事件の後
少し短めです。
「⭐︎粉・塵・爆・発⭐︎」
「うぎゃぁああああああああ!!?!?」
俺はゴブリンキングの気配がちゃんと消滅していることを確認して、戦利品を回収する。それは、奴が持っていた斧だ。特殊な金属で出来た代物のようで、粉塵爆発に巻き込まれてもほとんど傷はない。その大きさに見合ったかなりの重量を誇っているが、風魔法を併用して持ち上げる。
「う〜ん、俺には扱えそうにも無いし、どうすっかなコレ」
「レインくん」
「あ、アレンさんにカリーナさん……」
忘れてたとは言わないが、意識の外にあったアレンさんとカリーナさんがおずおずとした様子で歩み寄って来た。
「で、レインくん。聞きたいことは山ほどあるんだが、まずはありがとう、と言わせてくれ。さっきの魔物は、俺たちにとって手に余る相手だったんだ。代わりに奴を倒してくれたことは、本当に感謝している」
「いえいえ、そんな恐れ多い……」
恐縮だ。前世では知らない人からの賞賛はよく浴びていたが、やはり見知った人からの賞賛と言うのは一味違う。それが王都の騎士団副団長様でかつ、幼馴染みの父親からの言葉ともなれば恐れ多い。今の俺はただの一村人なのだ。
「だが、さっきの戦闘で見せたあの力は一体何だったんだ? どこでどうやってそんな力を……?」
「それは……」
俺は正直に話すかどうか迷った。仮に話したとしても、妄言だと一蹴される可能性が高い。前世は賢者でした、なんていう子どもは怪しすぎる。もしくは頭のおかしい子と思われても文句は言えない。だが、隠していてもいずれ問いただされそうなので、思い切って話す事に決め、こう切り出した。
「その事について話すには、僕の前世の話をしなければなりません」
そして俺は話した。前世は賢者クラインだったこと、転生してからの魔法の練習のことも。証拠として隠蔽を解いたステータスプレートも見せた。ちなみにティアのことは話していない。あくまで俺自身に関する話のみをした。
俺が話し終えると、それまで黙っていたアレンさんが、ゆっくりと口を開いた。
「……以上です。信じてもらえないかも知れませんが、これが真実です」
「……いや、信じよう。それが嘘ならば、さっき俺が見たのは何だったのか、説明が付かない。レインくんは実力を既に証明しているのだから、信じない訳にもいかにだろう?」
「そうね。それに、転生した賢者様と知り合えてむしろ嬉しいわ。これならあの子も安心して預けられるわね」
え。なんか今最後にとんでもない発言が聞こえたような気がするんだが。あの子が━━とか言うくだりは俺の気のせいだよな? いや、きっとそうだ。
「あ、そうだ。この手柄はアレンさんたちのものとして貰ってもいいですか? あまり転生云々の話は広めたくないんです」
不用意に目立ちたくないし。
「分かった。でもいいのか? きっとあいつを討伐したのなら大きな手柄になるはずだろう?」
「えぇ、確かにそうですけど、それを信じる者がどれだけいるか……最悪、アレンさんたちが嘘つき呼ばわりされる可能性だってあります。だから、お願いします」
俺は深々と頭を下げてお願いする。正直言って、俺のせいでアレンさんたちに無駄な誤解を招かせるのはごめんだ。
「じゃあそろそろ戻りましょう。あと、簡単な治癒魔法は掛けていますが、気絶している人たちを運ばなきゃいけませんしね」
「あ、そうだった! 早くこいつら運ばねぇと! カリーナ、魔法で何人運べる!?」
「3、4人なら行けるわ。急ぎましょ」
その後は、倒れた自警団の人たちの運搬に勤しんだ。死者が誰一人としていない。そこは、カリーナさんさまさまだ。決して死なないように治癒魔法が掛かっている。俺も重ね掛けをしたが、カリーナさんの活躍が無ければ半分以上の人は既に亡くなっていただろう。
俺は全員運び終わった後、逃げた人たちを呼び戻しに行った。俺がその事を告げたとき、誰も彼もがホッとした表情になり、皆それぞれの帰路についた。すっかり日の暮れた茜色の空を見上げながら、俺も帰る事にした。
「っとその前に」
俺は、ゴブリンキングの斧を森の奥の岩に刺して置いた。いつか、使い道があれば取りに来ようと思う。
……もちろんだが、帰ってから、両親にどうして急に居なくなったのか執拗に問いただされた。両親に本当のことを話せるようになるのは、いつになるだろうか……
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作者は狂喜乱舞します。