洗礼の儀式
三話目。どんどん上げて行きますよ〜!
あの日、俺が魔法の練習を始めたあの日から2年だ。つまりは転生してから6年目であり、現在は晴れて7歳である。
身長もそれなりに伸び、手足にもちょっとずつ筋肉がつき始めた頃。俺は今、村に唯一の教会へと、足を運んでいた。それは7歳になると行われる『洗礼の儀式』のためであり、同い年であるティアとは必然的に一緒になる。ここで魔法学院に行けるかどうかが決まるのだが、もし良ければティアにも魔法の才能があればな、と思う。時間に立ってどうなっているか分からない土地には、やはり誰かと一緒に行きたい、という心理が誰にだってあるはずだ。
「緊張するな……」
「そうだね。でもレインと一緒だし、私は大丈夫だよ!」
どうしてかは分からないが、ティアの笑顔は、どこか寂しげで、強がっているように感じた。どうしたんだ? と聞くべきか迷っていると、神父さんが教会から手招きをしているのが見えた。
「よし、そろそろ行くか……」
「うん。一緒に行こう」
二人で並び立って教会の中へ。そこでは、先ほど手招きをしてくれた老神父さんが待っていた。
「これより、『洗礼の儀式』を執り行う。では洗礼者、前へ」
いつもの柔和な顔とは反した厳かな雰囲気で言い放たれる言葉は、物理的圧力すら伴っていそうだった。そして言われた通り一歩前へ進めでて、膝をつき、女神像に向けて祈りを捧げる。
「「……」」
数秒の祈祷ののち、神父さんから甘酒を受け取り、一気に飲み干す。甘酒は、この世界のあらゆる儀式で用いられる聖なる飲み物で、身を清めるのに使うという。
その真っ白な液体が喉を通ったのを確かめた後、神父さんから石板とちっちゃな針を受け取る。血を一滴、針を使って石板へと落とす。すると、一瞬淡い緑色の光に包まれたかと思えば、光はやがて引いていき、光ったのと同じ色の文字が石板に刻まれていた。この石板は、俗に言うステータスプレート、という代物で、自身の能力・才能を数値化してくれる働きを持っている。
ステータスプレートが表示した文字に視線を落とす。
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アーレイン 7歳/アパラチア=クライン 3208歳
適職:製粉師/賢者
魔力:D/SS
スキル:【製粉】/【星の本棚】【賢者】他
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「……ッ!」
俺は目を見張った。なぜなら、ステータスに前世のものが書かれていたからだ。俺は『アパラチア=クライン』という名を確認するや否や、即座に隠蔽魔法をかけ、後半の部分が他者からは見えないようにした。適性の問題で魔力の使用効率が悪いが、構わず魔力を注ぐ。俺の年齢にしてみれば魔力Cとは伊達ではない。異常な才能の持ち主と認められるレベルだ。
一般人が魔力平均がE、多くてDであるのに対し、騎士団の魔術師はCやBが多い。宮廷魔術師ですら最高で魔力Aであり、Sなど最早数えるほどしか存在しない。SSなど夢のまた夢だろう。……決して前世の自慢ではない。
取り敢えず、魔力がごっそり持ってかれたが、バレるよりかが幾分もマシだろう。今はどうして前世のことが記されていたのか、などの疑問点はあるが、今は洗礼の儀式中だ。色々と考えるなら終わってからになるだろう。
作成したステータスプレートを神官へ提出し、諸々のメモを取られた後、俺たちは教会を出た。隣にいるティアの方を窺うと、彼女はどこか寂しそうな表情を浮かべていた。俺が見ているのに気づくと、その表情は身をひそめ、すぐにいつも通りの笑顔を浮かべた。
「ふぅ〜、なんだか疲れちゃったね……」
「あぁ。なんというか、緊張した」
色んな意味でな。洗礼の儀式なんて久しく参加してないし、ステータスがどうなるが心配もしたし、実際軽く事故も起こしていたが、ステータスプレートを入手できたのでよしとする。
「……レイン、ステータス……どうだった?」
「俺は予想が当たってた感じで、職業は母さんと同じ『製粉師』だった。スキルとかも普通だったな。ティアはどうだった?」
「……」
そう聞き返すと、ティアは俯いてしまった。前髪で隠れていて表情は見えないが、きっと何らかのマイナスなものを感じているのだと安易に想像がつく。女性が深く落ち込んでいる時の対応は、前世を含めて一度たりとてしたことが無いのだが、俺と反対に、前世で女性にモテモテだった友が教えてくれた方法を試すことにした。
「……ティア、一体どうしたんだ? 何か辛いことがあったのなら話してみろ。もしかしたら、ティアの悩みも俺に解決できることかもしれないだろ。大丈夫だ、俺は笑ったりしない。出来る限りを尽くして手伝おう。だからティア、頼む」
そう言ってティアを抱き締める。前世の友の助言とは、『名前を何度も読んでやれ。そして抱き締めてやれ。それだけだ。後は何とかなるさ』という何とも大雑把なものだったが、他に参考にするものが無かった以上、仕方がない。ただし、今回は効果覿面だったらしい。
「……うん、分かった。レインの言う通り、ステータスのことなんだけど……これを見て」
彼女が差し出してくれたステータスプレートを受け取る。そこには、俺の想像を遥かに上回る内容が書かれていた。
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ティア 7歳
適職:魔剣士
魔力:B
スキル:【刻印付与】【全属性適性】【属性解放斬り】【魔衝波】【魔剣召喚】
備考:魔剣装備可
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……まさにチートの権化だった。流石の俺も、この年でここまでのステータスを持つ者は初めて見た。両親が騎士と魔術師なのだから、戦闘系の職業であることは間違いないと思っていたが、まさか混じって『魔剣士』になるとは……流石に予想外だった。
しかも魔力B!? 既に母親を超えている。彼女の母親は魔力Cという、なかなかに重宝される腕のいい魔術師なのだが、それを上回ってくるとは。
あと、スキルの欄に何があったのか知らないが、とんでもないスキルをいっぱい抱えていることは間違いない。特に、【魔剣召喚】とか【刻印付与】とか! 他のも全部ヤバいスキルばかりなのだが、一つ一つあげるとキリがないのでやめておく。
「……あのね、私ね、魔法の使える職業でね、魔力がD以上あったらね、魔法学院に入学することになってるの。お父さんよりもっと偉い、『がくいんちょー』って人に、お願いされたの」
なんか口調変じゃない? 文節をねで区切ってない?
「……なるほどな。でも、どうしてそれが嫌なんだ?」
問題はそこだ。彼女の父といえば王都の騎士団の副団長だから、それより偉いとなると、団長や指揮官クラスの人間だろう。なんならもっと上のレベル、貴族様である可能性もゼロではない。むしろ、推薦されることはいい事なのではないか? と思う。だが、彼女はこう返した。
「……だって、だって、魔法学院行ったら、レインと離れ離れになっちゃうじゃん!!」
「……ぐはっ」
急所に当たった! だとか、会心の一撃だ! だとかそういう類の威力を持ったものが俺にクリティカルヒットした。何だそれ。
俺は下を向いて、ティアにバレないように静かにダメージを負うことに成功した。早く治療を……ではなく、体勢を整え……でもなく、愛がおも……も違う!
「……ティア、ツッコミたいのは山々なんだが、端的に言うと、それは大丈夫だ」
「どうして? 私、レインがいないと寂しくて泣いちゃうよ?」
「……くっ」
大丈夫だアーレイン! 傷は浅いぞ! 早く言ってやらないと、お前本当に死んじまうぞ! ていうか愛、重くない? ねぇねぇ、重くない? (錯乱)
そんな冗談(冗談になり得ない可能性があるから怖い)はさておき、早くティアを落ち着かせるべきだろう。俺は自信を持ってこう返した。
「俺も魔法学院に行くからだ」
「……え? 本当? 私を慰めるための嘘じゃなくて?」
「本当だ。俺のステータスを見てくれ。ほら、ちゃんと魔力があるだろ? 魔法学院の入学テストを受けるには、魔力D以上あることが条件だ。だから、俺は入学テストを受けられる。そして、俺はそれに合格する自信がある」
「でも、魔法学院の入学テストは難しいって聞くよ?」
「それはお前も……ってそうか。推薦貰ってるんだったな。俺は大丈夫だ。さっき言った通り、自信がある。まず確実に合格できる。信用してくれ」
「本当に、魔法学院一緒に行ってくれるの?」
「あぁ」
「本当に、本当に?」
「もちろんだ」
「やったぁ! ありがとレイン、大好き!」
「うぐぁ」
……まぁ、魔法学院の入学テストを受ける資格は10歳からだし、そう急がなくても大丈夫だろう。それよりも、俺は受けたダメージがそろそろ深刻になり始めているので、早いところ帰りたかったが、もう一つだけやるべきことがある。
「ティア、ステータスプレートを貸してくれ」
「いいけど、どうして?」
「隠蔽をかけるためだ」
ティアの能力は危険すぎるものが含まれている。たとえ両親であっても、人の目に触れさせるのは良くないだろう。もし他人の耳に渡れば、悪用しようとする輩が出てくるかもしれないしな。
という訳で隠蔽を施し、適職は彼女の母親と同じ『魔術師』、魔力は『C』、スキルは【魔衝波】だけにしておいた。備考なんて全部隠蔽してやるわ!
「よし、できた。さて、ティアに一つ約束して欲しいことがある」
「なーにー?」
「そのステータスの内容は、俺が書き換えた通りに伝えろよ。そうでなくちゃ意味がない。あと、このことは絶対に他人には喋っちゃいけない。たとえお父さん、お母さんだとしてもだ。だから、ティアのステータスは、俺とティア、二人だけの秘密ってことにしといてくれ」
「うん! 分かった。お口にチャックしとく!」
そう言って両手で口を押さえてんー、んー、って言ってる姿はなかなかに愛らしくて、思わずほっこりしてしまう。一つとか言っときながら、約束は二つになっちゃったけど、まぁ大丈夫だろう。後は、ティアが約束を守ってくれるのを祈るだけだ。
「じゃあ、帰るか」
「うん。あ、聞かれてもステータスは答えちゃダメなんだよね?」
「あぁ。俺が書き換えた通りに言ってくれればそれでいい」
「分かった! 二人だけの秘密なんだよね!」
まだまだ日の高い午前中だが、俺たちは家路に着く。ティアは「秘密♪ 秘密♪」なんてウキウキしていつ一方、まだそんな時間帯であるにも関わらず、俺のライフは既にかなり削られていた……。
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作者は狂喜乱舞します。