其の弐拾壱 憎悪を抱くもの
久しぶりの投稿です!!
いや…本当に久しぶりですよ。
分厚い雲が切れ、
空から鮮やかな月光が降り注いだ。
エリスは顔をしかめ、目を眇めて対峙するエルフ――セレネを見る。
「――何故、我が狩られねばならない。エルフである汝に」
「ふっ。とぼけないでください」
セレネは相手をあざ笑うように片方の唇を釣り上げ、不敵とも思える笑みを浮かべた。
「あなたは、私の仇です。その仇を狩らない理由はありません」
「――仇? 汝、何を勘違いしている」
「冗談のおつもりですか? 全く、笑えませんね!」
セレネは美麗でしとやかなエルフとは思えない形相でエリスを睨みつけた。その瞳は研ぎ澄まされたナイフのように美しく、危険で鋭い。
「貴方は私の母を殺しましたね。まさか、覚えていないとは言わせませんよ」
「覚えていない……とは言わない。何故ならその様な事柄、最初から我の記憶にはないのだからな」
エリスは平然と、淡々とした口調で答えた。エリスのそばに立つレネは、ちらりとエリスを見上げた。そしてその瞳に浮かぶ惑いの色を見て取り、心の中で小さく頷きながら正面を見据えた。
「いつまでふざけるおつもりですか? いい加減、白状してはどうです?」
「だから。我は、そのようなこと――」
「アルテミス」
セレネの口から、一人の名前がこぼれる。その名に、はっとエリスは口をつぐんだ。
「この名を、忘れたとは言わせませんよ」
セレネははっきりとした口調で、エリスに告げる。
エリスはその瞳に初めて驚きの色を現した。レネはその名を知らないようで、きょとんと小首をかしげる。
「……アルテミス。そうか。汝、彼女の娘か」
「えぇ。そうですよ。やっと思い出してくださったかしら」
セレネは皮肉な笑みを浮かべながら、エリスを見つめる。
「あぁ。セントラルにあった、妖魔を狩る妖魔である我を非難する会の中心人物であった者だ。確かにアルテミスの存在は知っている。しかし、彼女との会話はおろか、会ったことも無いぞ」
「えぇ。えぇ、えぇ! そうでしょうね。薄汚い貴方は、殺しを自分の部下にさせ、自分は高みの見物をしていらっしゃったのですからね」
セレネは半分呆れ、半分怒りの感情を露わにしてエリスに言葉をぶつけた。
「――待て。我に部下などいない」
「……ふっ。一体、いつまでとぼけるつもりですか! 今だって、そこに――」
「私は、エリスさんの手下では、ない」
レネを指さしたセレネは、レネの発言に言葉を遮られた。セレネはイライラと顔を歪ませ、弓を握るこぶしに力を込めた。
「本っ当に頭にきました! あぁ。紫色の髪が綺麗な女の妖魔の方でしたね。瞳は、貴方にそっくりの汚らわしい赤で――」
「紫の髪に、赤い目だと!?」「――っ!!」
エリスは目を見開いて足を一歩前へ出して身を乗り出し、レネは息をのんで目を見張った。
「なっ。何ですかっ。いきなり」
「おい、汝。それは、まことか?」
「私は嘘をつきません。だから、何なのです。やっと、思い出したのですか?」
セレネは僅かに顔を引き、双眸を細めた。
「――汝。良く聞け。残念だが、我は部下など持たぬし、その者は我の部下ではない」
「――貴方は嘘をつきとおすおつもりですか?」
「違う! これは、嘘なんかじゃない!」
声を張り上げ抗議したのは、エリスのそばに立つレネだった。
「そこの子供。貴方には関係ありません。少し黙っていて――」
「いや。セレネ。これは、この娘にも関係があることだ。いいか。少し黙って我の話を聞いてくれ」
「…………」
セレネはしぶしぶといった感じで口を閉ざし、エリスはゆっくりと口を開いた。
「そやつ、紫の髪と赤い瞳をもつ女の妖魔――アテは、我と、そしてこの娘、エイレネの仇でもあるのだ」
「――はい? いっ、意味が分かりません。だって……」
「我は! そやつに我の唯一の肉親である母を殺され、エイレネは家族を殺された」
真摯な眼差しのエリス。その瞳を見つめながら、セレネは眉間にしわを寄せ、フルフルと小刻みに首を振った。
「ありえません……。だって、だって、その女の妖魔自身が、自分はエリスの部下だと、言ったのですよ?」
少々、っていうかかなり手抜きで申し訳ないです;