ゴブリン襲来
朝早くに起きて、お昼まで家の仕事を手伝う。そして、夕べまえまでボロ屋のところで魔法やスキルの練習をする。帰ってきたら美味しい夕ご飯を食べてから眠りにつく。それが俺の日常だった。
ある日、ティアの両親が休みを取れて帰って来ていたらしく、俺の家に皆で集まって昼食と雑談を楽しんでいた時。村の自警団の一人が、血相を変えてうちへやってきた。
「おい、アレンとカリーナは居ないか!? もし居るなら手を貸して欲しい!」
アレンさんはティアの父親、王都の騎士団の副官だ。そして、カリーナさんはティアの母親、王都の精鋭魔術師のことであるのだが、あまりに急な出来事にその場にいた全員が困惑顔でいた。なので、取り敢えず彼のところへ向かい、話を聞くことにした。
「俺もカリーナもいるぞ。一体何があったんだ?」
「大変なんだ! 東の森の方から、魔物の群れが迫ってきてる!」
「魔物の群れ? 何の魔物かしら?」
「……ゴブリンの群れさ」
「ゴブリン? だったら何とかなりそうだな。俺たちもすぐに行く。先に防衛線を張っててくれ」
「待て。まだ話は終わってない。ゴブリンなのはいいんだが、数がいかんせん多くてな。アレは、ぱっと見でニ百匹ぐらいはいたんだ!」
「「「「「200匹!?」」」」」
みんなの驚きようから分かるように、その数は異常。本来、ゴブリンの群れは5〜10匹程度、多くても20匹までなのだが、それが200匹。これを異常と言わずして何を異常と言おうか。一匹一匹は力も弱く、頭も強くない弱小種族ではあるが、数集まれば十分人類にとっての脅威となり得るのだ。
しかし、一つの群れで200とは、前世でもあまり聞いたことのない数だ。もしかすると、より上級の魔物がいるのかも知れないな。
「まさかそこまでとは……よし、すぐに準備する。先に行っててくれ」
「数分後にはそっちに着くから、それまで頑張って」
「分かった。頼りにしてるぜ、二人とも!」
伝達に来た男は、どこかホッとしたような表情でゴブリンが迫っている森の方へ走っていった。
「さて。私たちは増援に行く。セリアス、フローラ、子どもたちを頼んだよ」
「分かった。けど、無茶するなよ。まぁ王都に勤める騎士様なら、ゴブリン相手に不覚は取らないだろうけどな」
セリアス、フローラは俺の両親で、アレンさんたちとは旧知の仲である。お陰様で俺はティアと出会えた訳だが、俺の両親は、戦いの場に於いては残念ながらただの一般人だ。よって、避難しなければならない。
「奴らは東側から来てるらしいから、西の風車小屋に集まっていてくれ。200匹となると掃討は面倒だが、ちゃちゃっと終わらせてくる」
「あぁ、頼むぞ。ティアちゃんとレインは一緒に風車のところに行こう」
「パパ、ママ、頑張って!!」
「ありがとうティア。行ってくる」
「ティア、良い子にするのよ。また後でね」
ティアが両親を見送った後、俺たちは父さんに続いて西の風車小屋を目指すのだった。
……しっかし、どこか引っかかるような……
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俺たちは無事、風車小屋に到着することができた。行く道すがら、大きな魔力反応を感じて東側、つまり戦闘中の森の方を振り返ると、ちょうど巨大な氷山が降り注いでいるのが見えた。魔力の波動からして、恐らくカリーナさんの物であろう。流石は王都の精鋭魔術師。魔法の規模が違う。
「ふう。取り敢えずここまで来れたな」
「そうね。この子たちに万が一にも危険を及ばせる訳にはいかないわ」
「うん! レインのお母さんたち、ありがとう!」
「……」
周囲を見回してみれば、広い風車小屋の中には、女性や老人、子どもたちが多く待機していた。若い男性の人も見受けられるが、動物とならともかく、魔物と戦う上で、農民は非戦闘員なのだ。相手がゴブリンなのと、ティアの両親がいるため、風車小屋の中には比較的弛緩した空気が流れていた。同時に、俺はどこか嫌な予感がしていた。経験則、そういった予感は的中することが多い。
俺は小屋の隅の床に腰掛け、考えを巡らせる。
それにしても、おかしな話だ。ゴブリンが200匹も集団で襲ってくるなんて。前述の通り、ゴブリンの群れは通常5〜10匹程度、多くて20匹ほどの群れで行動している。そして、ゴブリンの中には、複数を従えるために、リーダー格となる者が存在する。5〜10匹の群れなら名前はそのまま『ゴブリンリーダー』。20匹まで来ると『ゴブリンロード』という更に上が出てくる。更に上もいるっちゃいるが、それらは世界に幾つも存在する迷宮のボスとして現れるので、地上では見られない。前世でも3000年以上生きたが、地上で『ゴブリンキング』は見たことがない。
「今回のだったら、ゴブリンロードが複数いたりするかも知れないな……」
「レイン、何してるの?」
「うん? あぁ、ちょっと考え事をな」
考え事をしていたら、ふとティアが隣に腰掛けてきた。その手には、どこで貰ったか知らないが、手に小さなパンを二つ握っていた。
「これ、向こうで配ってたから貰ったの。レインの分もあるから、一緒に食べよ?」
「ありがとう」
ティアからパンを受け取って、少しずつ口にする。彼女を横目に見れば、その小鳥のように小さな口で、はむはむと頬張っていた。
ティアの幸せそうな様子を見ていると、どこかホッとして、さっきまでの暗い思考もどこかへ飛んでいってしまった。ティアの両親は王都の騎士団に所属するほど強いのだ。ゴブリンロードの10匹や20匹、軽く狩ってくるかも知れない。
しかし、その予想が悪い意味で裏切られることを、この時の俺は知る由も無かった……
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作者は狂喜乱舞します……!