其ノ壱拾九 二人の語り
うわぁ。
約壱か月ぶりの投稿だー。
…………本当に、すいません。
厳しい表情をしていた女性はふいに表情を和らげた。
「なんてね。何も知らない妖魔の子供を狩るなんてマネ、したくもないしね」
女性はそういうと刀を下げ、「あ、ところで」と続けて声を上げた。
「あなた名前は何?」
女性の問いに、我は表情を少し和らげて答える。
「……シユネ、と呼ばれていた」
「呼ばれていた……?」
「フルネームが……分からない。それに、そう呼んでくれていた、お母さんが……殺された。同じ、妖魔に」
我の言葉に、女性は驚きで目を見開く。
「おかしいわね……。妖魔は仲間意識が強いというのに……。よほどのことがないかぎり、そんなことはしないはず――」
「そいつはお母さんのことを“裏切り者”だと言っていた」
「――ねぇ、シユネ。その話、よければ詳しく聞かせてくれない?」
その女性が泊っているという宿に、我は連れて行かれた。そこで母についての話を、女性に聞かせた。
「……そ、う。そういうことだったのよ」
女性はそう言うと、しばらく黙りこむ。そんな女性の姿を見て、我は口を開いた。
「なぁ。先ほど“狩る”といったよな? その後に、子供の妖魔を狩る気はない、とも。それは、長年続いている妖魔と人間の戦いに関係があるのか?」
「え? あぁ。まあ、そうね。私たち人間は猛威を振るう妖魔たちを平和のために始末する」
その言葉に、我は気付かぬ間に嫌な顔をしていたらしい。
「あっ……。ごめんね。妖魔のあなたにこんなことを言うなんて」
「いや。構わない。それで……その、妖魔を始末する、とは?」
「妖魔を始末するのは、私たち“妖魔狩り”の仕事――」
「――その日、我は妖魔狩りというものの存在を知り、師匠に頼み込んで弟子になったのだ。……と、我の話はここまでにしよう」
エルピスのアパートのロビー。そこで話をしていたエリスはそう言って、話を打ち切った。
「そうね。じゃ、弟子になってからの日々はカットして――。あ。“エリス”の名の由来についての話は?」
「そこは――構いません。ただ妖魔狩りの弟子となり、狩るための訓練をしているうちに、自分に“シユネ”という名はふさわしくない、と思ったから名を変えただけですから」
エリスは素気なく言う。レネは黙って話を聞き続ける。
「じゃあ、私の義足の話からかしら?――エリス、構わないかしら?」
「――はい」
エリスの返事と共に、アヴィーは話を始めた。
それは、初めてエリスが妖魔を狩りに行ったある日の夜のことだった。
寒い、冬の日だった。口から洩れる息は、白く長く、空気に溶けてゆく。
「――ほう。なかなか良い動きをするな」
「…………」
エリスと向かい合うのは、若い男の妖魔だった。まだ十歳のエリスにとっては、かなり力量の差は大きかっただろう。しかし、エリスはその小さな身体の素早さを生かして、相手と互角に戦っていた。
「良い瞳だ。仲間を狩るために、子供の妖魔が修練をしているという話は耳にしていたが――。まさか、ここまで幼いとは」
「無駄口をたたくな」
ぶつかり合う、鋭い目と目。月の光に煌めく、二本の刀。妖魔の男はエリスを見据えたまま、フッと笑う。そして、
ヒュッ!
風を切る、鋭い音。瞬時にエリスは反応したが、
「うぐっ!」
すでに遅かった。エリスの足は、男の持っていた刀にざっくりと切られていた。足の力が一瞬で抜け、その場に倒れ込む。その際に、刀を取り落としてしまった。
「まだまだだったな」
男は呟きと同時に、エリスへ向けて刀を振りかざす。
エリスはギュッと目を閉じ、覚悟を決めた。
ドシュッ!
肉を切り裂く、鈍い音が響いた。
が、
「っ――……」
エリスの身体には、一行に痛みが走らなかった。そして、
「ぐあぁっ!」
聞こえたのは、男の悲鳴だった。
「――っ」
エリスがゆっくりと目を開く。そこには――、
「倒れた妖魔の男と、右足を太腿の中間から、ざっくりと切られた私がいたってわけ」
「っ!」
レネは息をのみ、目を見開いた。そんなレネの反応を見て、アヴィーは微笑んだ。
「そんなに驚くことではないわ。弟子を守るのが、師匠の役目だから」
アヴィーの言葉に、エリスはボソリと声を上げる。
「だから我は、レネの師匠にはなれない、と言ったのだ。弟子を守れない師匠は、師匠とは言えない」
「…………」
レネは複雑な表情で、二人を見た。そして、コクンと頷く。
「――話は分かった。ありがとう」
どういたしまして、とアヴィーが微笑む。レネはそんな笑みを、何とも表現しがたい表情で見つめていた。
本当に今回も雑ですいません……。
さて、次回より少し前に出てきたエルフの話が始動します。
頑張って、なるべく早く書き上げます!! 多分(チョww