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⭐︎粉・塵・爆・発⭐︎

 この風車小屋に避難してどれくらい経っただろうか。1時間か2時間か。もしくは30分しか経っていないかも知れない。時計の無い風車小屋の中では、時間感覚がいまいち掴みにくかった。


 時折外から聞こえてくる魔法が炸裂する音は、とても頼もしく思えるが、同時に恐ろしくもある。もしゴブリンロードの魔法だったら、などと考えるだけで恐ろしい。横に暖かい体温を感じられるおかげで多少軽減されたとはいえ、不安は完全には拭えなかった。


 ちらりと横目でティアの方を見れば、彼女も音が聞こえるたびに身体を反応させ、窓の外を不安そうに見つめていた。やはり怖いのだろう。幾ら明るい性格のティアであっても、まだ子どもなのだ。俺とは別種の不安を感じていることだろう。3000年も人生経験が違えば当然だと言える。だからこそ、何かしてあげられないかと考える。


「……ねぇ、レイン」

「どうした?」

「パパたち、大丈夫かな……」

「……」


 俺は、即答することが出来なかった。ティアの両親が優秀な人物であることはよく知っている。村に帰ってきた時に、たくさんの武勇伝を聞いたことを覚えている。団長との模擬戦の話から、ドラゴンとの戦いや迷宮の探索まで。騎士団はやはり仕事も多岐に渡るんだな、と感心したものだ。

 しかし、彼らが今戦っているのは異常事態。約200匹のゴブリンの襲来。不測の事態なんて、起きない方がおかしい。

 俺にはティアの両親たちが何とかしてくれる、という小さな期待と、彼らの予想が及ばない何かが起きるのではないか、という大きな不安に苛まれていた。だが、何も答えない訳にもいくまい。


「……ティアのパパとママは強い人だ。だったら、俺たちは信じるしか無いんじゃないか?」

「……うん……」


 ティアは意気消沈、といった様子で俯いてしまった。せめてもう少し自信を持って言えたら良かったな。励ましは逆効果になってしまった。


 その時、事件は起こった。


 風車小屋の反対側、つまりゴブリンたちとの戦場で、爆炎が柱となって噴き上がったのが見えたのだ。その飛び火なのか、村の一部や森に火がついた。遅れて雨雲が空を覆い始める。雨雲からはティアの母親の魔力を感じられた。だが、その前の炎からは━━、


「ちっ、ゴブリンキングか……!」


 そう、ゴブリンキングの魔力を感じたのだ。ゴブリンでもゴブリンロードでも無く、ゴブリンキング。俺の予想は、やはり悪い方向へと裏切られたのであった。そこからの風車小屋の様子は、阿鼻叫喚。大した広さの無い小屋の中に渦巻くのは恐怖。信じていたものが裏切られたかのような絶望感。


 村人たちが、風車小屋を飛び出して村から避難し始めた。パニックになった人たちには統率力などなく、それぞれがバラバラに逃げ出していく。俺はその混乱に乗じて一人森の方へと向かう。前世の実力を、隠している場合ではない。せめてティアの両親だけでも、救わなければ。


 その一心で俺は、雨で弱まってはいるが、いまだ炎を上げる森に駆け出した。


------------------------


「……っ」


 俺はその光景を見て絶句した。雨が降り続く中、焦土と化した森にはたくさんの亡骸が転がっていた。ゴブリンのものの方が多いとは言え、村の自警団の面々も中には居た。よく見ると、気絶しているだけの人も多く見られた。良かった。


 俺はティアの両親が戦っているであろう最前線へと向かった。そこでは、ほとんどゴブリンの姿は見えず、ゴブリンロードも居なかった。その戦場で立っているのは、ティアの両親と、1匹のゴブリンキングだった。満身創痍なティアの両親に対し、通常のゴブリンの数倍はある巨躯に、名の由来となった王冠を被るそいつは、ニヤニヤと余裕の笑みを浮かべていた。奴は真っ先に俺の存在に気づき、その太い首をこちらに向けた。


「うん? まぁた俺の食料が一人やってきたみたいだなぁ」

「食料じゃないぞ。俺はお前を倒しに来た」

「はぁ〜? ガキが何言ってんだよ。お子ちゃまは家でミルクでも飲んでな」

「レインくん!? どうして君が!?」

「みんなと避難したんじゃなかったの!?」


 目を真ん丸にして驚くアレンさんとカリーナさん。そりゃ当然の疑問だ。娘と一緒に避難したはずの子が、自分と同じ戦場に立っているのだから。


「はい、一度ティアたちと避難しました。そして、あの火柱を見てここに応援に来たんです。大丈夫です。心配なさら無くても、僕は戦えます。まぁ見ててください」


 俺はそう啖呵を切り、唖然としていたティアの両親が言葉を発すより先に、ゴブリンキングへ向き直る。見た目はただの子供だし、言葉だけでは説得力に欠けるので、実力で証明して見せよう。


「へぇ? 小僧一人で来るのか? 大層なもんだ。力の差もわからないなんてかわいそうに。勇気と無謀は違うってことを教えてやろう!」

「確かにそうだな。でも力の差がわかってないのはそっちの方じゃないか?」


「俺が、上だ」


 俺の言葉に、ゴブリンキングはニヤニヤとした笑いを止め、その醜い相貌を更に疑念で歪ませる。


 奴のことは無視して目を閉じ、精神統一を行う。集中力を高めれば、魔法の成功率は大幅に変わる。


「んあ? 目なんか瞑っちまって、今更ビビったのか? ギャハハ、残念。お前を殺すのは決定事項なんでなぁ!」


 その巨体に似合わない速度で一気に肉薄して俺に拳を振おうとするゴブリンキング。しかしそんなもの、前世の時に会った図書館司書なら既に300発ほど殴られていただろう。そいつと比べたら、軽いもんだ。


「遅い」

「プギャッ!?」


 無遠慮に突進してきた巨体をいなし、俺は速度を上げていたゴブリンキングの顔面に、カウンターで魔力を込めた右ストレートをお見舞いしてやった。錐揉み回転しながらぶっ飛ぶゴブリンキング。その巨体を焦げた木にぶつけてようやく止まった。


「凄い……! レインくん、その力は一体……」

「アレンさん、この事については終わった後に話します。それまで今は抑えてくれませんか?」

「……あぁ、わかったよ」


 物分かりの良い人でよかった。いつの間にか雨も止み、視界がクリアになっていた。さて、ゴブリンキングは、っと。


「おのれぇ、ふざけやがって! 俺様を怒らせたこと、地獄の底で後悔しろぉおおおおお!!!!」

「セリフが三下だな」

「黙れぇぇええ!!!」


 体勢を立て直したゴブリンキングがそう叫んだ瞬間、ゴブリンキングの肌に赤黒い線が走り、目は血のような深紅に染まった。その手にはいつの間にか3メートルほどで奴の身長と同じくらいの大きさの巨大な斧が握られていた。


「オラオラァ! さっきの奴らみたいに燃え尽きてしまえ! 『呪爆炎』!!」

「ふーん、それがあの時見えた炎の柱か」


 周囲の魔力を吸収し、ゴブリンキングが思いっきり斧を地面に叩きつける。すると、俺の足元が熱を帯び、炎の柱が噴き上がる……直前で魔力は霧散してしまった。


「な、なぜ発動しない!?」

「すまんすまん、お前が周りから集めてた魔力、実は偽物なんだよね」

「は? 何を言っている貴様!」

「俺が周囲の魔力を『隠蔽』して、代わりに俺の魔力を吸わせてやったんだ。そして、お前が魔力を消費する直前に、お前が吸った俺の魔力をこいつに変換したのさ」

「これは……粉?」

「そう。でもこれ、ただの小麦粉なんだよね」

「小麦粉……!? 貴様、どこまで俺様をコケにする気だ!」


 そう言ってゴブリンキングは小麦粉の身体で憤慨し、粉を周囲に舞わせる。こうも予想通りに動かれると、

罠じゃないかと疑ってしまうが、まぁいい。予定通り盛大にいこう。


「コケにする? いやいや、小麦粉をバカにしちゃいけないぜ。だって━━」


 俺はゴブリンキングへと肉薄、一気に距離を詰めて、一つの魔法を使った。


「こんな爆発を引き起こせちゃうんだからな。『灯火(トーチ)』」


 さぁさ皆さんご一緒に。


「⭐︎粉・塵・爆・発⭐︎」

「うぎゃぁああああああああ!!?!?」


 散々被害を出してくれたゴブリンキングは、粉塵爆発に巻き込まれて粉微塵になってしまった。

少しでも面白いと感じていただけたら、

ブックマークや評価、感想などよろしくお願いします。

作者は狂喜乱舞します。

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