、感謝感謝の毎日です。