雷鳴廃墟へ
この更新、いつぶりだろうか。
※ペトラの口調に変更を加えました。
翌日、俺はいつもの練習場所、村はずれの広場から脱柵を行い、村の外れの森へ足を踏み入れていた。向かうは真北、禁足地の方である。
事前に計画していた通り、周囲の魔物を遠ざけながら進む。製粉で遠距離に小麦粉を生み出し、それを音を立てて軽く爆発させることで気を引いているのだ。
遠距離での小麦粉の製粉……俺以外に一体誰が使うというのか。
「結構釣られてくれたな。あとは全部避けていくか」
少し遠回りになるものの、戦闘になるよりはいいので身体強化をして駆け抜ける。本当にこの魔法が使えてよかった。使えなければ移動にも戦闘にも不都合が出る。たまに低ランク帯の戦士が身体強化魔法を侮っていることがあるが、シンプルであるが故に汎用性は全魔法中トップに近い。
走り続けること小一時間。ついに森の木々が途切れ、広い場所へ出た。ようやくついた。
「ここが雷鳴廃墟……」
あの本に書いてあった通り、絶え間なく雷鳴が轟いている。雨は降っていないので自然によるものでは無い。そして、中央にある廃墟からは、俺の魔力を感じる。こうして客観的に見ると、前世の俺の魔力ってかなり多かったんだな。風景もあまり変わっていない。やはり俺の館の跡地だ。
「それにしても件の雷竜は居ないのか? 転移魔法を準備しておくか。もし俺の知ってるあいつじゃなかったら大変だからな」
俺は拾ってきたその辺の石に転移魔法の魔法陣を刻んで魔力を通しておく。こうしておけば、即座に離脱できる。今の俺じゃドラゴンに勝つのはハードルが高いからな。
「確か、館の周りには雷の障壁があるんだっけか。規模や耐久性も気になる。出来そうなら、解除できるか試してみよう」
雷鳴廃墟の中央に近づくにつれ雷の数が増えている。つんざくような轟音が耳を掠める。かなり強い風も吹き始め、まるで嵐の中にいるようだ。真っ直ぐ歩いていくと、すぐに障壁まで辿り着いた。
館の周囲をドーム状に覆う、雷属性の障壁。やはり竜の作った障壁というだけあって、見るからに硬そうだ。というか、これ、俺の魔力を元に作られているから、本来の持ち主である俺なら解除できるんじゃないか?
そう思い、障壁を解除してみる。すると、すんなりと解除できた。薄い黄色の壁は消え去り、通れるようになった。
「よし、成功だ。やっぱり、俺の魔力から出来てたんだな」
「ゴァァァアアア!!」
「……ッ!?」
俺の魔力を使って障壁を張ったであろう、ご本人のご登場である。二対四枚の羽を羽ばたかせ、上空からこちらを睥睨する。その姿を見て確信した。あいつは、俺の知ってる雷竜だ。雷竜が口を開く。
『貴様、どうやってその障壁を開けた?』
「この障壁は俺の魔力だ。解除できない道理は無い。そうだろう? ペトラ」
ペトラとはこの雷竜の名前だ。動揺しているところを見ると、人違いという訳でも無さそうだ。
『む、どうして私の名を……それに俺の魔力と言ったか……?』
「察しが悪い奴だな。またビビりのペトちゃんって呼んでやろうか?」
『あー! その呼び方はまさか……!』
「そ、久しぶりだな。クラインだ」
『クライン! 待ちくたびれたわよ!』
俺が名乗ると、大事そうに抱きしめられてしまった。残念なことに、鱗で覆われたドラゴンに抱きつかれても痛いだけだ。
「ペトラ、離してくれないか? 鱗が痛いんだ……」
『あ、ごめんなさい。これでどう?』
彼女の身体が淡く光ったと思えば、どんどんその全身が縮んでいき、一人の少女の姿になった。しかし、頭には一対の角が生えているし、竜の姿と同じ黄色い尻尾が顔を出していた。
以前にも少し触れていた通り、彼女は竜人なのだ。
「お前、すっかり大人びたな。背もそこそこ伸びているが、昔の俺にはまだ届かなそうだな。元気そうで何よりだ」
「逆にクラインは変わり過ぎなのよ。こんなにかわいく小さくなっちゃって……」
「ま、転生したからな」
確かに、彼女の方が身長が高い。俺がまだ7歳だからなのだが。というか、かわいいって言いながら頭を撫でるのはやめろ。なんかムカつく。
「ところでペトラ、ここって、俺の屋敷だよな?」
「えぇ。ある日ここを訪ねたら、いつも家に引き篭もってる筈のクラインが急に居なくなっていて、びっくりしたんだから。1年経っても帰ってこないし、心配だったから、帰ってくるまで待っていてあげようって。ずっと盗賊なんかも追っ払って。そして、クラインが帰ってきた時に褒めてもらおう、って思って、1000年間、ずっと、ずっと……」
徐々に涙ぐみ始めるペトラ。俺が居なくなった時、つまり転生を使ったあの頃から、ずっとここを守っていたのか。1000年も、たった一人で。
「何も言わずに居なくなって悪かったな。今まで俺の屋敷を守ってくれてありがとう。この姿じゃカッコつかないかも知れないが……よく頑張ったな、ペトラ」
俺が昔やったみたいに抱きしめてやる。体格差のせいでぎこちなくなってしまったが、彼女にはそれで十分だったようだ。
いつしか屋敷を囲んでいた嵐は止み、雲の隙間から青空が顔をのぞかせていた。
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作者は狂喜乱舞します。