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病弱少女は吸血姫の夢を見る  作者: サクヤシノ
【冒険都市アストルフィール】
3/8

第二話

ちょっと文章が変かもです。

 馬車の車輪が地面と擦れる音が聞こえる。

 フィリナとアリシアの2人は、初心の冒険者が多く暮らしている、冒険都市アストルフィールに向かっている真っ最中だった。

 沢山の馬車が一列になってアストルフィールに向かって移動している。これは小型の魔獣などに襲われないようにするためだろう。

 フィリナが乗っている馬車よりも、前方に位置する馬車は大きな荷車を引き、その後ろには冒険者と思われる、ハーフプレートの鎧をを着込んだ人達がちらほら見えた。


「それにしても天気がいいね」


 フィリナは暇なのかボソッと呟く。

 確かに空は快晴の二文字で、雨など到底振りそうに思えないほど晴れていた。


「ちょ、お姉ちゃん膝に寝ないでよ……」

「いいじゃん。こんなに太陽が出てると、少しだけ眠くなるんだから」


 フィリナはアリシアの言葉を無視し、アリシアの太腿の上に頭を置き横たわった。

 そんなフィリナを見てアリシアは、やれやれと言いながらため息を吐く。だが、嫌そうな表情は一切浮かべてはいなかった。

 2人とも馬車に乗るのは初めてではなく、何度も乗っているため、馬車酔いに会うこともなく、順調に目的地に進んでいた。

 しかし、馬車に乗り数時間経過した頃。

 先ほどとは少し風景が変わり、見たことのない草木や花、それに大きな川などが流れ、遠くには山脈らしき大きな山が見えてきた。

 ーーそこは自然豊かな平原だった。

 よく目を凝らしてみると、草むらの中には水色の体を持つプルプルと左右に揺れながら移動する、小型の魔獣が見えていた。


「お姉ちゃん! スライムがいるよ!」

「えっ……! どこどこ!?」

「ほら、あの草むらのところ!」

「……うわ、本当だ。でも、なんか本で見たサイズよりも、実物は小さいんだね。なんかちょっとだけ、可愛く見えるかも……」


 2人は馬車の小窓から初めてみるスライムに興奮と期待の眼差しを向けていた。

 フィリナとアリシアの地域はスライムすら滅多に現れない。スライムにも生息範囲があるらしく、綺麗な水や栄養となる薬草が沢山ある場所に存在すると本に書いてあった。

 偶にスライムは人を襲う事があるが、打撲や痣になった人しかおらず、そこまで目立った被害などはない。それでも、スライムは気温が高くなると、多くの薬草を食べることから、害獣として狩られることもある。

 主にスライムの体からはスライムゼリーと呼ばれる物質が取れ、コレは回復薬などにも使われ、冒険者からは重宝されている。


「あー、行っちゃったね……」


 スライムに馬車が近づくと、スライムはビクッと跳ねた後、草むらの奥に消えた。

 残念そうに肩を落とすフィリナ。

 そんなフィリナを見てアリシアはちょっと笑みを浮かべた。


「おわっ……」

「大丈夫、お姉ちゃん?」

「うん。私は大丈夫……それより……」


 2人は初めてみる風景などを堪能していると、突如として馬車が急停止したのだ。

 前方の馬車もピタリと止まっていた。

 何事かと思いフィリナは御者のおじさんに、何かあったのか聞こうとする。

 ーーその瞬間。

 前方の馬車から叫び声が上がった。


「ガルムだッ! ガルムが出たぞッ!」


 焦りを感じさせるほどの叫び声が聞こえた。

 その瞬間、御者のおじさんが急いで馬車の中に隠れるように入ってきた。


「じょ、嬢ちゃん達も早く窓から離れて!」


 窓から外を見ていたフィリナとアリシアに向かって、おじさんは注意を呼びかける。

 その警告を聞き、2人は窓から離れようとした時、前方から怒声と共に死に物狂いに叫び人の声が響き渡った。


「ーーだ、誰かッ! 助けてくれッ!」


 フィリナはその声を黙って聞くことは出来なかった。

 必死に叫ぶ人の声を……。


「じょ、嬢ちゃん何してんだッ!?」

「ちょ!? お、お姉ちゃん!?」


 ドンっと音を立て馬車の扉が乱暴に開く。

 フィリナは申し訳そうな表情を浮かべたまま、アリシアの頭に手を置いた。


「ごめん、アリシアはここで待ってて」


 そう言い残しフィリナは馬車を飛び出した。

 アリシアはそんなフィリナの様子を見て、呆れたようにしながらも、驚いて止めに行こうとしていた御者のおじさんを引き留めた。

 フィリナは馬車を出るや否や、先程の声が聞こえた方向に視界を移す。


「おっと……アレはまずいかな……」


 フィリナの視界には普通の犬よりも大きい、狼らしき魔獣が、御者らしき人にジリジリと迫っている様子が見えていた。

 ガルムはフィリナが知っている狼よりも数段と大きく、毛並みは真っ黒で爪や牙は見るからに鋭く、魔獣に呼ぶに相応しかった。

 襲われている人は恐怖からか、腰を抜かして尻餅をつき、後ずさる事しか出来ていなかった。目からは大量の涙が溢れている。


「ちょっと本気でやらないとね!」


 フィリナは呟くと腰に添えていた鞘から、剣を徐に抜き出す。そして、軽く地面を数回蹴った後に、眼孔を大きく開いた。

 次の瞬間、ガルムは御者に向かって鋭い牙と爪を向けて襲いかかった。

 だが、御者にガルムの牙や爪が届くことはなかった。


「ふぅ……間に合った」


 飛びかかっていたガルムの体が、壊れた機械のように急に動きを止め、地面にボタッと鈍い音を立てて落ちた。

 その後、黒い影が宙を舞い草むらに落ちる。

 土や砂を鮮血が汚していく。


「怪我とかないですか? 聞こえてる?」

「え? あ……え……?」


 御者は何が起きたのか分からず口をパクパクと何度も開け閉めし、自分の周りを何度も確認した後に、顔や頬、顔を触っていた。

 それもそうだ。

 フィリナがガルムを殺したのは数秒だ。

 フィリナは馬車から降りた後、即座に転移の魔法を使い、数十メートル先にいた御者の前に転移し、飛びかかるガルムの頭を空中で綺麗に切り落としたのだった。


「えっと……本当に大丈夫ですか?」

「あ、大丈夫です! ありがとうございます! この恩はいつか必ず返します!」


 御者の人はゆっくりと立ち上がり、涙を地面に落としながら、感謝を述べ頭を下げた。


「よかったです。じゃ、私はこれで」

「本当にありがとうございます!」


 フィリナはニコッと微笑んだ。

 そしてその場を離れ、辺りを見渡した。

 すると、奥の方で冒険者らしき人達と数十体のガルムの群れと戦っているのが見えた。

 どうやら今倒したガルムはあの見える群れから逸れた一体だろう。

 逸れているガルムが他にいないかフィリナは目を凝らしながら探す。しかし、運がいいのか逸れているガルムは一体といなかった。


「ん……となるとアレだけかな」


 フィリナは駆け足で冒険者の方へ向かう。

 ガルムの群れと戦っていた冒険者達は皆が鉄で作られたネックレスのような物を付けている。それに、皆が青色の鳥のようなエンブレムが刻まれている黒ローブを着込んでいた。

 冒険者の数は4人ほどいた。

 3人は馬車を守るように陣形を組んでいるが、1人だけ離れてガルムと戦っていた。

 アレでは連携も組めないだろう。

 3人は馬車を守るので精一杯のはず……。

 普通は4人で2人で馬車を守り、残りの2人がガルムの敵視を惹くべきなのは目に見えた。


「あの……手伝いましょうか……?」

「おわっ!? な、なんだ君は!?」


 フィリナは馬車を守っていた冒険者に話しかける。すると、冒険者はフィリナの気配に気づかなかったのか、ビクッと驚いた。

 フィリナはガルムの群れを指さした。


「あの数は危険です。それに先程、一体のガルムが逸れてました。このまま長引けば、もっとガルムが集まる可能性もありますし、それにあの人だけじゃ、あの数は危ないです」

「…………」


 フィリナの言っていることは正しかった。

 ガルムは群れを作る魔獣。

 一般的にガルムは危険を感じた際や、獲物を見つけた際に、近くにいる他のガルムを引き寄せる能力を持っているとされている。

 それにガルムは本当は危険な魔獣だ。

 先程、フィリナが最も簡単に倒したが、アレは群れていない逸れのガルムだからだ。

 群れているガルムは近くにいるガルムと連携を取り、攻撃を一緒に仕掛けたり、逆に危険が迫っていることを知らせたりする。

 冒険者の1人はフィリナの言葉を聞き、しばらく口を閉し考える様子を見せる。

 そして早急に冒険者の人は判断を決めた。


「頼む、手伝ってくれ」

「はい!」


 冒険者は普通は一般人に手伝いを頼むことはない。冒険者自身が依頼を受けてる以上、そのパーティで依頼をこなすのが基本だ。

 だが、今はそんな状況ではないと言うこと。

 判断を下したこの冒険者も本当は手伝いなど頼みたくはなかっただろう。

 それは自分達だけでは依頼をこなせなかったと言っているのと等しいからだ。


「私は前に出てあの人を手伝います!」

「あぁ、頼んだ!」


 フィリナはコクっと頷く。

 すると、前方で数体の群れに囲まれている冒険者の方に向かって駆け出した。


「ルイさん……あの子は……?」

「助っ人だ。それより、俺たちは何が何でも馬車にガルムを近付けないようにするぞ!」

「「はい!」」


 ルイと呼ばれる冒険者を筆頭に、3人の冒険者は先ほどよりも気合を引き締め、馬車の近くにガルムが来ないように陣形を整えた。


 ***** *****


 フィリナは前でガルムに囲まれていた冒険者の元に辿り着いた。

 目に見えるだけで5体以上ガルムがいる。


「君、助けに来たよ!」


 フィリナはガルムに囲まれている冒険者に向かって叫んだ。

 先ほどは遠くであまり見えなかったが、ガルムに囲まれている冒険者は、フィリナと同じ年齢に見えた。

 少年は燃え上がるような深紅の髪を靡かせ、透き通る碧眼をガルムに向ける。

 その視線には恐怖の二文字はなかった。


「……助けにだと?」

「そう! 1人じゃ危ないでしょ!」

「助けなんかいらない! 帰れ!」

「ーーなっ!?」


 少年の言葉に驚くフィリナ。

 どう見たって少年は危ない状況だ。

 六体のガルムを1人だけで相手するのは、上級の冒険者でも難しいはず……。

 そんな状態のはずなのに、少年が助けを断る理由がフィリナには理解出来なかった。


「お前は早く帰れよ!」

「ちょっと!?」


 少年はガルムに囲まれたままの状態で、目の前にいたガルムに向かって、持っていたフィリナの体よりも大きい剣を構え駆け出す。

 その駆け出しと共にガルム達は四方八方から、少年に向かって飛びかかる。

 だが、少年はそれを軽々しく躱した。

 そして隙を見せたガルムに向かって、大剣に力を込め、力強く振り下ろした。

 唖然としているフィリナの目の前で血飛沫が上がる。その後も少年は危なっかしいところを見せながらも、着実にガルムを倒す。

 少年はフィリナの方を向きニヤッと笑みを浮かべる。その表情を見てフィリナは、少年にイラつきを覚えた。少年がこのまま順調に行けばガルムの群れを倒すことは可能だろ。

 だが、現実はそう簡単にいかなかった。


『ワオーン、ワオーン!』


 残ったガルムが一斉に、魂を絞り出すように死に物狂いで雄叫びを上げたのだった。

 この声を聞いた瞬間、フィリナは本で見たことを直ぐに思い出した。

 危険に陥った時に叫ぶ声と同じ事を……。


「まずいッ! 早く止めないと!」


 フィリナは雄叫びを上げるガルムの首を容赦なく跳ねる。しかし、そんなフィリナを見て少年は文句を言うように言葉を述べた。


「お前! 助けはいらないって……」

「貴方! そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!? さっきの声は仲間を呼ぶ時に発する声なんだよ!」


 乱暴にフィリナは言葉を放つ。

 その勢いに少年は不機嫌に顔を顰めた。

 直ぐにフィリナ残っていたガルムに向かって剣を振り下ろそうとするが、ガルムたちは攻撃を諦め、避けるのに専念し出した。

 しかし、命を残すことに専念したガルムは先程とは違い、綺麗にフィリナと少年の攻撃を軽々しく避けたのだった。


「なんで当たんねえんだよ!」


 焦ったように武器を振り回す少年。

 ガルムは残り数体。

 吠えてからしばらく経つが数は減らない。

 もし、このまま長引けば確実に近くにいる仲間のガルムがやってくる。

 2人は焦りに焦っていた。

 その焦りがまたガルムたちの思惑にハマる。


『ワオーン、ワオーン!』


 二度目の雄叫び。

 その雄叫びの後に近くの林から咆哮が轟く。

 その雄叫びに返事をするように聞こえた。

 今、助けに行くと……。

 フィリナの首筋に冷や汗が溢れる。

 その雄叫びを聞いたのか、後方で馬車を守りながらガルムと戦っていた冒険者の3人が、ガルムを倒し終えたのかこちらに来る。


「お前ら大丈夫か!?」

「大丈夫と言いたいですけどマズイです」


 フィリナは他の冒険者に何があったか、手早く説明する。その説明を聞くと、ルイと呼ばれていた冒険者は、少年に近づき頬を殴る。


「ジーク! お前が何したか分かってんのか!? ここにいる全員や、馬車にいる人達を危険に晒している事を自覚しろ!」

「……こんなはずじゃ……俺は……アイツに」


 ジークは唇を噛み締め下を俯いた。

 そんなジークを見てルイは舌打ちを鳴らす。


「すまない俺たちのせいで、君に手を煩わさせてしまった挙句、危険に巻き込んで……」

「いいですよ、私は大丈夫です。あの人には少しだけイラつきましたが……」

「本当にすまない。生きてたらアイツをリーダーに教育し直してもらうよ」


 ルイを筆頭に他の冒険者は陣形を固める。

 それに合わせるようにフィリナも魔力を込み直して、剣を力強く握りしめた。

 林の方からガルムの遠吠えが響き渡る。

 すると、ニヤッと前にいたガルムが白い歯をら剥き出しにして嘲笑う。

 その途端、林から先ほどよりも多い数のガルムが雄叫びを上げながら向かってきた。


「お前ら来るぞ引き締めろ!」

「「はい!」」


 ルイたちは真っ先に剣を構えガルムに向かって攻撃を態と繰り出したのだった。

 そしてガルムの敵視を惹きつけた。

 だが、ルイたちは攻撃する余裕などなく、複数体のガルムの攻撃を守るのに必死だ。

 このままでは確実に此方が負ける。

 そう思ったフィリナは静かに深呼吸した。


「どこまで持つか勝負かな……よし!」


 やってやるぞと気合を引き締めるフィリナ。

 次の瞬間、ルイの目の前にいたガルムの首が宙を舞い、鮮やかな血が吹き荒れる。

 フィリナは転移を使ったのだ。

 しかし、フィリナが1日に使える転移は限られている。元々、転移は凄まじい魔力を消費するため、そう簡単に使えるものではない。

 フィリナはガルムを圧倒するため、転移を使い素早くガルムの死角を取り、首に向かって容赦無く剣を振り下ろしていく。

 次々にガルムの首が地面に落ちる。

 その度に噴水のように鮮血が噴き出す。

 それはまるで可憐なショーを見ているかのように鮮やかな光景だった。

 銀髪を靡かせ、舞を見せるかのように移動するフィリナ。そんなフィリナにルイを含めた冒険者や、ジークすら目を奪われていた。


『ガァァァラララッ!』

「……ッ! ちょっと……危ないかな!」


 ガルムは転移をさせないように複数でフィリナに飛びかかる。だが、フィリナは飛びかかるガルムの上に転移する。

 上空に転移するとは思っていなかったガルムたちは驚いたような唸り声を上げた。

 上空に転移したフィリナは、飛びかかる途中の無防備なガルムの体に向かって、落下の速度と合わせて片手に剣を持ち突き刺した。

 地面に足がつくと直ぐにフィリナは動く。

 俊敏な動きに圧倒させるガルム。

 その場はもうフィリナの独壇場だった。


『ガァァァァ! ガァァァァ!』

「ガウガウ、五月蝿いよ!」


 フィリナは次々にガルムを倒していく。地面には無数のガルムの死体が散らばっている。

 そしてあと言う間にガルムの数は残り数体になった。


「ふぅ……さて……残り数体かぁ……」


 しかし、フィリナにも限界が近づいていた。

 何十体のガルムを倒すためにフィリナは転移を何度も使った。

 それは両手では数えくれないほどに多い。

 それにフィリナは身体強化も怠っていない。

 すでにフィリナの魔力は限界が近かった。

 奥の手奥・の・手・を使えば簡単に済むだろう。

 だが、フィリナはこの手を絶対に使わない。

 絶体絶命のこんな状態でも、この手は使いたくないのだ。

 地面にポタポタと汗が滴る。

 フィリナは息を上げながらも剣を握った。


「はぁはぁ……行くよ!」


 フィリナは地面を強く蹴りガルムに向かって駆け出す。転移を使わずに真っ直ぐ進む。

 そしてフィリナはガルムに向かって剣を振り下ろす。しかし、ガルムはフィリナの攻撃を読んでいたかのように躱した。

 それはまるで先ほどの仲間を呼ぶために回避に徹したガルムのように素早かった。

 フィリナに嫌な予感が走る。


『ワオーン! ワオーン!』


 フィリナのその嫌な予感は的中した。

 ガルムは先ほどと同じように、魂から叫び声を上げる。死に物狂いで叫びを上げる。

 これがガルムが魔獣と呼ばれる由縁。

 危険になる度に仲間を呼ぶ。

 決して逃げる事なく仲間を呼び戦うのだ。


「……ッ! 今度は絶対にさせないよっ!」


 フィリナは天に向かって叫ぶガルムをどうにか倒そうとする。しかし、回避に徹しているガルムに攻撃は当たる気配はなかった。

 冷や汗が急に溢れてくる。

 フィリナの思考が何度も無理だと答える。

 それでもフィリナは諦めない。

 悔しそうにしながら唇を力強く噛み締める。

 そんなフィリナの様子を見て、先ほどまで圧倒され動けなかったルイたちが声を上げる。


「お前らッ! あの子に恩を返すために、今度は俺たちが力を出す番だ! 恩知らずになってなったらリーダーに殺させるぞ!」

「分かってますよルイさん!」

「リーダーなら殺しそうですからね!」


 そしてフィリナの援護をするように、ルイたちはガルムが避けれないように、移動先を塞いだのだった。


「君! 俺たちがガルムの移動先を塞ぐ! その隙にガルムを倒してくれ!」

「はい! ありがとうございます!」


 フィリナは忘れていた。

 自分一人だけで戦っているわけではないと。

 その瞬間、フィリナの目に希望が溢れる。


「そこだ!」

『ガァァァァ!?』


 逃げる場所を失ったガルムは次々にフィリナとルイたちによって倒されていく。そして、ガルムは残り一体になっていた。

 誰もが勝ったと思った。

 しかし、次の瞬間にガルムは異様な行動を取った。

 普通ではあり得ない。考えられない。

 ガルムはフィリナたちを無視して、馬車の方に一目散に駆け出したのだ。

 あり得ない行動に誰もが反応に遅れる。

 フィリナもガルムがこんな行動するとは考えていなかった。


「ーーまさか変異種なの!?」


 変異種。

 通常の種とは違う行動をし、違う特性を持ち合わせている魔獣のことを指す。

 あのガルムは間違いなく、変異種だった。

 急いでフィリナたちはガルムを追いかける。

 しかし、このガルム変異種の特性なのか、通常の種よりも明らかに早かった。

 フィリナは身体強化をより強め、馬車よりも速い速度でガルムを追いかける。

 風を切り、地面を抉りながら進むフィリナ。


「ま、マズイ!」


 ガルムはあと少しで馬車に辿り着く。

 ーーもう間に合わないと思ったその時。


「謝罪はしないからな……オラァ!」


 ジークがフィリナに向かってボソッと呟いたあと、持っていた大剣を思いっきりガルムに向かって投げ飛ばした。

 大剣は一瞬でフィリナを追い越し、馬車に向かうガルムの足を貫き地面に抉り込む。

 ガルムは急な攻撃により反応が遅れ、勢いを殺しきれなかったため、足が引きちぎれバランスを崩したように地面に体を擦り付けた。

 片足をなくしたガルムはその場で呻く。


「アンタには絶対に感謝しないからね」


 フィリナはジークに舌をベーッと出した。

 その後、足から血を流し、片足で立とうとするガルムの元にゆっくりと歩みを進めた。


「ごめんね……でも仕方ないから……」


 そうガルム囁くと、苦しみが来ないように、素早く呻くガルムの頭を切り落とした。

 フィリナは疲れたように天を仰ぐ。

 そして剣をゆっくりと鞘にしまう。

 すると、バタンと音を残し地面に背を向け、寝そべるように倒れ込んだ。


「あ……もう限界かな」


 フィリナの視界が朧げになる。

 徐々に周りの景色が薄くなり光が消えた。


ご覧いただきありがとうございます!

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