幕間 1
棋士団『祭り』とひと悶着あった次の日の朝。将暉のリアルでのはなしです。
初めてWSCへログインした翌日。
何故か早朝に目が覚めた。具体的には6時。時には昼過ぎまで寝ている俺からすれば驚異的な記録だ。と言ってもカーテンを閉め忘れただけなのだが。
俺は寝ぼけた頭を冷水で流し、一度部屋着に着替えてから食卓へ向かった。
そこにはいつも通り5時起きの祖母によって用意された白米に鮭の塩焼きとみそ汁という和食の基本定石が添えられていた。基本定石などと言ってしまうあたり、やはりまだ寝ぼけているのかもしれない。
「おはよう。……徹夜?」
ここでまず早起きした、という発想が無いのが祖母の俺に対する信頼の証である。
「おはよう、カーテン閉め忘れた。じいちゃんは?」
「畑の手入れに行ったよ」
「まあそうか」
俺の両親は8年前に事故で他界し、それ以来祖父母の家で暮らしている。無駄に広い木造建築の家で周囲には畑という絵にかいたような田舎であるが、仮想世界での流通が可能になった現在では大して不自由なく生活できる。
……いや、むしろ自由な生活をさせてもらっているというべきだろう。
祖父が早朝畑仕事へ出向いていたことは予想がついていたが、改めて祖母の口からその事実を聞いて多少安堵する。数日前にWSC絡みで悶着があったばかりであり、少々気まずいのだ。
俺が軽く手を合わせて箸を着け始めると祖母は洗い物をしながら質問してきた。
「入学式の準備はもう終わったの?次の月曜日が入学式だったわよね」
「ああ。昨晩終わらせたから大丈夫」
口に広がる鮭の香りとちょっと濃い塩味を堪能しながら箸を進める。
「他に必要なものはなかったっけ?」
「入学手続きの時に書類は大体送ったから事務的なものは問題ない」
「そう」
祖母はそう言って話題を切った。洗い物が終わったようだ。
それから俺は朝食に集中した。
食後に俺が食器を流しへ持っていくと祖母が少し躊躇いがちに声を掛けてくる。
「爺さんもね、別にアンタが憎くてあのゲームを嫌ってるんじゃないんだよ」
今更な話だ。俺は間髪を入れずに答える。
「分かってるよ。娘夫婦の死因があれじゃあな。ただ……」
俺はそこで一度言葉を区切る。この先を言っていいのか分からなかったからだ。
だが、結局いら立ちを抑えきれなかった。
「そろそろ現実を見るべきだとは思う」
「そうね」
湯飲みに映る朧げな自分の姿から目を逸らすと、どこか寂しそうにこちらを見ていた祖母と目が合う。
俺はその視線から逃れるように階段を上がり自分の部屋へ向かった。
電源を入れ手袋やヘルメットを装着する。
再びあの忌々しい世界へと向かうために、俺は目を閉じた。
いかがでしたでしょうか。短い?私もそう思います(笑)
実はもう少々キャラクターを登場させるつもりでしたが、ややこしくなるので止めました。自分、人の名前を覚えるのが苦手ですので……。
続きは今週中には出すつもりです。
聖稜館とは何なのか。称号とは?
今後もお楽しみいただけると幸いです!