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妖魔狩り  作者: 望月満
3/22

其ノ弐 血の穢れ

 ザアァァァァァ。

夜明け近くの時間帯。あるマンションにあるシャワールームに、人影があった。

漆黒の髪と、血のように赤い瞳を持つ女性である。

女性は、髪や肌にこびり付いた妖魔たちの血を洗い流していた。

―――何故、仲間を殺すのだ?―――

―――裏切り者!―――

―――呪ってやる。お前のその身が滅びるその時まで―――



―――他人を平気で殺すことのできる、残酷(ざんこく)な者の持つ瞳をあなたはしている―――



ダンッ!

女性はシャワールームの壁をその拳で(たた)いた。

血を落とすたびに聞こえてくる、今まで殺した妖魔たちの声。そして―――、

「何故だ・・・・・・。あの様な奴・・・・・・」

 ギリッと歯を(きし)ませた女性は、怒りに(あふ)れた表情を浮かべていた。


 血をすべて洗い流し、女性は新しい服に着替えた。着替えた後、腰の帯に刀を差し、帯や足に巻いている布に小刀を忍ばせる。最後に妖魔狩りの証である、黒い輪の中に珠が入った首飾りを付けた。珠の色は、最上級のランクを表す『(あお)』であった。血で汚れた服を女性は手に抱え、そのままバスルームを出た。出入り口の外は廊下になっている。そこを女性は少し左に歩き、廊下の端にある階段を下った。

「あっ、おはよう。エリス」

 下ってすぐのところに立っていた妙齢(みょうれい)の女性が、妖魔狩りの女性に声をかけた。どうやら、妖魔狩りの女性は、『エリス』という名らしい。

「たのんだ」

「はい」

 妙齢の女性は、エリスが抱えていた服を受け取る。服を渡したエリスは、そのまま玄関に向かった。が、

「あのさ、エリス。何度も言うようだけど・・・・・・、本当に、ここに住む気はない?部屋ならいくらでも空いているわよ?」

 その声に、玄関前まで行っていたエリスは、振り返った。

「悪いが、我はこの場所に住む気はない。それに―――我は人間ではないからな」

「―――そう。でもいつでも歓迎するわ。住人の人たちだって、妖魔狩りで有名なあなたなら―――」

 すっとエリスは手を上げ、女性の言葉を(さえぎ)った。

「我の住む場所は―――、もう、ない。何時(いつ)でもこの町にいるわけでもないしな。それに―――我は一部の人間らに、『仲間殺し』と言われておる。・・・・・・当然の言葉ではあるが、な」

 エリスは小さく首をすくめ、そう言った。

「・・・・・・・・・・・・」

 妙齢の女性は黙り込む。やがて、

「分かったわ。じゃあ」

「あぁ」

 そう言うと、(たが)いに背を向け、それぞれに動き出した。


「わっ!わわっと、だからですね・・・・・・っ!!」

 ドサッ。

鳩尾(みぞおち)を殴られた人物は、その場にしゃがみ込んだ。

よくある、路地でのいさかい。そのターゲットにされているのは、一人の気弱そうな少年だった。深緑色のジャケットを白いシャツの上からはおり、下はダブダブの作業用ズボンをはいている。そして、その首にはしっかりと、妖魔狩りの証である首飾りがかかっていた。

・・・・・・最低レベルの『(くろ)』ではあるが。

「知ってんだぜ。妖魔狩りの奴等(やつら)は、国からとぉっても大量の金がもらえんだってな」

 少年に(から)んでいる三人の男の一人がしゃがみ、そう言った。

「・・・・・・それは確かに、生死に関わる危険な仕事ですから、ね」

「じゃあさ、ほら」

 男は右手をクイッと振った。

「えっと・・・・・・うぐっ!」

「えっと、じゃねえだろ!はやく金、よこせよ」

 男は少年の胸倉を(つか)み、そう怒鳴る。

「こんな、やり方、間違っ、てると、思いま、すよ」

 少年は苦しそうに息をし、やっとのことでそう言った。

「ごたごた五月蝿(うるせ)ぇな!おい!ヤルぞ!」

 男が振り返り、仲間にそう言った時だった。

「?」

 男の後ろに仲間は()らず、そして、

「がっ!!」

 変わりにそこにいた女性に(あご)を下からもろに蹴り上げられ、気絶した。

「た・・・・・・助かった」

 へなへなと、後ろに手をつける少年。女性は、気絶した男の(のど)の奥に巻き込んでしまった舌を直した後、キッと少年を(にら)んだ。少年は、その視線にびくっと身を(かた)くする。

「妖魔狩りともあろう者が、人間などに負けてどうする?」

「ごっごめんなさい・・・・・・。エリスさん」

 女性―――エリスは立ち上がり、軽蔑(けいべつ)の視線で少年を見る。

「汝は自分の年齢が、一体(いく)つか分かっているのか?」

「・・・・・・今年で二十一になります」

 そう、少年のように見えるこの人間、実は現在二十歳(はたち)なのである。つまり、この青年は童顔で、背が小さいのだ。

何故(なにゆえ)あの者たちに抵抗しなかった?」

「だって、話で分かりあえることもありますし・・・・・・」

 青年はちらりとエリスの後ろに気絶している、三人の男を見た。

「バカ、だな」

「はい?」

 エリスは目を細め、そう言った。

「たとえそれが間違っていたとしても、

  強くなければ、我が身さえ守れぬ。ましてや、大切な者なども―――」

「・・・・・・・・・・・・エリスさん。確かにそうかもしれません。でも、それだけではないと思いまっ!!」

 青年は、目を見開いて、ポカンとした。

喉元に、エリスの刀の刃が()えられていたのだ。目に見えぬ速さの出来事であった。

エリスは、恐ろしい形相で、青年を睨んでいる。

「甘い・・・・・・。汝、甘すぎるぞ」

「エリス、さん。悪ふざけ、は、よして下、さい」

 青年はそう言いながらも、(わず)かに震えていた。

「そのような甘い考えのままであると、近く身を滅ぼすことになる」

 エリスは刀を下ろすと、(さや)におさめた。くるりと背を向け、路地の外へと歩みだす。

「エリスさん!」

 その背に向かって、青年は言う。

「最初から、暴力や武器を振るうのが、正しいことなのでしょうか?ボクはそうは思いません。エリスさん、今からでも遅くありません。だから―――」

「十八匹」

「えっ?」

「二十一匹、十五匹、十三匹、二十五匹、二十三匹」

「なんですか?」

 エリスは青年に背を向けたまま、そう淡々と言った。

「我が、ここ数日に狩った、妖魔の数だ」

「・・・・・・・・・・・・」

 黙りきっている青年を振り返り、エリスは言う。

「我は、日に日に穢れていく。切り殺す妖魔の血を身に()びるたび、な。今更(いまさら)考えを変え、武器を捨てるなど、無理な話だ」

 エリスは青年に背を向け、スタスタと歩みだした。

「我は、生きるために穢れるのだ。後悔など、微塵(みじん)もせぬ―――」

・・・・・・つ、疲れた。

ただでさえ、今日は疲れていて、さらに今回はいつもより多めに打ったから、疲れてしまいました。

さて、今回は妖魔のはこびる世界『ミュートス』の名前の由来を説明させていただきます。

これまたギリシャ神話になるのですが、ギリシャ人自身がいう、『神話』のことです。ミュートスという言葉は本来「話された言葉」とか「話」という意味があります。その意味合いから、ひろく物語一般を指すようになったのです。

やっぱり、ギリシャ神話って素敵ですよね。まぁ、私のギリシャ神話好きは、母から伝染したものなのですが。

さてさて、のちに分かってくることなのですが、『エリス』というのも、ギリシャ神話に登場する名です。

それでは。

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