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死の価値観と禁足地

お久しぶりです。

 ゴブリン襲撃の翌日。亡くなった自警団の奴の葬儀を行った。彼らやティアの両親の健闘により、村への直接的な被害は少ない。一部の畑が踏み荒らされてしまったぐらいだ。しかし、森は未だ火の手が上がっている。カリーナさんの雨のお陰で鎮火に向かっているそうだ。


 そして、村の墓場に、10ほどの墓標が追加された。彼らの家族はそれぞれに寄り添い、涙を流していた。他の面々も、大人子供問わず涙を流していた。


 心優しき彼らに対して俺はと言えば、人の死に何も感じなくなっていた。わずかな寂寥感さえあれど、これも自然の摂理であろう、と割り切っている自分がいた。前世を生きた3000年、途中、争いの絶えなかった時代もあった。その時からだろう。人の死に対する考え方が変わってしまったのは。決して知らない顔では無かったのに、涙の一粒すら流れない自分が、少し嫌になった。


 その日の夜。自警団の面々とアレンさん、カリーナさん、そして俺がティアの家に集まっていた。何をしているのかと言うと、ゴブリン襲撃の反省や考察などの会議だ。ちなみに、ティアは僕の両親が預かっている。


「ところでアレンさん、どうして僕までここに?」

「レインくんは今回の件における重要人物だ。同席してもらうのも当然だろう? 大丈夫。素性を明かさせるつもりは無い。適当に誤魔化しておくさ」

「大丈夫かな……」


 不安だ。実に不安だ。だが、深く関わってしまったのは事実なので、仕方なく同席する。みんなが席に着いたタイミングを見計らい、アレンさん進行で始まった。


「ただいまより、先日のゴブリン襲撃の反省及び考察を始める。まず、今回現れたゴブリン達についてだが━━」


 そこからの情報をまとめるとこうだ。襲撃に現れたゴブリンは推定230匹。各個人の討伐量などから判断したようだ。そのうち、上位個体であるゴブリンリーダーが15匹、ゴブリンロードが4匹、そしてゴブリンキングが1匹。合計250匹が襲ってきたことになる。


「今回の一件、ただの偶然で済ませられない、異常事態だ。ゴブリンが人里を襲うのすら稀だというのに、通常の群れに対して数がおかしい。こんなことが繰り返されれば、村はそう遠くないうちに壊滅するだろう。対策を立てるのはもちろんだが、森の奥に入って調査を行う必要がある」


 アレンさんの言葉で、部屋内の空気が変わったのが分かった。


「あ、アレンさん。森の奥ってことはつまり、禁足地まで行くってことか?」

「当然だ。ゴブリンたちがやってきたのは禁足地のある方角だ。調査せねばなるまい」

「で、でもあそこには、ドラゴンが出るんだろ? ヘタに刺激して、村を襲いやしないか?」

「大丈夫だ。そのドラゴンは、雷鳴廃墟を守るように周囲を飛んでいるだけだ。雷鳴廃墟に近寄らなければ、危険は少ない。それに、私の騎士団で調査を行うつもりだ。ここの村人の手は煩わせんよ」

「ならいいが……騎士団の方々なら、任せてもいいかも知れない……」


 その後の話し合いで、アレンさん率いる騎士団が調査に来ることになった。案内役を出そうと言う案もあったが、村人であるアレンさんがいるので却下された。出来るだけ人数を絞りたいだろうしな。


「まぁ、騎士たちが請け負ってくれるかは別問題だが、村からの依頼という形にしておけば問題ないだろう。では明日、私は王都に戻り、要請を掛けてくる。カリーナはここに残って貰うつもりだが、いいか?」

「えぇ。騎士団が到着するまでは、村の外で何かあれば、私に報告するように。分かった?」

「「「はい!!」」」


 と、いう形で会議は終わった。結局、俺はただの一度も発言していないし、何故子供が? という目を向けられただけで、特に気にされなかった。俺も自警団の一員として認められたか。……無いな。


 部屋を出て行く自警団の面々を追って俺も出ようとしたが、アレンさんに引き留められた。


「さぁて、話せることを話してもらおうか、()()()?」

「は、はい……」


 アレンさんカリーナさんともに目が笑っていない。人に対して恐怖を覚えたのは、いつ振りだろうか……


--------


 その後何やかんやで洗いざらい情報を吐いた俺は、家に帰って泥のように眠った。


 次の日の朝、俺は村長の家に行って、本を漁らせて貰うことにした。俺が知りたいのは、『禁足地』や『雷鳴廃墟』に関することだ。俺の生きていた頃はそんな場所は無かった。賢者時代からの性なのだ。知識欲というものは。


「おはようございます。村長さん居ますかー?」

「おぉ、これはこれは。アーレインくん、いらっしゃっい。いつの間にか大きくなりよって。さて、わしに何用であろうか。老人にできることであれば、喜んで協力するぞい」

「じゃあ早速ですけど、図書室、開けてくれませんか?」

「ほうほう、書物に興味を持つのは良いことじゃ。良いじゃろう。ほれ、これが鍵じゃ。帰るときには返しにくるのじゃぞ」

「はい、ありがとうございます!」


 村長宅のお隣には図書室がある。図書()では無いのが、単純に規模の問題だ。図書室には色んな本が置いてある。外見は、木製の小さな小屋だ。


 例えば、ティアと読んでいたような、子供向けの絵本やおとぎ話、薬草知識の詰まった調合書、俺の探しているような地域の伝承や歴史を記した本などもある。


「お、あったあった。『雷鳴轟く廃墟』アゼル・エリオット著」


 アゼル・エリオットとは、俺の生前に居たエルフの冒険者である。俺の記憶が正しければ、転生する100年ほど前から冒険者をやっているはずだ。いつか自分の冒険を本にして、後世へ残すのが夢だと語っていたが、無事叶ったようだ。エルフは長生きだから、もしかするとまだ生きてたりするかもな。


 エリオットのことは一旦置いておいて、俺は『雷鳴轟く廃墟』を開く。初めの方は禁足地へのカリア村に関する話だったので割愛。


「ここだな。えっと、『雷鳴廃墟を初めて目にして感じたのは、途方もない寂寥感だった。件のドラゴンにはお目にかかれなかったが、不定期に轟く雷鳴は、誰かが淋しさを紛らわせているような、そんな響きにも聴こえた。

 雷鳴廃墟は、もともと実在した賢者様の居住する館だったと言われている。カリア村の村長に伺った話によると、賢者様が亡くなった後、行き場を失った多量の魔力に引き寄せられたドラゴンが、住み着いてしまったとのこと。

 中央の屋根がドーム状になっていて、館に近づこうとすれば、電気の障壁があり、入れなくなっている。特定の魔力に反応するらしいが、誰の魔力かは分かっていないようだ。おそらくは、館の持ち主である賢者様だろうと言われている。

 私の知っている限り、賢者と呼ばれた人物は一人だけ。皆もよく知る、賢者の石唯一の創造者、アパラチア・クラインだ。悔しくも彼は亡くなってしまっている今では、ドラゴンを討伐か撃退しなければ調査は難しいだろう』


 ここまで読んだ俺の感想。


「アパラチア・クラインって俺じゃねぇか!」


 もしかして雷鳴廃墟って俺の館の跡地なのか!? 確かに中央部分は屋根ドーム状に作ったけどさ。でも、知り合いに雷竜なんて……いる。一人だけいる。そいつは正確には竜人なのだが、竜化した時は確か雷竜だったはずだ。初めて会った時は幼竜だったが、竜の成長過程を実際に見ることができて嬉しかった。俺が転生した頃は……まだ年齢が四桁に届かないぐらいだったろうか。もし本当にあいつなのなら、俺が転生して何年経っているのか色々と聞けるかも知れない。


「もし人違いだったらどうしよう……」


 本当に俺の魔力に誘われて住み着いた野良ドラゴンかもしれないし……


 だが、『写念』の魔法で作ったであろう挿絵を見ても、俺の館と特徴がかなり一致している。防腐の魔法を掛けていたからか、蔦に覆われてはいるものの朽ちて崩れたりはしていない。行ってみる価値はあるだろう。それに、王都の騎士たちがもしドラゴンを倒してしまったら目も当てられない。早めに行くのが得策か。


「よし。行くか、雷鳴廃墟」



 俺は本と鍵を村長に返して、自室で計画を立てる。


「禁足地は村から見て真北だな。門番もいるみたいだから……いつもの練習場所のところから脱柵していくか。この付近の魔物程度ならちょっと多めに魔力を垂れ流しておけば勝手に逃げてくれる。効かないのなら、ちょっと『威圧』すればいいし……」


 そんな感じの独り言は、ティアが夕ご飯に呼びに来るまで続いた。


少しでも面白いと感じていただけたら、

ブックマークや評価をよろしくお願いします。

作者は狂喜乱舞します。

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