第一話
少し文章が変な気がします……。
また改変するかもしれません。
部屋の外から鳥の囀りが聞こえる。
空は快晴で、目を背けるほどに眩しい日光が、カーテンの隙間から差し込んだ。
光の先には1人の少女がベッドに横になっていた。
「すぅ……すぅ……」
すやすやと甘い吐息を吐く少女。
気持ちよさそうな寝顔だ。
しかし、段々と眠気が消えて来たのか、少女は目を擦り、体を起こし目を覚ました。
少女は目が覚めるや否や、慌てた様子で自身の部屋を何度も見渡していた。
「ここは……? そう言えば私……夢を……」
少女は小さく言葉を紡ぐ。
ーーだが、その瞬間。
少女の片目から頬にかけて水滴がこぼれた。
ポタポタと純白のシーツに落ちる。
「……ッ!」
少女は涙を乱暴に拭い、ベッドから飛び降りた。飛び降りた際、転びそうに体勢を崩しそうになるが、そんな事は気にした様子を見せず、部屋の扉から勢いよく廊下に出る。
廊下は左右のどちらにも長々と繋がっており、少女は少しだけ悩んだ表情を浮かべた。
だが、思い出したかのように、迷うことなく廊下を駆け出した。
「はぁはぁ……はぁはぁ……」
少女は力一杯に廊下を走った。
そして、ある部屋の前に辿り着く。
その部屋は自身の妹アリシアの部屋だった。
少女は礼儀を忘れガチャっと扉を開ける。
「……ッ! や、やっと……!」
少女は深く考えることをやめた。
心のまま、想いのままに……。
少女は寝ている妹に思いっきり飛びついた。
銀色の髪が空中で靡く。
「ーーグフッ!」
寝ていた妹が苦しそうな呻き声を上げた。
しかし、少女は涙を流したまま、少女の胸に頭を埋め込んだ。
プニプニの胸が少女をを包み込む。
「ちょ! お、お姉ちゃん!?」
「…………」
「や、やめてよ! 何で胸に顔を埋めてるのよ!?」
しかし、少女は胸に頭を何度も擦る。
「もう! どうしたのよお姉ちゃん……」
「アリシア……」
「な、何で泣いてんの!?」
少女は少し名残惜しそうにしながらも、アリシアの胸から頭を上げる。すると、アリシアの顔を見た瞬間、止まっていたはずの涙が、またしてもポロポロとこぼれ落ちた。
そんな姉の様子を見て、アリシアは驚きを隠せずにいた。
「……そ、そう言うアリシアだって……」
「ーーえ?」
アリシアはそっと自分の頬を触る。
すると、湿った水滴が手に当たったのだ。
何でか理由が分からず困惑するアリシア。
「な、何これ……何で止まんないの……」
涙が止む事はなく、時計の針を刻むかの如く、ポタポタっとシーツに落ちる。
……それもそのはずだ。
アリシアは自分が何で泣いているか分からない。いや、彼女は覚えていないのだ。
逆にアリシアの姉である、フィリナはアリシアとは別の少女の面影が見えていた。
この時、フィリナは何もかもを思い出した。自分自身が元は黒木 百合として生を受けていたこと、本当に地球とは別の世界に転生したこと、そしてアリシアは紫音の生まれ変わりだと言うことを確信したのだった。
フィリナにとってはあっという間の再会だったが、嬉し過ぎて涙が止まらない。
アリシアも紫音としての記憶は一切合切、残っていないはずだが、心が魂が覚えているのか、フィリナにつられ涙を流した。
「はぁ……やっと治った……」
アリシアは泣き疲れたのかため息を吐く。
そんな2人の目元は真っ赤に腫れ上がり、側から見ても泣いたとわかるほどだった。
「それで何であんな事したのお姉ちゃん?」
「い、いや……急に妹を可愛がりたくなっちゃって……ついやっちゃったぜ!」
「やっちゃったぜ、じゃないよ……何事かと思って心臓が止まりかけたんだからね?」
アリシアは、まるで幼い子供に言い聞かせるように説教をする。そんな説教を受け、姉であるフィリナはしゅんっと肩を低めた。
それからしばらくの間、アリシアの説教は終わる事はなかった。
***** *****
辺境の街『ストラケア』
人口は数百人程度で賑わいなど到底無縁の町。木工品が特産となっており、時おり商人が訪れる事がある。
街の外れには小さな森林があり、そこの木を加工し得ることにより立てている住人が多い。フィリナの父親も樵をしている。
このストラケアは他の地域と比べ、魔獣の実現が低く、危険性が高い魔獣もあまりいなく、安全地域と指定されているのだ。
そのため樵などの仕事が危険がなくできる。
また、採取した木を削ったり成形したり、加工を施す仕事は女性が担当する事が多い。
「ん……」
小さな庭付きの一軒家。
その庭にある2人くらいが座れる大きさのベンチにフィリナは寝転びながら、薄汚れた本を両手に持ち、集中して読んでいた。
本には『シアノの冒険譚』と彫られている。
このシアノの冒険譚は、小さい頃に子供が読む有名な本の一冊であり、今でも根強い人気を誇っている。
話の内容は1人の少女が、各地を回りながら、冒険者として色々な体験をし、時には強大な魔獣と戦ったり、迷宮と呼ばれる遺跡を探索し、秘宝を見つけたりするのだ。
元々、オタクだったフィリナとっては最高の本であり、この世界がどんな世界なのか調べるきっかけになった本でもある。
「やっぱり魔法を上手く使いたいなぁ……」
フィリナはパッと本を閉じ考える。
この世界には魔力と呼ばれるモノが存在し、多くのモノはコレを利用して魔法を行使する。
だが、魔法を使うには、主に魔法適性と自身の魔力保有量によって左右させるのだ。
魔法適性があるほど魔法の扱いに優れ、魔力保有量が多いほど、魔法を何度も使う事ができる。しかし、この世界での魔法使いは珍しく数十人に1人の割合でしかいないのだ。
もちろん、全ての人間に魔力は存在する。
しかし、それを上手く扱える人が少ないのがこの世界の現状なのだった。
「すぅ……」
フィリナは自身の独学で調べた方法で、自分の魔力を操る事ができるようになっていた。
彼女が今使っている魔法は身体強化と呼ばれるごく一般的な魔法であり、この魔法は大半の人間が使える事ができる魔法の一つだ。
この一般的に使える魔法は誰でも使えることから、この魔法を使える人間のことを魔法使いとは呼ばず、その者しか扱えない魔法、普通なら使えない魔法を使う者を魔法使いと定義するのが、この世界の常識だった。
「よし……このまま……」
フィリナは体に流れる魔力を手に集中させる。目には見えないが、フィリナは感覚だけで魔力が手に集まっている事を悟る。
そして拳を庭にあった的に向けて放った。
風を切るような音が響く。
すると、フィリナの拳は的に当たり、鈍い音を立て、少しだけ的が凹んだいた。
「…………やっぱ手痛ッ!」
フィリナの手を見てみると真っ赤に腫れ上がっていた。それでも先ほどの威力で殴っていた場合、普通は痣などができるはずだ。
腫れるだけで済んだのは身体強化がちゃんと使えていた証拠だろう。
「ん……身体強化は剣とか持たないとか……」
そう言いながらフィリナは、両親に作って貰った木剣を取りに家に戻ろうと振り返る。
すると、そこにはアリシアが立っていた。
「お姉ちゃん……さっきのは何の音なの?」
「ーーち、違うのよアリシア!」
「また魔法の特訓してたでしょ! 私が見てないところで練習しないでって言ったよね? また怪我でもしたらどうするの!」
アリシアは物凄い喧騒でフィリナを叱りつける。もう、フィリナが姉という事を忘れてしまいそうなぐらいの勢いだった。
「で、次は何しようとしてたの?」
「剣の練習を……」
「なら、私も手伝うから……いいね?」
「……はい」
フィリナはアリシアに言われるがまま、一緒に剣の練習をすることになった。
今更だが、なぜフィリナがここまで魔法を使う練習をしたり、剣の扱い方を練習するのかには理由があった。
ーー単純な事だ。
フィリナは憧れていた異世界に来て、シアノの冒険譚でも出ていたシアノと同じような冒険をしたいと夢を抱いたからだった。
前世からフィリナは憧れていた。
自由に世界を冒険することに……。
その為、この夢を追いかけるために努力する事は、必然であり当然だろう。
「やっぱりこの触り心地いいね!」
「もう、それ三本目でしょ……お姉ちゃんは剣を乱暴に扱い過ぎだよ……」
2人は剣を取って戻って来る。
フィリナの剣は一般的な形の木剣を持ち、アリシアは小さい短剣のような木剣を二本手に握りしめていた。
「じゃあ、準備はいいお姉ちゃん?」
「うん。私は本気で行くから、アリシアも本気で来てよ!」
フィリナとアリシアは互いに剣を構える。
どちらの剣も相手の方向を向いていた。
もちろん、本気で切り合うが、怪我をしないように寸止めをする。
「それじゃあ行くからね、アリシアっ!」
フィリナは身体強化の魔法を使い、勢いよく地面を蹴り、剣を構えアリシアに向かった。
フィリナが蹴った地面は土が抉れていた。
そして、風を切り裂きながらフィリナは身体強化で魔力を込めたまま剣を振り下ろした。
ーーガンッ!
何かを殴ったような鈍い音が響き渡った。
砂埃が立ち上げ、何が起こったのか鮮明には見えない。だが、徐々に何が起きたのかが鮮明にわかり始めた。
「やっぱり止めるよね……」
「私のこと舐めすぎだよ、お姉ちゃん」
そこにはフィリナの剣を両手に握りしめた短剣で抑えるアリシアの姿があった。
ギリギリと擦れた音が聞こえる。
アリシアは短剣でフィリナの剣を抑え、隙ができた腹に向かって蹴りを繰り出す。
「……ふぅ、危ない危ない」
だが、アリシアの蹴りは空振りに終わる。
「お姉ちゃん、転移の魔法使えたんだ」
「まぁね。まだ、数回しか使えないけどね」
そう、フィリナは先程のアリシアの蹴りを、転移の魔法を使い避けていたのだ。
転移の魔法は使える人がほとんどいない、大変珍しい魔法であり、使うには膨大な魔力を必要とする魔法の一つ。
それをフィリナは先ほど使った。
転移の魔法はフィリナの場合、自身の視界内に移動する能力となっている。
コレを利用し、フィリナはアリシアの後方に一瞬にして移動したのだ。
「じゃあ私も魅せようかな」
そう言いながらアリシアは短剣を構え、自身の姿勢を低くする。そして、力強く地面を蹴った瞬間、その場に強烈な風が吹き荒れた。
「ちょ!? なんでアリシアが魔法を!?」
それは風魔法の特徴だった。
アリシアは風魔法と身体強化を利用し、瞬間移動にも思える速度でフィリナに向かって短剣を振る。
風魔法とは風を操る魔法であり、風属性の魔法適性が無ければ使う事が出来ず、さらに魔力を属性に変換させるのは、魔法適性があっても難しい事なのだ。
アリシアはそれを最も簡単に使った。
彼女は魔法適性や魔力操作が常人以上にも優れている事がハッキリとわかる瞬間だった。
「私も練習してるんだよ! お姉ちゃん、と一緒に冒険者になりたいからね!」
「そっか……じゃあ思いっきり行くよ!」
そこからはどちらも先ほど以上よりも力を出し、側から見たら死合いをしているようにも見えただろう。
ーーそれぐらいに白熱していた。
フィリナとアリシアの勝負は数時間にも及び、結果はアリシアの魔力切れで勝負が決まった。
もし、フィリナに転移の魔法のような強力なモノが無ければ瞬殺だった筈だ。
そのくらいにアリシアは強かった。
「はぁ……お姉ちゃんにはまだ勝てないか」
「危なかった……まさか、アリシアが風魔法使ってくるとは思わなかったし、それに身体強化も私よりも上手く使ってくるとは……」
そうアリシアは練習こそしていたが、フィリナに比べると練習期間など確実に劣る。
しかし、その時間を埋めるかのような才能がアリシアにはあった。
「いいなぁ……属性魔法使えて……」
「お姉ちゃん、転移使えるなら、他の魔法とか適性あるでしょ?」
「それが転移を使えるからなのか、はたまた私がこんな体質だからなのか、転移以外は身体強化しか使えないんだよね」
フィリナは普通の人とは違う。
もちろんフィリナは人間だ。
しかし、フィリナは特異者と呼ばれる部類の人間である。特異者とは、通常の人が絶対に持ち合わせる事がない体質を持ち合わせている人のことを特異者と呼ぶ。
フィリナは吸血姫と呼ばれる体質で、他の人と比べると魔力保有量が数十倍も違うのだ。
それ故、昔は多くの吸血姫や他の特異者が差別や偏見に遭っていた。
今では特異者は他の人々からの偏見の眼差しや差別などは昔に比べ少なくなった。それは冒険者と呼ばれる職業のおかげだ。
特異者の多くは冒険者として、普通の人よりも活躍する機会が増える。それに、かの有名な『シアノの冒険譚』にも登場する、シアノも特異者だったのが大きいだろう。
「そうなんだ……いつか使えるようになるといいね」
「うん、そうだね」
2人は疲れ果てその場に大の字で寝そべる。
「ねぇ……アリシア」
「……なに?」
「その、今言う事じゃないと思うんだけど」
フィリナはアリシアの方を向く。
表情は少し照れていたが目は真剣だった。
「さっき私と冒険したいって言ってたじゃん。あれって……その……本当?」
「うん。本当だよ。私はお姉ちゃんと一緒に冒険したい。お姉ちゃんと一緒に笑ったり、泣いたり、楽しみを共有したい」
フィリナの真剣な眼差しと一緒で、答えるアリシアの眼差しも真剣そのものだった。
心から話しているとわかるほどに……
「そっか。それじゃあ……こほん……」
フィリナは疲れている体を無理やり起こす。
そしてアリシアの方に体を向き直し、
「私と一緒に冒険者になってくれる……?」
「うん! もちろん!」
「即答って……ちょっとは悩んでよ……」
フィリナは嬉しそうにしながら言葉を紡ぐ。
そんなフィリナの様子を見て、アリシアも微かに頬を上げた。
そして2人で互いの顔を見合って、何故か笑い声が溢れ出したのだった。
***** *****
それから四年の何月が経過した。
街などに大きな変化は何もなかった。
平穏な四年間と言ってもいいだろう。
「……本当に2人とも行くのか?」
「うん。元々決めてた事だから……」
小さな鞄を肩から下げ、両親と向き合うフィリナとアリシアの姿がそこにはあった。
2人とも四年の年月が経ち、フィリナは前よりも少し身長が伸び、銀色に靡く髪も肩まで長くなっていた。逆にアリシアは銀色の髪を耳元辺りまで短くなっている。
だが、身長は四年前までは同じくらいだったのに、今ではアリシアの方が高く、胸も前よりも豊かに育っていた。フィリナの胸はいまだに膨らみ中なのかぺったんこだ。
「そうだったな……」
父親は懐かしくもどこか寂しく言葉を呟く。
そんな父親の側で母親は涙をハンカチで何度も拭き、フィリナとアリシアの頭を優しく撫でていた。
「2人とも気をつけてね。それに偶には顔見せに帰ってきてね……」
「うん。わかってるよママ」
「アリシア、フィリナをお願いね。絶対に無理させないように目を光らせててね」
「ちょ!? ママッ!?」
母親に撫でられながら驚きを隠せずに、フィリナは母親を見つめていた。
そんなフィリナを見て両親とアリシアは仲良く微笑んだ。
「分かってるよママ。お姉ちゃんはちゃんと私が見てるから、だから心配しないでね」
「ちょ! あ、アリシア!? 私、お姉ちゃんだよ? 姉なんだよ……ねぇ!」
フィリナは真顔でツッコミを入れる。
そんな様子を見てまた3人は笑みを浮かべた。
「じゃあ、そろそろ時間だから行くね」
「気をつけてね! フィリナ、アリシア」
フィリナとアリシアはもう一度、父親と母親を抱きしめ、2人に背を向ける。
そして身をくられながら、16年の間も過ごした実家を離れて行く。後ろから両親の声が届いてくる。その度に涙が込み上げた。
それでも2人は小さく歩みを進めていった。
「お姉ちゃん、この馬車であってる?」
「うん。この馬車のはず……」
2人がいたのは、この『ストラケア』で唯一の馬車乗り場だった。
フィリナは事前に乗車券を買っていた。
「すいません、コレってここであってます?」
「この馬車であってるよ。席は自由だから、好きな場所に座っておくれ」
フィリナは2人分の乗車券を御者のオジサンに渡し、小さなトランクを持ち馬車に乗り込む。
「おぉ、意外に広い……」
馬車の中は意外にも広く、天井も高かった。
2人は窓の前の席に座り込んだ。
「いよいよだね、アリシア」
「そうだね、お姉ちゃん」
コクっと静かにアリシアは頷いた。
目的地は『冒険都市アストルフィール』
初めて冒険者になるならこの街がいいと言われるほどに有名な場所であり、冒険者ギルドがある場所だった。
「いざ! アストルフィールへ!」
先頭の馬車がゆっくり進み始める。
そして2人の夢も歩みを始めるのだった。
ご覧いただきありがとうございます!